ネイマールの通訳も担当したタカサカモトが感じたトップ選手たちのスゴさ

東京大学を8年かけて卒業し、現在は世界で活躍することを目指すサッカー選手に語学を教えているタカサカモトさんが、著書『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)を発売した。

▲『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)

鳥取から上京したが都会の生活に馴染めず、東大で出会った恩師の言葉を胸に、メキシコやブラジルに放浪の旅に出たあと、ブラジル名門サッカークラブ・サントスの広報やネイマールの通訳を担当することになったサカモトさんに、好きなことを仕事にする方法をインタビューしました。

▲Fun Work ~好きなことを仕事に~ <フットリンガル代表・タカサカモト>

■東大に入った理由は“先輩が魅力的だったから”

――まずは、さまざまな国を旅されてきたサカモトさんが、海外に興味を持ったキッカケを教えてください。

タカサカモト(以下、サカモト) 僕にとって最初の海外は、小学6年生のときに行った韓国旅行でした。通っていた鳥取県の学校が、のちに『冬のソナタ』で有名になる春川(チュンチョン)にある小学校と姉妹校になることが決まって、その締結式に参加することになったんです。今思えば、これがキッカケで「将来は外国語を使った仕事をしてみたい」と思うようになりました。

――その夢が東大を目指すキッカケになったのでしょうか?

サカモト いえ、最初は東京の国立大学に行って“いろいろな人に会いたい”と思っていました。僕が東大に魅力を感じるようになったのは、高校2年生のときに参加した東大生と話すイベントだったように思います。

実際に東大生の先輩たちと話してみた中で、とてもステキな人に何人か出会えたんです。東大に入学するのが難しいことはもちろん知っていましたけど、その頃から“東大に行って彼らと学生生活を送ってみたい”という思いが強くなったような気がします。

――サカモトさんの著書には、東大で出会った小松美彦先生の「自分の目で見て、心で感じる」という言葉が紹介されています。上京したての大学生だったサカモトさんが、小松先生の言葉を素直に受け止められたのはなぜですか?

サカモト 同じ言葉であっても、どういう人柄の誰が、どういう文脈で言うのかによって、その意味合いや受け止め方は変わってくると思うんですけど、この言葉を語っていらした小松先生に対して、僕自身が説得力を感じられたからだと思います。

――小松先生の影響で「自分の時間を生きる」ことの大切さ知ったエピソードも書かれていましたね。

サカモト 鳥取から出てきたばかりで東京のスピード感に戸惑う僕に、小松先生は自分の時間を生きることの大切さを教えてくださいました。「外側に流れている時間と自分の歩む時間にズレが生じても、その歩みを止めるべきではない」とか、自分の速さやリズムを大切にしながら過ごすという意味の「自分が時間になる」という言葉を小松先生は授けてくれて、僕の生き方を決定づける指針になったと思います。

――「自分の時間」を作るためのアドバイスはありますか?

サカモト 自分のペースを守っていくためには「自分がしっくりこないことはやらないようにする」こと、まずはそれが大切なのかな思います。とはいえ、現実的には、できることとできないことがあると思うので、まずは「実はやらなくても済む範囲のしっくりこないもの」から取り除く癖をつけて、徐々にそれを増やしていけばいいのかなと思います。

――なにかと周囲を気にすることが多い大学生の頃から、「自分の時間を生きる」ことを貫けたのはなぜですか?

サカモト どこかに“違和感”があったからだと思います。例えば、大学3年の終わり頃には、みんながお揃いのスーツを着て就職活動に臨むんですけど、この理由が僕にはまったく理解できなかった。昨日まではそれぞれ好き勝手な格好をしたはずの学生たちが、日付が変わった途端にいきなり同じ服装に変わることに僕は怖さを感じたんです。

――たしかに。ただ、安定した収入や生活を求めて就職するという方もいらっしゃると思うんです、サカモトさんは安定についてどう考えていますか?

サカモト それで言うと、じつは僕も「安定志向」なんですよ。“安定”とまとめられるなかには、さまざまな種類があると思っているんです。日本で一般的に言われる「職業や金銭の安定」以外にも、いろいろな種類の安定がありますから。僕はどちらかというと、人間関係や自分の過ごす時間や空間の安定を求めるタイプなので、会社に入って「明日は〇〇に出張に行ってほしい」などと言われることが耐えられなくて。

もちろん、企業に入った先に自分の思い描く理想の未来があるのならば、それは素晴らしいことだと思うんですが、僕は“未来の自分がどこで何をするか”を他人に委ねるのが不安で仕方なかったんです。経済的な安定とは違う安定を求めた結果が、今の僕の人生につながっているんだと思います。

▲経済的な安定とは違う「安定」が自分には大事だと語る

■外国で仕事を見つける際に大切にしていたこと

――職歴の浅いうちから、旅行先のメキシコにあるタコス屋をはじめ、さまざまな仕事にチャレンジされています。外国での仕事をすることに対して何か不安はありませんでしたか?

サカモト メキシコには、いきなり自動車のフロントガラスに洗剤をかけてきて、洗車代を取ろうとしてくる人もいましたから、誰かの役に立つことが形にできれば、“何かの仕事にはなるだろうな”とは漠然と思っていました。

なので、現地では映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に出てくるレオナルド・ディカプリオが演じる高校生のように、ひとまず周囲の見よう見まねで仕事を覚えていって、実際の仕事につなげていくような感じでした。僕は彼のような詐欺師ではないですけど(笑)。

――(笑)。外国の方とコミュニケーションを取る際に気をつけたことや、振る舞いの違いはありましたか?

サカモト ビジネスの取引でも友情関係を築くためでも、相手がどこの国の方であったとしても「相手の立場を考えながら話す」とか「相手がイヤがることをしない」といった、幼稚園生の頃に習ったお約束の延長線上にあるものが大切だと思っています。どんな関係であっても、相手の立場を考えながらお互いの波長を合わせていくことが大切ですね。

――メキシコやブラジルで働いてみて、 “ラテンなノリ”の方々と日本人の職業観の違いを感じたことはありましたか?

サカモト 仮に自分の仕事がなくなったとしても、仕事がないことをいろいろな人に素直に言える風土があって、日本人よりも失業を恐れていないような印象は感じました。日本とブラジルの両方を知る海外出身の友達に「日本には友情がない」と言われたことがあるんですよ。

日本人のなかには「自分の人生がうまくいっていないときには、恥ずかしいから友達に会えない」という風潮がありますが、彼らは「うまくいかないときこそ、友達を励ましたり、救ってあげることが大切だ」という考えを持っていて、その辺りの文化の違いはあると思います。

▲ネイマールという人生を過ごすのは大変なことだと思います

――ブラジル滞在時には、サントスFCの広報担当になり、当時在籍していたネイマール選手(現パリ・サンジェルマン)とも対面を果たしました。この本にはその様子も描かれていますが、自由な振る舞いのイメージもあるネイマール選手の印象を聞かせてください。

サカモト 第一印象は“素朴でいい子だな”と思いました。まだまだ当時のネイマール選手は20歳になるかどうかの若手選手でしたけど、プレーを見たときに凄まじい衝撃を受けたので、きっと近いうちに世界一のサッカー選手になるんだろう、と思ったような気がします。

――どの辺りにスゴさを感じました?

サカモト サントスFCは、いわゆるトップ下や司令塔と言われるような、卓越した技術の選手を長年に渡って多く輩出してきた歴史があるんですけど、当時のブラジルは欧州サッカーの影響で、強いフィジカルと守備が重視されるようになってきている時期でした。

そのような時代に、ストリートで培った即興的なスタイルのサッカーが持ち味のネイマール選手が颯爽と現れて、コパ・リベルタドーレス杯や南米年間最優秀選手を獲得した。細身のネイマール選手が自分のスタイルを貫いて栄冠を手にしたことに、とにかく驚かされたことを覚えています。

――ネイマール選手をはじめとするブラジルのサッカー選手は、どのように日々の試合に向き合っているのでしょう?

サカモト 音楽を聴きながら自由奔放に過ごす姿がクローズアップされがちですが、クリスチャンの多いブラジルの選手たちは、試合前のロッカールームで祈り捧げた途端に、ガラリと真剣な眼差しに変わるんですよ。ネイマール選手に限らず、ブラジルの選手はそのような感じのスタンスで、気持ちを切り替えて試合に向き合っていることが多いと思います。

――近年では“お騒がせ”のイメージもありますが、ネイマール選手のそういった報道をどのようにご覧になられていますか?

サカモト 「ネイマールという人生を過ごすのは、本当に大変なことなんだろうな」ということですかね。たとえ巨額の移籍金でチームを移籍したとしても、半年立たないうちに知らないところから新たな移籍話が湧き上がってきたり、姿を現しただけでたくさんのカメラに囲まれる日々を過ごしている。平穏な日々がないネイマール選手ならではの苦労やストレスはたくさんあるんだろうな、と感じることは多いです。

■遠藤航選手や原口元気選手の共通点

――その後、遠藤航選手や原口元気選手(いずれもVfBシュトゥットガルト)の語学コーチをされたとのことですが、トップ選手ならでは取り組み方の違いや特徴はありましたか?

サカモト 遠藤選手や原口選手に限らず、伸びていく生徒には向上心があって、自分に貪欲だという特徴があるんです。柔軟な考えを持っていて貪欲さもあり、自分に必要なことをいつも考えているからこそ、日本代表にまで登り詰められたんだろうと、僕が講師の立場で二人を見ていて感じさせられました。

――サカモトさんが好きなことを仕事にするために心がけていることは?

サカモト 自分自身では、好きなことを仕事にできているかはわからないんですけど、まずは“しっくりこないことはしない”こと、その上で“好きになれそうで、かつ自分にも
できそうなこと”を見つけて形にしていくように意識しています。

――なるほど、それはとてもわかりやすいアドバイスですね。では、サカモトさんが「好きな仕事」をするまでの失敗談などあれば、アドバイスとしてお聞きしたいです。

サカモト 「自分がやりたいこと」と「自分にとって必要なもの」は、似ているようですが全く異なるものなので、その違いを受け止めることが大切だと思います。僕の場合は、ブラジル移住を目指したことがそれに該当するんですけど、“行きたい”とは思いましたし、いろいろなものが得られたので失敗ではありませんでしたが、絶対に必要なものではなかったと思っていますから。

近年は「好きな仕事をすること」がキャッチコピーになっていますが、好きなことが見つからない人にとっては、この風潮は単なるプレッシャーでしかないように思うんです。あまり興味がないけど得意なものを仕事にしたら、そのうち好きな仕事になっていくかもしれませんし、もし“自由に生きていこう”というのであれば、好きなことを仕事にしない選択肢があってもいいと思う。

それでも好きなことがあって、それを仕事にしたいと思うのなら、自分に「なぜ?」と問いかけながら、自問自答を繰り返していくことから始めるべきなのかなと思います。僕はこれまでにサッカーや教育に関わってきましたけど、程よく携わるから楽しいのであって、生活の全てを捧げたらもしかしたら楽しくなくなるかもしれない。自分なりの「好き」のバランスを見つけながら、人生を過ごしていってほしいなと思います。

――ありがとうございます。サカモトさんの今後の目標、やってみたいことはありますか?

サカモト 大学時代にやりたいと思っていた、子ども向けの物語を書いてみたいです。まずは「事実は小説よりも奇なり」という言葉通りの人生を歩んでしまった自分自身のことを本にしようと思っていたので、これでようやく取り掛かれる状況になりました。とはいえ、今はまだほとんど書けていないので、じっくりと書き進めていけたらと思っています。

■プロフィール

タカサカモト

フットリンガル代表 1985年4月12日、鳥取県生まれ。東京大学文学部卒業。 田舎から東大に進学後、人生に迷う。大学の恩師の助言で自分に素直に生きた結果、メキシコでタコス屋見習い、鳥取で学び場づくり、ブラジルの名門サッカークラブ広報、ネイマール選手の通訳などを経験。その後、フットリンガルを創業し、国際舞台での活躍を志すプロサッカー選手を中心に、語学や異文化コミュニケーション等を教えている。高校卒業までは鳥取弁しか話せなかったが、20代で英語・スペイン語・ポルトガル語を習得し、現在は韓国語・イタリア語・ドイツ語を学んでいる。浦和で子育て中心の生活を送る1児の父。 Twitter: @grantottorino 、Instagram: @takafotos

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?