ジュリアス・アービングーー。コート内外で模範的な紳士だった華麗なるダンク・アーティスト【NBAレジェンド列伝・前編】

ジュリアス・アービングーー。コート内外で模範的な紳士だった華麗なるダンク・アーティスト【NBAレジェンド列伝・前編】

人々に“ダンク・アーティスト”として記憶されているアービングだが、優れた人間性も賞賛の的だった。(C)Getty Images

ジュリアス・アービング。“ドクターJ”の異名でも知られるこの選手の名前を聞いた時、10人中10人が華麗なダンク・アーティストを思い浮かべることだろう。

 そうした認識が間違っているわけではない。引退して30年以上過ぎてもなお、アービングのダンクは現代の選手やファンに鮮烈な印象を与え続けているからだ。けれども、そうした一面が強調されるあまり、彼がどれだけ選手として、そして人間として優れていたのかが忘れられかけている感もなくはない。
 ■ダンクを新しい芸術へと昇華させたアービング

 “ドクターJ”のニックネームの由来は、アービングが友人の1人をプロフェッサー(教授)と呼んでいたのに対し、その友人からドクター(博士)と名づけられたというものだ。そしてプロ入りに際し、それにジュリアスのJを加えた“ドクターJ”が誕生。バスケットボールのプレースタイルを反映したものではなかったが、卓越した技術と品格を備えた彼にはぴったりだった。

 高校時代までは大して注目された選手ではなく、マサチューセッツ大に進学後に平均20点、20リバウンドを記録するようになっても、まだ真価は発揮されていなかった。当時のNCAAでは、試合中のダンクを禁止していたためである。その頃のアービングを知る『ボストン・グローブ』紙の名物記者、ボブ・ライアンは「プロでもリバウンダーとしては通用するな、という印象だった。あのような選手になるとは想像できなかった」と回想する。アービングがただの好選手でなく、バスケットボールの歴史を変える存在であるとは、プロ入りするまでわからなかった。

 1971年、アービングはNBAのライバルリーグだったABAのバージニア・スクワイアーズに入団。その恐るべき才能は、トレーニングキャンプの初日に明らかになった。当時スクワイアーズのフロントで働いていたジョニー・“レッド”カーの脳裏には、その時の記憶が鮮明に残っている。

「シュートがリムに当たって高く跳ね上がり、何人かがリバウンドに跳んだ時だ。ジュリアスはほかの誰よりも高く跳び上がり、そのまま空中で止まって片手でボールを?み、リングに叩きこんだ。みんなが唖然として、アリーナが静まり返ったよ」
  カーは記者たちに、この男は殿堂入りする選手になると触れ回った。それが誇張ではないことは、実戦が始まると誰もが納得する。218cmの長身を誇るアーティス・ギルモアの頭越しのダンク、ブロックショットに跳んだ3人の選手をジャンプしながらかわして決めたリバースレイアップ……。空中で自由自在に身体を動かせる彼の特異な能力は、まさに常識破りだった。 それまで長身選手が力任せに決めていたダンクを、 アービングは芸術性あふれたものに生まれ変わらせたのだ。

 保守的なプレーが主流だったNBAに対抗するため、ABAでは派手なプレースタイルを前面に押し出していたのも、アービングにとっては幸いだった。1年目から平均27.3点を記録し、 リバウンドも15.7本。並み外れたジャンプ力に加え、腕が非常に長く、おまけにボールを楽々と?めるほど手が大きかったことが、ビッグマン並みの本数を奪えた理由だった。

 翌年にはスクワイアーズとの契約が 残っていたにもかかわらず、アトランタ・ホークスと年俸200万ドルの好条件で契約。その直後にミルウォーキー・バックスもドラフトでアービングを指名したため、3球団の間で彼の保有権を巡って大騒動になる。結局、 司法の判断でスクワイアーズに戻ったが、「あの頃ホークスにはビート・マラビッチがいたんだ。私と彼が一緒にプレーしたら、さぞかし興味深いチー ムになっただろう」とアービングは残念がった。
  プレーだけでなく、素晴らしい人間性も賞賛の的だった。「試合が終わって1時間ほど経った頃だ。50人ほどの子どもたちが客席に残っていたので、 何事かと思ったらジュリアスがサインをしていた。 周りに記者なんていやしない。彼はそうしたいからしていたんだ」 (ABAのカロライナ・クーガーズ元ゼネラルマネージャー、 カール・シアー)。

 その姿勢はファンに対してだけではない。 取材陣の質問にも時間を割いて丁寧に答えたほか、コート上でも紳士的な態度を崩さず、レフェリーの判定にも文句を唱えなかった。どれほど派手なプレーを決めても、自慢げに振る舞うこともなかったのだ。(後編に続く)

文●出野哲也

※『ダンクシュート』2009年1月号掲載原稿に加筆・修正。

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