カタールW杯「三笘の1mm」につながる感動ストーリーを熱く語る
2023年04月24日 07時00分WANI BOOKS NewsCrunch
サッカー大好き芸人として、活躍の場を広げているお笑いコンビ・カカロニのツッコミ担当すがやさん。2014年のW杯ブラジル大会から3大会連続、合計21試合を現地で観戦しています。昨年冬に行われた2022年カタール大会も現地で観戦し、ドイツやスペインに勝利をあげたサッカー日本代表の戦いぶりも、しっかりと目に焼き付けてきました。
今回、カタールW杯を題材にした書籍『ドーハの歓喜 2022世界への挑戦、その先の景色』(徳間書店)を発売した安藤隆人氏との対談が実現! すがやさんがインタビュアーとなって、現在の日本代表で活躍している選手たちを育成年代から追い続けてきた安藤氏に、本の見どころを語ってもらいました。
■グループリーグを突破したタイミングで執筆依頼
すがや 『ドーハの歓喜』の発売おめでとうございます! まずは、刊行するまでの経緯を教えてください。
安藤隆人(以下、安藤) ありがとうございます。当初は日本国内のサッカー日本代表に対するカタールW杯の期待値の低さもあって、ほとんど仕事が決まらない状況のなか、ドーハに旅立つことになりました。
「赤字になってしまうかもしれないけど、人生においては大切な経験」と自分に言い聞かせて向かったW杯は、穏やかな開幕を迎えたんですけど、日本がドイツに勝った途端に、僕の携帯が鳴り出して……。
その後、スペインに逆転で勝ってグループリーグ突破を決めたときに「多くの方に注目されているので、本を出しませんか?」というオファーをいただいて、出版が決まったという流れです。

▲出版に至った経緯を語ってくれた安藤隆人氏
すがや その時点でサッカー日本代表をテーマに本を書くことを決めていたんですか?
安藤 いえ、そのときは具体的なイメージがまったく思い浮かんでいなくて……。「もし決勝トーナメントを勝ち進んだら、サッカー日本代表の物語を書いてもいいかな?」と思ってクロアチア戦を見ていたら、PK戦で負けてしまって。「4試合で終わってしまったのでどうしよう……」という感じでした。
すがや それでも読み応えのある作品に仕上がっていると思います。
安藤 結構、頑張りました(笑)。強豪国のドイツとスペインに勝ったという盛り上がりと、2大会連続のベスト16敗退のどちらを軸にしようか迷ったんですけど、なかなかアイデアがまとまらなくて。実際に“この本が書ける”と確信したのは、決勝戦のアルゼンチンの優勝で大会が幕を下ろしたあとでした。
すがや 決勝戦はドラマティックでしたよね。
安藤 W杯トロフィーを掲げるメッシの姿を見るまでは、「本当に書けるのかな? 正直、ヤバいんじゃないかな?」という感じでしたよ(苦笑)。
すがや それは意外ですね。僕は安藤さんが書いた『ドーハの歓喜』を読んで、育成年代から選手たちを取材してきた安藤さん自身のストーリーでもあると感じました。本を書く際にどんなことを意識されましたか?

▲身振り手振りを交えて熱く質問するすがやさん
安藤 僕は「日本代表はよく頑張った」とか「ベスト16入りおめでとう」だけではつまらないと思っていたので、代表に選ばれた選手たちが本番まで歩んできたストーリーに自分なりの主観を加えて、臨場感を出すことを意識しました。
例えば「自分に自信がない」と話していた大学生の三笘薫選手が、その後どうやって自信をつけたかとか。高校時代の浅野拓磨選手が、弁当を食べているときにポロリと言った「諦めの悪い男になりたい」という言葉とかですね。
まだ学生だった頃に選手たちが僕に話してくれた言葉があって、今の姿がある。「カタールW杯で、僕がこれまでの取材で実際に目にしてきたものの答え合わせをする」という構成が思い浮かんで、そこからは筆が一気に進みましたね。
「この選手は昔からこういう性格で、こういうふうに頑張ってきたから今の受け答えにつながっている」というストーリーや、「どういう行動をしたから、W杯に出られたのか」という教育的な要素も取り入れながら書いていきました。
■カタールワールドカップの象徴「三笘の1mm」
すがや 表紙には、日本サッカー史に残るであろう「三笘の1mm」の写真が使われていて、“W杯の感動が追体験できる一冊だな”と思いました。発売後の反響はいかがでしたか?
安藤 とにかく表紙のインパクトがあるので「それに伴うような物語を書かないといけない」というプレッシャーは正直ありましたけど、きちんと書き上げられたことで、自分の中にも自信が芽生えたような気がします。すがやさんの知り合いは、僕の本について何か言っていましたか?
すがや 現地で観戦した僕の友人たちも「W杯の感動を思い出せてよかった」と話していましたよ。僕自身も、本を読み進めていくにつれて、どんどん選手への愛着が湧いてきて、感動が深まっていく感覚がありました。
安藤 僕が取材したものをそのまま載せているので、臨場感は楽しんでいただけているのではないかなと思います。
すがや この本に載っているのは、育成年代だった頃の選手たちの言葉なので、少しぎこちない部分もありますが、安藤さんの質問に本音で答えてくれているように感じました。
安藤 たくさんの記者たちを前にした囲み取材だと、選手たちはなかなか本音を話せないと思うんですけど、僕は会見で選手たちの発する言葉を聞いたときに「昔の彼だったらどんな言葉で話すんだろう?」と考えるようにしていました。
もし、昔の言葉と今の言葉の表現の違いを見つけたら、そのあいだにどのような変化があったのかを探ってみる。そして、経験が伴って語彙力が上がったのか、それとも発するメッセージが増えたのかを考えながら、取材で選手たちに質問をぶつけてみる。そのような流れで、選手たちの歩みを描きだすことを意識しました。

▲安藤氏の話を食い入るように聞くすがやさん
すがや 安藤さんが今回W杯で印象に残っているシーンはありますか?
安藤 グループリーグ2戦目のコスタリカ戦の試合後に、堂安律選手が落ち込んでいた姿ですかね。ギラギラしていて負けん気の強い堂安選手が、ふとした瞬間に落ち込んでいて。その姿は若い頃の彼とリンクするところがありましたし、彼の本質は今でも変わらないことがわかって、僕自身もどこか“ホッとした部分”がありました。

▲ワールドカップに出場した選手たちの過去の取材の思い出を話してくれた
すがや 一番こだわった点はどこですか?
安藤 ドーハの歓喜を表現しつつも、一方にあるベスト16で負けているという現実を書くことを重視しました。おそらく決勝トーナメントを勝ち進むのは、想像以上に難しいことだと思うんですよ。予選で勝つことができたドイツやスペインも、決勝トーナメントで当たっていたら、同じような結果かどうかはわからない。「予選を突破しておめでとう」だけではなく、今後に向けた戒めも本の中に盛り込んでいます。
■南野選手のストーリーを最終章にした理由
すがや 過去に取材した選手たちの活躍を、安藤さんはどのような気持ちで見ていましたか?
安藤 兄、保護者、一般客という3つの視点で見ていました。僕が育成年代の選手と話すときには「ひとりの大人として向き合いながら、フラットな目線で話すこと」を一番大切にしているんです。しっかりと自分の考えを持っている選手は、プロに進んでからも活躍しているように感じますし、僕にとっても成長のストーリーを書きやすいんですよね。
すがや 会話だけでも活躍する選手がわかるんですね。選手たちの印象に残っている言葉は何かありますか?
安藤 かつて、関東トレセンMVPの小さなトロフィーを掲げて喜ぶ田中碧選手に質問をしてみたことがあるんですけど、徐々に話を掘り下げていくと「日本代表として、もっと大きなトロフィーが欲しい」と話してくれて。実際に彼はスペイン戦でMVPを獲得して大きなトロフィーをもらっていました。まさに彼は有言実行を果たしたのです。
こうして育成年代からW杯までのストーリーがつながると、取材している僕にとっても幸せですし、やりがいを感じますよね。そういう意味でも『ドーハの歓喜』という本は、自分のジャーナリスト人生の集大成になったなと思います。
すがや 丁寧な取材をされている安藤さんにしか書けない作品だと思うんですが、『ドーハの歓喜』というタイトルはどのように決まったんですか?
安藤 もう少しドキュメンタリーっぽいタイトルにしよう考えていたんですけど、直前で「三笘の1mm」の写真を使わせていただけることになって。シンプルでわかりやすいタイトルをつけました。
すがや ちなみに、最初はどんなタイトルにしようとしていたんですか?
安藤 恥ずかしいじゃないですか(苦笑)。『夢の後に…』とか『狂乱の後』という感じのドキュメンタリータッチにしようかなと思っていたんですけど……言わせないでくださいよ!(笑)
すがや すみません(笑)。どちらかというと、未来を見据えた内容だったんですね。この『ドーハの歓喜』を通して、安藤さんが読者に伝えたいことはなんですか?
安藤 「いま経験していることは、絶対に未来につながる」ということですね。どんなツラい思いをしている人も、それがきっと自分の将来につながっていくはずなので、サッカーを通じてそれを知ってほしいなと思います。
すがや 劇的なW杯を書いた『ドーハの歓喜』は、背番号10を背負った南野拓実選手のストーリーで締めくくられています。おそらく不本意なW杯に終わった南野選手を選手の章での最後の章に書いているところに、安藤さんの強い思いを感じました。
安藤 南野選手とはこれまでにたくさん濃い話をしてきて、彼がいろいろな苦労してきたことも知っている。僕自身の思い入れの深さが一番の理由ですね。W杯で結果が伴わなかったから、全部が“ダメ”というわけではなくて。あまりうまくいかなかった選手にも大会までのドラマはあるし、それがまた未来につながっていくと思うんですよ。
(代表入りを逃した2018年ロシア大会に続き)南野選手にとっては二度目の失敗ということになるのかもしれませんが、それで全てが終わりではない。人生には綺麗な勝利をあげられないこともあるけれど、挑戦は何度でもできる。
僕の本なので、南野選手の諦めない姿勢や、チャレンジを続けるすごさも伝えられたらなと思って、選手の章の最後に彼のストーリーを書き記しました。
すがや なるほど。そういった思いがあって最後に持ってきたんですね。安藤さん、今日は貴重なお話をありがとうございました!
安藤 こちらこそ、ありがとうございました!

▲撮影に応じてくれた安藤氏とすがやさん
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