競技用義足・ブレードで最先端を走るミズノと今仙のカーボン技術
2021年10月01日 07時00分WANI BOOKS NewsCrunch
今夏、東京ではオリンピックに続いて熱戦が繰り広げられたパラリンピックでも、ミズノの技術が光っていた。ここでは、陸上競技で使用されるブレード(競技用の義足)の開発事例をブランド戦略コンサルタント・村尾隆介氏が紹介する。
※本記事は、村尾隆介:著『ミズノ本 - 世界で愛される“日本的企業”の秘密 -』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
■自分たちで競技用具をつくっていたパラアスリート
パラリンピアンたちがメディアに登場する機会が増え、パラスポーツ(障がい者スポーツ全般)の存在は、どんどん身近になっています。
そのなかでもパラ陸上……さらにいえば走り幅跳びや短距離走は、義足の進化と、その進化したアイテムを使いこなす選手、そして選手たちの日々の努力のケミストリーが止まらず、オリンピアンたちの記録を抜く勢いです。
実際、走り幅跳びで右脚膝下を切断した選手が、オリンピック選手たちと同じ大会に普通に出場し、チャンピオンになるということが、すでに2014年に起こっています。
「カーボンのミズノ」ともいわれるミズノの技術は、パラスポーツにも向けられています。ミズノはスポーツ競技用のカーボン製のブレードを開発。2016年に初めて選手に履いてもらいました。

▲スポーツ用義足KATANAβ 出典:『ミズノ本』(小社刊)
「ブレード」とはカーボンでできた競技用の義足。「板バネ」とも呼ばれます。その名のとおりに見た目は“板状”。選手が踏み込む脚の力を反発力に変えるバネの役目を果たします。
それまでパラ陸上の世界で板バネといえば、ドイツとアイスランドのブランドが2強で市場を独占。小柄で体重が軽い日本の陸上選手の多くも、海外製の板バネで競技していました。
ミズノがブレードづくりでタッグを組んだのは、もともと義足や車いすを製造販売していた岐阜の今仙技術研究所。今仙技術研究所は、日常に使う義足の取り扱いがメインでしたが、2002年からスポーツ用の義足にも着手。
開発から1年後の2008年・北京パラリンピックでは、今仙技術研究所の板バネで山本篤選手が走り幅跳びで銀メダルを獲得した実績を持っています。
この共同開発のなかで、はじめにミズノが強みを発揮したのは動作解析。次には陸上スパイクのソールの部分。つまり、義足と地面の接点の部分です。
僕の友人のパラアスリート(車いすマラソン)もそうですが、パラスポーツで活躍する人たちの一部は、自分たちで工夫して競技の用具をつくっています。その友人をそばで見ていて「これは工作の能力も必要だな」と思うほど、空いている時間は、常に自分の用具を接着剤やペンチを片手につくっていたことを覚えています。
実際、陸上トラックを板バネで走るパラ選手のなかにも、市販の陸上スパイクのソール部分を自分でカットし、その厚さをミリ単位で調整しながら、接着剤で板バネの底にくっつけるという作業をする選手もいるそうですが、これではパフォーマンスを十分に発揮できないかもしれません。
そこで今仙技術研究所とミズノの両社は、板バネへの装着に適した陸上スパイクのソールを世に出します。ソールは耐久性に優れ、見た目もクール。従来の海外製に比べて重さがわずか3分の1。市販の接着剤で、誰にでも簡単に装着できるものに仕上げました。
■「競技前後」への気配りも忘れないスパイクカバー
でも、驚くのはまだ早いです。陸上競技経験者はご存知だと思いますが、あの鋭いピンが底についたシューズは、あくまで陸上トラックで履くもの。
建物の中にあるロッカールームなどに行く際は、床を傷つけないように、底がフラットな靴に履きかえないといけません。
健常者なら、それは簡単なこと。しかし、ブレードを脚に装着したパラ陸上の選手たちは、装着部分の空気を抜くなど、やることがいっぱい。両社は、ここに着目してフットスパイクカバーというスパイクの底に装着する“もうひとつのソール”をつくりました。

▲スパイクカバー 出典:『ミズノ本』(小社刊)
これは他ブランドのスパイクを履いているパラ陸上の選手たちにも使ってもらえる優れもの。すべてのアスリートに手を差し伸べているなと感じました。

スポーツ用義足KATANAΣ 出典:『ミズノ本』(小社刊)
またミズノの板バネは最上位モデルの〈KATANAΣ(カタナシグマ)〉の他にも〈KATANAβ(カタナベータ)〉もリリース。これはトップのパラアスリート以外にも、パラリンピアンの姿に憧れて「自分も同じように板バネで走りたい」という次世代が手にしやすいよう願って生まれたものです。
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