「ピッチスマート」導入経緯を米博士が講演で説明 「若年層のTJ手術急増で調査研究」

「ピッチスマート」導入経緯を米博士が講演で説明 「若年層のTJ手術急増で調査研究」

「ピッチスマート」の作成に深く関わったグレン・フライシグ博士【写真:広尾晃】

10月27日に大阪で「野球科学国際特別セミナー」開催、ピッチスタートに関わった米博士が講演

 10月27日に大阪大学中ノ島センターで「野球科学国際特別セミナー」が開催された。このセミナーは大阪大学医学系研究科健康スポーツ科学講座が主催し、日本野球科学研究会が共催。松尾知之大阪大学医学系研究科准教授が座長として進行した。

 第1部では、MLBが提唱する投球数制限の勧告「ピッチスマート」の作成に深く関わったグレン・フライシグ博士(ASMI アメリカスポーツ医学研究所 研究ディレクター)が講演した。

 フライシグ氏は「なすべきか、なさざるべきか:球数制限、変化球制限をすべきなのか」と題し、ピッチスマート導入の経緯について話した。

 アメリカでは、2010年以降トミー・ジョン手術が急増。大部分は15〜19歳の少年の手術だった。投手の怪我の危険因子としては、投球数、投球動作のメカニクス、球速、球種、マウンドが挙げられるが、ASMIはこれを1つ1つ精査し、年間100イニング以上投げると障害発生率が3倍以上になること、1試合当たりの投球イニング数と肩の障害にも相関関係があることを見出した。

 また投球動作や球速、球種についても多様な調査を行った。球速が上がればストレス、怪我のリスクは増加するが、球速が上がってもパフォーマンスが向上するとは必ずしもえないこと、さらに少年がカーブを投げることと腕の障害は無関係であることなどがわかった。

 こうした研究を経て、2014年に「ピッチスマート」が制定された。日本でも「球数制限」の議論が行われているが、アメリカでは長期間にわたって広範で科学的な調査研究を経て「ピッチスマート」が導入されたことが分かった。

全日本軟式野球連盟、新潟県が進める「球数制限」への取り組みを紹介

 第2部は全日本軟式野球連盟(全軟連)の宗像豊巳専務理事と、新潟県青少年野球団体協議会の石川智雄副会長によるシンポジウムが行われた。川村卓筑波大学体育化学系准教授がコーディネーターを務めた。

 全軟連は今季から学童野球を対象に投球数制限を導入。宗像氏は、マクドナルド杯、中学野球の大会、女子大会で実施した選手の肩ひじの検診結果を報告した。また投球制限を行ったマクドナルド杯では、1試合当たりの投手数や投手1人当たりの投球数に大きな変化があったことを紹介した。

 マクドナルド杯では、投球数制限だけでなく一度投手から野手に変わった選手は、もう一度投手になることができないルールを導入したが、これに賛否があったことも紹介した。今後は育成主義と障害予防の両輪によるバランスの良い発展が必要だと締めくくった。

 新潟県高野連は今春の県大会から「球数制限」の導入を発表した(最終的には導入見送り)。石川氏はこの決定が県高野連だけの意向ではなく新潟県の青少年野球の総意であったことを紹介。その背景には、新潟県の小、中、高校の野球団体による新潟県青少年野球団体協議会(NYBOC)の存在があった。NYBOCは2009年の新潟スポーツ医学研究会が契機となって発足。野球人口の減少に危機感を持ち、子供を安心して預けられる環境づくりというテーマを団体の垣根を超えて共有してきた。

 新潟県の野球少年は「野球手帳」を配布される。この手帳には障害予防などのセルフチェックができるようになっている。この手帳に記入しながら小、中、高校と野球を続けることで自らの成長と、障害の既往歴を自分で確認することができる。

 またNIIGATA野球サミットを開催し、新潟県の野球少年の未来について語り合った。石川氏は、スポーツマンシップを前提として、投球制限と指導者養成を行うことによって、子供たちを野球障害から守ることができ、野球人口の減少に歯止めをかけることができると話した。

 このイベントには、研究者、野球指導者、医療関係者など約100人が出席した。アメリカと日本の取り組みには、大きな差がある。しかし関係者が垣根を超えて情報共有し、ムーブメントを起こすことで、野球改革が進むと感じられた。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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