ヤンキースを支える2人の「ヌートバー」日系人捕手と九刀流野手
2023年06月14日 12時00分WANI BOOKS NewsCrunch
■日本人選手の不在で空気になってしまったヤンキース
言っちゃっていいかな? 今が日本人メジャーリーガーの黄金期です。もはや紹介は不要な大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)を筆頭に、ダルビッシュ有選手(サンディエゴ・パドレス)、吉田正尚選手(ボストン・レッドソックス)、千賀滉大選手(ニューヨーク・メッツ)、鈴木誠也選手(シカゴ・カブス)、前田健太選手(ミネソタ・ツインズ)、菊池雄星選手(トロント・ブルージェイズ)、藤浪晋太郎選手(オークランド・アスレチックス)と、数多くの日本人選手が各チームで主力として活躍しています。
しかし、メジャーリーグに連なる日本人選手所属のチーム一覧を見ると、あの名門球団ニューヨーク・ヤンキースの名前がないのをお気づきでしょうか。歴史的に松井秀喜選手、イチロー選手、黒田博樹選手、田中将大選手といった日本人スーパースターが多く所属をしてきたヤンキースが、ここ3年間は日本人選手を備えておりません。
よって、日本のスポーツメディアにヤンキースが取り上げられることは激減しました。強いて言うなら、一部媒体が大谷選手の記事を配信するにあたり、「アーロン・ジャッジが大谷のホームランを強奪」「大谷のライバル、ミゲル・アンドューハがDFA」「ヤンキースが大谷翔平を絶対に獲得できない理由」など、脇役としてヤンキースを槍玉に挙げるぐらいでしょうか。
さて、日本人選手が所属をしていないヤンキースですが、じつは日系人選手が2名メジャーロスター入りをしているのはご存知でしょうか。今年のWBCで全国の侍ファンを虜に取ったラーズ・ヌートバー選手(カージナルズ)と同様に、日本のDNAを継ぐヤンキー(中高でヤンチャするほうじゃない)をご紹介しましょう。
■コミュニケーションの達人・ヒガシオカ捕手
1人目は捕手のカイル・ヒガシオカ選手(33)。カルフォルニア生まれの日系4世で、2017年から19年シーズンは控えの控えとしてメジャーとマイナーを行き来し、2020年以後はメジャーに定着。控え捕手としてヤンキースを堅実に支えてきました。
現エースのゲリット・コールとは同郷かつ同級生であるうえに、一時期は控え捕手ながら専属キャッチャーを務めていたこともあったり、同じスカウト(デビッド・キース)にドラフトされた経緯もあったりと、なにかと強いつながりがあったりもします。また、田中将大選手が所属をしていた時期は、コミュニケーションを活性化すべく、日本語を(少しずつ)習得をしたこともヤンキース界隈では有名な話です。
打撃は平均以下(生涯打率.204、OPS.636)ではあるものの、259試合712打席で33HR(シーズンフル出場で21HRペース)を放つなど、パンチ力を秘めていたり、持ち味のフレーミングを中心とした守備力の高さを有していたりと、一般的な控え捕手以上の貢献をしていると言えるでしょう。
昨年はファングラフ社が計測しているfWAR※では1.7、とスタメン野手の平均が2.0とされているなかで、より少ない出場数で近しい成績を残している点は評価に値するべきです。
※WAR(Wins Above Replacement)などの詳しい説明は「株式会社DELTA」さまの解説ページを参照ください。NPBの最新ランキングも掲載されています。 https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_index_detail.aspx?gid=10105
そして、強打率や平均打球速度、xSLGやxWOBACONといった打撃の潜在指標は、軒並み自身のキャリア平均・リーグ平均を上回っており、地味にブレイクを期待している選手だったりもします。現正捕手のホセ・トリビーノ選手が、かなり不振にも見えるので、正捕手ヒガシオカの未来はそう遠くないかもしれません(出場機会こそ少なかったものの、WBCではアメリカ代表に選出されたくらいのポテンシャルを秘めています!)。
ちなみに、日系人らしい最大の要素は物腰の柔らかさでしょうか。フィールド上やチームメイトとの会話時には常に冷静・淡々とこなしているほか、インタビューなどでもスマートな会話・対応ができている印象が強いですね。一人でギターを弾いたり狩りに行ったり、という趣味も日本のオタク気質を感じますね(もちろんいい意味で)。
■ハワイの“九刀流”プレイヤー・IKF選手
2人目は、内外野のほぼすべてのポジションを守れるスーパーユーティリティのアイゼイア・カイナーファレファ選手(28)。ファンのあいだでは通称“IKF”で愛されています。
ハワイ出身の日系3世で、昨シーズン(2022年)はショートで、守備の要としてトレード加入をしたものの、打撃・守備ともに振るわず、シーズン終盤にはルーキーのオズワルド・ペラザ選手にスタメンの座を奪われてしまいます。しかし、今季はさまざまな守備位置につき、準レギュラー兼控え要員のスーパーユーティリティとしてチームをしっかりと支えています。
パッと見、本職から追いやられ失脚に近いような状況に見えど、この裏にはIKFの人格・魅力が見え隠れています。昨シーズンはショートの守備で致命的なエラーを何度か犯してしまい、打撃でも貢献できず、最終的にはファンの顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまいました。
プレイオフの試合後には、やさぐれたファンがIKFの運転する車に突撃し罵倒するという見苦しい事件もあったくらいでした(本当にヤンキースファンのダメなところすべてが詰まった悪の権化のような話……)。
しかし、辛辣なヤンキースファンやメディアからの批判に耐えられずに、チームを去った選手とは裏腹に、IKFはめげず腐らず努力を続けました。オフにはショート一本へのこだわりを捨て、ショートでの守備を鑑みてあえてやっていなかった体重増加を試み、さらにはスプリングトレーニング時には自らの申し出で外野出場も開始しました。
いざシーズンが開始をすると、主にセンターを守り(6/12現在、28試合出場)、レフト(14試合)、サード(9試合)、ライト(2試合)とチーム事情に合わせ柔軟に対応してきました。逆に本職のショートは1試合の出場に留まっているものの、それに対して不満などはひとつも言わず、「どんな形でも貢献できればいい」とチームプレーに徹しています。
そして、アーミーナイフへの化身を完成させたのは、先日果たした野手登板デビュー! 本人も楽しんでいたようで、イニング終了後に恒例の粘着物質チェックにも前向きでした。残念ながら審判はノってくれませんでしたが(笑)。
前テキサス・レンジャーズ時代にはキャッチャーとセカンドも守った経験があるので、これでファースト以外の全ての守備位置についたことになります。これだけ万能な選手はめったにいないでしょう。
これだけ泥臭く、ある種プライドを捨ててヤンキースに貢献をしようとしているIKFは、辛辣なヤンキースファンのハートをがっちり掴み、ヤンカスお得意の嵐の如くの掌返しを大量発生させることに成功しました。これも日本文化の真面目さや努力精神といった良いところの現れかもしれませんね。
課題である打撃も、4月は打率.200/OPS.445と大不振で始まってしまったものの、5〜6月は今のところ打率.267/OPS.750と平均以上の打撃(しかもちょこっとパワー!)を魅せており、今後も期待しちゃいたくなる数字ですね。
■日本の野球ファンがヤンキースでアツくなる日まで
最後に筆者の主観ですが、やはり日本でもヤンキースで盛り上がってほしいのが本音。かつては松井、田中、イチロー、黒田といった名前が飛び交ったように、ヒガシオカ、IKFという名前が我々の日常生活に浸透することを心待ちしています。日本の皆さん、ヤンキースのちょびっとジャパニーズコンビを、ぜひともよろしくお願いします。

▲ヤンキースのちょびっとジャパニーズコンビ 写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ
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