The Battle of New York:2022年オフシーズンはメッツが大暴れ

オフシーズンも話題に事欠かないのがMLBの魅力のひとつ。そして、その主役を乗っ取った(?)のがニューヨーク・メッツ。日本のエースである千賀滉大のみならず、大物FA選手を大量にお買い上げ(うらやましい)。果たしてナ・リーグに、いや、ニューヨークシティに地殻変動は起きるのか? ニューヨーク育ちのアナリストであるKZilla(ケジラ)氏が徹底解説!

■俺たちの誇り:ヤンキースこそニューヨークの盟主

ニューヨークには2つの野球チームがあります。それはニューヨーク市の最北端ブロンクスを本拠地とするヤンキースと、最東端クイーンズを本拠地とするメッツです。

ヤンキースは松井秀喜選手、田中将大選手、イチロー選手など著名な日本人選手が多く在籍した歴史もあり、今でこそ日本人選手が所属をしていないものの、日本でもかなり知名度は高いのではないでしょうか。

一方の雄、メッツも直近では千賀滉大選手(元ソフトバンク)の獲得が発表され、来シーズンの日本における注目度は(大谷翔平選手率いるエンゼルスには劣るかもしれないが)メジャー30球団のなかで2~3位を争うでしょう。

しかし結論から申し上げましょう。ニューヨークはヤンキースの街です。ファンの数でも、メディアでの取り上げ頻度でも、地元民への認知でも、すべてにおいてメッツを上回っています。

実際、ニューヨークの街を歩いてみると、見かける野球帽の8割は“かの白い「NY」ロゴ”を誇るヤンキースのもので、残り2割がオレンジ色の螺旋風の「NY」ロゴのメッツのものです。※筆者の独断と偏見による推計

ただ、(メッツファンに怒られる前に言っておきますと)このダイナミックスが変わろうとしています。実際、ここ数週間で、世界中のMLBファンが「メッツがヤンキースを超えた」と、ざわめきはじめ、メッツファンも「来年こそメッツの年!」と期待を膨らましています。

いまビッグアップルで何が起きているのでしょうか。今回はニューヨークの主として長く君臨をしてきたヤンキース、その王冠の奪取を試みているメッツについてお話をしましょう。

■メッツのオーナー交代:史上最も裕福なオーナーが登場

事の発端は2020年。メッツのオーナーを長年にわたり務めていたウィルポン一家が「チームの売却を検討している」という報道が出回り、世界中のメッツファンが歓喜しました。というのも、ウィルポン一家はこれまでにポンジ・スキームという詐欺にあったり、詐欺にあった関係で金銭的に逼迫をしてしまい、適切な選手補強をできなくなったり、公に選手を批判したりなどで、ファンからはかなり不評でした。

そんななか、売却先の筆頭候補として上がったのがヘッジファンドの創業者・マネージャーであるスティーブ・コーエン氏。当時のコーエン氏の総資産価値は、Forbes社によると約146億ドルと推計されており、次に資産価値が高いナショナルズのテッド・ラーナー氏の3倍程度の計算になります。

「とにかくめちゃくちゃ金持ち」という点に食らいついたメッツファンが、期待を胸に2020年シーズンを見守っていました。そして、9月にはコーエン氏による買収合意が報道され、10月には正式に所有権97.2%程度を獲得し、メッツのオーナーへと成り上がりました。そして、ここから始まったのが、大富豪コーエン氏の大金叩きによるスター選手の乱獲です。

まず、就任したそのオフシーズンに、当年にトレードで獲得をしたスター遊撃手、フランシスコ・リンドーア選手と10年3億410万ドルの超大型契約延長を締結します。そして、2021年オフにも(当時37歳の)マックス・シャーザー投手に、MLB史上最高年俸の4,333万ドルを支払う脅威の大型契約(3年1億3,000万ドル)を締結するなど、2年連続で大胆な動きを見せます。

しかし、ここで止まらないのが怪物・スティーブ叔父さん。今オフ(2022年)に誰もの想像を絶する、途轍もない動きに出ます。※実際、現地メッツファンには「Uncle Steve」≒スティーブ叔父さんと呼ばれているので、本記事でも採用させていただききます。笑

■2022年オフシーズン:メッツの大暴れ

オフシーズン開始直後に、今シーズンまでクローザーを務めおり、フリーエージェント〔FA:チームとの契約が終了し、どのチームとも契約ができる状態の選手〕となったエドウィン・ディアズ投手と5年1億200万ドルの大型契約を締結し、残留が確定しました。ちなみに、当該契約はリリーフ投手向け史上最高額となりました。

出だし好調と思われたメッツですが、ここで衝撃的なニュースが入ってきます。12月3日に、ここ数年メッツのエースを務めており、契約のオプトアウト〔選手側から契約を途中で破棄できる条項〕を行使しFAとなっていたジェイコブ・デグロム投手が、テキサス・レンジャースと5年1億8,500万ドルの契約を締結したことが発表されたのです。

34歳という決して若くない年齢、そしてここ2年で26試合のみの先発に留まっている故障歴が懸念とされていたなかで、年俸3,700万ドル(史上4位)という異例な高さの年俸での契約となったため、メッツのみならず野球界を揺るがす一大事となりました(一応補足をしておきますと、デグロム投手は2018-19年の2年連続でサイ・ヤング賞を受賞しており、故障歴抜きではリーグ最強の投手とされているため、大型契約の締結は見込まれていました。ただ、5年という長さ、年俸約48億円という高さは市場想定を遥かに超えておりました)。

エースを失って大ピンチに陥ったと思われたメッツでしたが、ここでスティーブ叔父さんが本領を発揮します。数日後の12月7日に、今シーズンのサイ・ヤング賞を獲得したジャスティン・バーランダー投手を、2年8,660万ドル(年俸4,330万ドル)の契約で獲得します。

実績は十分ながら、彼もまた来季40歳となるハイリスク案件であり、下手したらデグロム投手の契約以上に不良債権化の懸念があります。しかも、前年オフに似たような状況で似たような契約をシャーザー投手と締結していることもあり、2年連続でハイリスクハイリターンの大型契約を締結しています。

そして、また数日後の12月10日に、今度はソフトバンクから海外FA権を行使しメジャー移籍を目指していた千賀滉大投手の獲得が発表されます。契約も5年7,500万ドルと、ここまで紹介をしてきた大型契約には規模こそ劣るものの、今度はメジャーでの実績がゼロの選手、そして故障歴が相応にある選手にそれなりに大きい契約を渡している点では、またまた勝負に出ました。

もちろん(日本の野球のファンであればご存知のとおり)エース級の実力の持ち主ではあるので、怪我さえなければそれなりに活躍ができるのではと思われますが、それでもやはりリスクが相応にあります。

▲MLBメッツ入団会見での千賀滉大選手 写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

エースを失った直後に、金を全くものとせず新たにエース級の投手を2人獲得しに出たのは、コーエン氏、そして今のメッツの本気度の現れを示しているでしょう。ちなみに、その合間の8日にブランドン・ニモ外野手と8年1億6,200万ドルの契約を締結し、この時点で4選手に計4億2,560万ドルをコミットしたことになります。まるで息をするようにお金を払い続けていますね。

■止まらないメッツ:「スゴすぎる」から「理解不能」へ

ここまで先発投手2人、外野手、そしてクローザーを確保したメッツは、これで主要な補強は終わりだと思っていましたが、やはりこれでも止まらないのが新生メッツ。ここで遊撃手の目玉FAであるカルロス・コレア選手の獲得興味を示しはじめます。

ここまでのお話を踏まえると、「またまたスティーブ叔父さんがやってるよ〜」程度で捉えられるかもしれません。ただ、前述のとおり、2020年オフに遊撃手のリンドア選手と10年契約を締結したばかりなので、ここで改めて遊撃手の獲得に乗り出すのは、良く言えば「大胆」、悪く言えば「無謀」と言えるのではないでしょうか。

しかし何事も限界があるのか、12月13日にコレア選手は、サンフランシスコ・ジャイアンツと13年3億5,000万ドルの契約に合意した旨が報道されます。当該報道が出たあと、コーエン氏も「動くのが遅かった」旨の発言をしており、まぁさすがにメッツでも限界があるのか、と個人的には逆に安心しました。

……と思っていたところ、その安堵も束の間でした。1週間後の12月20日、コレア選手がジャイアンツの身体検査に引っかかってしまい、契約合意が破棄されたとの報道が出回ります。そのわずか数時間後、今度は12月21日の深夜にメッツが12年3億1,500万ドルでの契約合意がされた旨の報道が駆け回ります。

いやいやいや、待てよ。限界があると思っていた数時間前の自分を殴りたい。これで5選手に計7億4,060万ドル。2020年から選手補強に計15億ドル近く使っている計算になります。すごすぎるでしょ。

ここで気になる点が一つありますよね。「ジャイアンツの身体検査に引っかかって契約合意破棄となったのに、そのまますぐ契約をしてしまって大丈夫なのか?」と。もちろん、そこの懸念は考慮をしていたとは思いますが、まずは早急に契約合意に辿り着くことでジャイアンツに再交渉の猶予を与えず、コレア選手をメッツに向かせたことが勝機だった点を踏まえるとこの判断は妥当だったのではと思います。

実際、また数日後の12月24日に今度はメッツの身体検査に引っかかり、契約の再交渉を行なっている旨の報道がありました。そして結果的には年明け1月10日には交渉が破談となり、今度はツインズと6年2億ドル(契約オプション込みで最大10年2億7,000万ドル)の契約を正式に締結しました。最終的には獲得には至らなかったものの、今のメッツは無茶と言われるレベルでの補強を躊躇なく行うスタンス、という点は変わらず照明されたのではないでしょうか(本記事では詳細には触れませんが、コレア選手がこの2ヶ月で3チームと計31年8億6,500万ドル分の契約に合意してきた、と考えるととんでもない展開になりましたよね)。

■メッツがすごいのはわかった:じゃあ、ヤンキースは?

直近のメッツの動きについて長々と書かせていただきましたが、ポイントは「前代未聞の金額をかけてスーパースターを揃えている」ということでしょう。本記事の元の趣旨と照らし合わせると、メッツは最強チームを結成して戦力・話題性ともにヤンキース超えを果たそうとしています。

■プロフィール

KZilla(ケジラ)

ニューヨーク・ヤンキース、およびMLBの魅力をTwitter、note、ラジオなどで発信し続ける注目の野球アナリスト。ニューヨーク育ちの英語力を活かした情報収集力と分析力は、コアなファンからも高い評価を得ている。最近は生粋のニューヨーカーとして、メッツの剛腕ぶりに地団駄を踏む日々が続いている。Twitter: @TokYorkYankees 、note: KZilla|note

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