新プログラム投入のチャンスを失った紀平梨花。相次ぐ大会中止によるスケーターへの影響は?

新プログラム投入のチャンスを失った紀平梨花。相次ぐ大会中止によるスケーターへの影響は?

今季から新プログラムに挑戦している紀平。フランス杯が中止となり、今後の予定は明らかになっていない。(C)Getty Images

先月23日に今季のグランプリ(GP)シリーズが開幕。第1戦・スケートアメリカは無事に無観客で行なわれ、新型コロナ禍の中で何とかフィギュアスケートの北京五輪プレシーズンが始まった。しかし、第2戦のスケートカナダと第4戦のフランス杯の中止が決まり、現時点ではGP大会はすでに開催されたスケートアメリカを除けば5戦中3戦が行なわれる予定である。

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 そんな中、フランス杯に出場を予定していた紀平梨花や宇野昌磨らはGP大会出場の機会が失われた状態だ。ショートプログラム(SP)、フリーともに新しいプログラムに挑戦している紀平にとっては、実戦でのお披露目がなくなったわけだが、先日放送されたテレビ朝日の報道ステーションで紀平は現在の心境についてこう答えていた。

「大事な試合を多くこなしていきたいと思っていたので、それがなくなってしまったのはちょっと経験が少なくなってしまうなというのはあるんですけど、フランスの状況を見ていたので(大会中止は)感づいてはいました…。(いまの状況については)びっくりしたり、いろんな気持ちにはなったりしたけど、調整する時間や日を設けずに毎日追い込んでやるべきことをずっとこなせるし、やっぱり試合がない方が(しっかり練習を積めるので)すごく強くなれるメリットがあると思っています」
  大抵の選手はシーズンオフに作った新しいプログラムをシーズンインまでの約4か月で滑り込み、シーズン中は実戦を通しての経験や審判員からの評価を参考に、プログラムを完成形に近づけていく。しかし、新型コロナ禍によりイレギュラーなシーズンとなった今季は、ほとんどの国際大会が見送られ、やっと先月下旬にGP大会が1戦行なわれただけというのが現状だ。紀平は出場予定だったフランス杯がなくなったことについてのメリットを語ったが、スケーターにとって試合がなくなることのデメリットは何だろうか。

 これまでの取材経験から推測すれば、けがで戦線離脱後に復帰した選手のほとんどが口にしていた@試合勘の喪失、A緊張感の中で演技ができないこと、B競い合いの経験が不足すること、C試合ごとに受ける審判員の評価をプログラムや練習に反映できないこと、などが挙げられるだろう。

 ただ、実戦機会がなくても、紀平のようなトップ選手は立ち止まっているわけではない。本人がSNSで配信していたジャンプ練習などを見る限り、一番の武器であるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)、新たな武器となる4回転サルコーは安定感が増していたし、ルッツ+ループの連続3回転ジャンプも跳ぶなど、ジャンプにキレの鋭さが見えた。昨季まで試合で1度挑戦して決められなかった大技もほぼ身につけており、いまは精度をさらに磨いている段階のようだ。
  いかに滑り込むかが演技やプログラムを完成させる上で最も重要なことであるのは間違いない。それだけに、試合に出場する機会がなくなった現状を嘆くよりも、どう練習に取り組むかどうかで、次戦に向けてのモチベーションも高まり、演技も深まり、プログラムをより完成形に持っていけるはずだ。

 今季の新SP「The Fire Within」は、新進気鋭のフランス人振付師であるブノワ・リショー氏が作った。見せ場は片手で側転してから全身を躍動させながらのダイナミックなステップで、女子選手では見たことがない斬新な振付が目を引く。氷上でこの美しい片手側転ができるのは、紀平が身体能力の高さを発揮しているからだろう。さらに新フリー「Baby, God Bless You」は、宇野や島田高志郎が師事するステファン・ランビエールコーチに振り付けてもらった。現在も、ランビエールコーチが指導を行っている拠点地スイスで調整に励んでいるようだ。

 22年の北京五輪を考えるとなるべく実戦経験を積んでいきたい今季だが、本人は「(北京五輪は)理想の演技がしたい気持ちが強い。『目標の自分の像』があるので、それに向けて練習をずっと続けていくことは変わらないし、今できることをどんどん積み重ねていくしかない」と冷静に語る。
  表現力で一皮むけたSPとフリーを作った紀平のプログラムが、いつお披露目となるかは現時点ではまだ分からない。すでに、12月のGPファイナル(北京)は延期、来年2月の四大陸選手権(シドニー)は中止となっているが、同年3月の世界選手権(ストックホルム)は開催を予定している。この代表になるためには、12月下旬に開催予定の全日本選手権(最終選考会)への参加が必須だ。

 ただし、今季GP大会に欠場を表明した羽生結弦のように実績のある選手が、もし全日本選手権も欠場することになっても、「過去に世界選手権で6位以内に入賞した実績のある選手がけがや感染症などでやむを得ない理由で不参加になった場合は、該当選手の成績を選考基準に照らして評価し、世界選手権時の状態を見通しつつ、選考することがある」という。ちなみに、紀平はシニアデビューシーズンの一昨季初出場した世界選手権で4位になっており、昨年の全日本選手権優勝など、諸々の選考基準もクリアしている。

 新たな挑戦のシーズンに臨む彼女の活躍が楽しみなだけに、できれば12月の全日本選手権ではぜひともそのレベルアップした演技が見られることを願いたいところだ。

文●辛仁夏 YINHA SYNN
1990年代に新聞記者となり、2000年代からフリーランス記者として取材活動を始め、現在に至る。フィギュアスケート、テニス、体操などのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材する。

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