NBA1年目からブロック王に。スーダンが生んだ身長231pの“野生児”マヌート・ボル【NBAレジェンド列伝・前編】

NBA1年目からブロック王に。スーダンが生んだ身長231pの“野生児”マヌート・ボル【NBAレジェンド列伝・前編】

85年にデビューしたボルは231cmの長身を武器にディフェンスで存在感を発揮。1年目から平均4.97ブロックを叩き出し、タイトル王に輝いた。(C)Getty Images

■NBAを目指しアメリカに渡った身長231cmの野生児

 何とか再開に漕ぎつけた2019-20シーズンのNBAで、8月1日に1人の新人選手がデビューした。スーダン出身の20歳、デンバー・ナゲッツのボル・ボル。ちょっと変わった響きの名前を持つこのセンターの父もまたNBA選手だった。

 NBAで10年プレーしたマヌート・ボルの通算成績は、平均2.6点、4.2リバウンドでしかなかった。しかし彼の知名度は、そうした数字から想像されるよりもはるかに高かった。その理由はいくつかある。身長231cmで、NBA史上最も背の高い選手の1人だったこと。その長身を利して、ブロックショットを山のように積み上げたこと。そして現役引退後、母国スーダンのために人道的な活動に従事したことである。
 
「マヌートがフィラデルフィアの街に、わが球団に、そしてこのスポーツにもたらしたインパクトの大きさは、言葉では言い表わせない」(フィラデルフィア・セブンティシクサーズの元GM、エド・ステファンスキー)

 バスケットボール・コートの内外で、彼は文字通り大きな存在だったのだ。
  ボルは背が高いことで有名なディンカ族の出身である。

「父の身長は203cm、母は208cm。曾爺さんなんか240cmもあったらしいよ」

 どこまで真実なのかはわからないが、とにかく彼の身長が遺伝によるものだったのは間違いない。族長の家系だったボル家は比較的裕福で、150頭もの牛を飼育していた。少年時代に学んだのは読み書きではなく、牛皮の剥ぎ方や、牛を襲うライオンに槍を投げて仕留める方法だった。

 そんな正真正銘の野生児が、従兄弟の勧めでバスケットボールを始めたのは15歳の時だった。なにしろこの身長だから、リバウンドもブロックも思いのまま、ダンクをするのもわけはなかった。数年後、首都ハルツームで軍のチームでプレーしていた頃、スーダン・ナショナルチームのアメリカ人コーチに目をつけられたボルはアメリカへ渡った。

■長身の特性を存分に生かしNBA1年目でブロック王に

 まだ大学で1試合もプレーしていなかったボルを、1983年のドラフトでサンディエゴ(現ロサンゼルス)・クリッパーズは5巡目で指名した。もっとも、資格に不備があったためこの指名は無効とされる。84−85シーズンはブリッジポート大で平均22.5点、13.5リバウンド、7.1ブロックの目覚ましい活躍を演じ、マイナーリーグのUSBLでも25試合で平均11.2ブロックを記録した。
  NBAのスカウトたちの評価は真っ二つに分かれた。あまりにも細すぎ、荒削りすぎるとして敬遠するチームがある一方、驚異的なウイングスパンとブロックの能力に魅せられる球団もあった。ワシントン・ブレッツ(現ウィザーズ)は後者だった。85年のドラフト2巡目でブレッツから指名され、ボルは晴れてNBA入りを果たした。

 ボルのブロックはNBAでも十分に通用した。どんなシュートが放たれようとも、モグラ叩きのように次々と跳ね返すさまは壮観だった。80試合に出場し、リーグ最多の397ブロック。これは今でもリーグ史上2位の本数で、もちろん新人としては最多記録である。ボルがペイント内で腕を上げているだけで相手は攻め込めず、攻撃のリズムが狂ってしまった。同年はオールディフェンシブ2ndチームに選ばれ、最優秀ディフェンス賞の投票でもわずか5票差でアルビン・ロバートソン(サンアントニオ・スパーズ)の次点だった。
  ユニークなプレースタイルと、“動くチョコレートポッキー”のような見た目、そして明るくフレンドリーな性格で、ボルはたちまち人気者になった。コマーシャルやテレビ番組の出演依頼も殺到し、気を良くしたブレッツは翌86−87シーズン、身長160cmのマグジー・ボーグスを入団させ、身長差71cmの凸凹コンビで売り出そうとした。

 だが、ボルにはやはりバスケットボールの経験が致命的に不足していた。攻撃面では足手まといになり、身長のわりにはリバウンドも少なかった。ブロック以外にできるのはトラッシュトークだけの一芸選手は、次第に出場時間を減らされていった。(後編に続く)

文●出野哲也

※『ダンクシュート』2010年9月号掲載原稿に加筆・修正。

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