“最悪のトラッシュトーカー”レジー・ミラーの真実の顔。歩行障害を持つ少年がスターとなるまでの軌跡【NBAレジェンド列伝・前編】

“最悪のトラッシュトーカー”レジー・ミラーの真実の顔。歩行障害を持つ少年がスターとなるまでの軌跡【NBAレジェンド列伝・前編】

ミラーが絶えずトラッシュトークを仕掛けていたのは、ある理由があった。(C)Getty Images

現在、NBAでスーパースターと呼ばれる選手たちの多くはオールラウンドなプレースタイルだ。レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)やヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)はもちろん、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)やラッセル・ウエストブルック(ヒューストン・ロケッツ)といったポイントガードもチームの得点源になっている。一昔前にはブルース・ボウエン(元サンアントニオ・スパーズほか)のように、守備のスペシャリストとして評価の高い選手たちはいたが、スーパースターとまでは言えなかった。

 となると、たったひとつの得意技でスーパースターと認められていた選手は、レジー・ミラーが最後かもしれない。ミラーはプレーメーキングもリバウンドも得意ではなかったし、ディフェンス面でも名を知られてはいなかった。そんな彼が18年間にわたりNBAで輝かしい実績を残し続けてこられたのは、すべては正確無比なシュート力の賜物だった。
 ■“偉大な姉の弟”という縛りを見事払拭し、一流のNBA選手へ

 ミラーは生まれつき足が悪く、4歳になるまで矯正器の助けがなければ歩けなかった。それでもやがて運動ができるまでに回復すると、兄弟たちと一緒にスポーツに親しむようになる。

「家族みんなが仲の良い、理想的な家庭」だったミラー家はスポーツ一家で、兄のダレルはMLBカリフォルニア(現ロサンゼルス)・エンジェルスの捕手、姉のシェリルは女子バスケットボール界のスーパースター。1984年のロサンゼルス五輪で金メダルを獲得した偉大な姉との1オン1によって、ミラーの技術は磨かれていった。

「どこに行っても“シェリルの弟”としてしか扱われなかったよ。姉さんの陰から抜け出すのは、人生で最大の難関だった」

 名門UCLAに進学したミラーは、4年間で2095点を記録。これは数多くの名選手を送り出した同校の歴史でも、ルー・アルシンダー(現カリーム・アブドゥル・ジャバー/元レイカーズほか)に次ぐ数字だった。
  しかし、それでもNBAのスカウトたちは“ミラーは痩せすぎていて、NBAレベルの体力がない”と評価。理想的なフォームから繰り出されるシュートの才能は誰もが認めていても、それ以外の総合的な能力が不足していると見ていたのだ。

 1987年のドラフトでは、1巡目11位でインディアナ・ペイサーズから指名を受ける。地元インディアナ大の人気者で、ロサンゼルス五輪代表のスティーブ・アルフォードの獲得を希望していたファンからは不満の声が渦巻いたが「いいプレーさえすれば、彼らも僕のことを好きになってくれるとわかっていたから」と本人は気にしていなかった。

 その言葉通り、ミラーがファンの心を掴むまでに時間はかからなかった。懸念された体力面の問題もなく、1年目からレギュラーシーズン全82試合にフル出場。その細い身体には、見た目以上の強靭さが秘められていた。

 NBA選手たちの強い当たりにも怯むことなく、ディフェンスをかいくぐってオープンになると、速射砲のごとき素早いリリースで確実にゴールを射抜く。ルーキーイヤーは平均10.0点をマークしたほか、61本の3ポイントを沈め、ラリー・バード(元ボストン・セルティックス)の持つ新人記録を更新してみせた。
  キャリア3年目には平均24.6点の高得点を叩き出し、オールスターにも初出場。ところが、実力に見合った人気はなかなか得られず、むしろ“嫌われ者”と表現した方が近かった。ミラーはリーグでも最悪のトラッシュトーカーの1人であり、相手選手やファンの感情を逆撫でするような発言を好んでしたからだ。

「僕は小さい頃からトラッシュトークをしていた。身体の大きなヤツに倒されても『もっと強くやってみな!』とか言っていたよ。相手を愚弄するのが目的じゃなくて、自分自身を奮い立たせるためにやっているんだ」

 もっとも、実際のミラーは性格の曲がった人間ではない。自分の業績を誇らしげに吹聴することもなく、常識をわきまえ、私生活上のトラブルも皆無に近かった。
  ペイサーズのヘッドコーチ、ラリー・ブラウンも「別のチームのコーチだった時は、レジーをとんでもない奴だと思っていたが、今ではまともな男だとわかったよ。まあ、できれば黙ってプレーしてほしいとは思うが」と話していたほか、さらにこうも付け加えていた。

「信じられないかもしれないが、レジーは自分に自信を持てない人間なんだ。NBAでプレーしていることを当然だとは受け止めていないんだよ」
  これこそが、ミラーが一流選手になった真の理由だ。少しくらい実績を残しただけで慢心し、技術を磨くことを怠り始める選手が多いなか、彼は自らの到達しうる限界点をわずかでも上げるべく、研鑽を惜しまなかった。生まれつきの障害に苦しんだ経験を持つ彼にとって、当然のことなど存在しないのだろう。トラッシュトークも、そうした一面を見せないための手段だったのかもしれない。(後編に続く)

文●出野哲也

※『ダンクシュート』2008年7月号掲載原稿に加筆・修正。

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