光る強肩捕手・甲斐の貢献度 ソフトBの「弱みを消す」という戦力アップ

光る強肩捕手・甲斐の貢献度 ソフトBの「弱みを消す」という戦力アップ

ソフトバンク・甲斐が二塁阻止「ポップタイム」で好値連発

インパクト残す甲斐の強肩と送球技術

 ソフトバンクの捕手・甲斐拓也が出場機会を伸ばしている。ここまでほぼ半数のイニングでマスクを被り、実績では大きく上回る鶴岡慎也、高谷裕亮以上のインパクトを残している。

 甲斐の強みとして真っ先にイメージされるのはその強肩だろう。これは単なる印象論に基づくものではなく、客観的にも評価できるものだ。

 盗塁時の捕手のスローイングについて、捕手のミットに収まった瞬間から、ベースカバーに入った野手のグラブに収まるまでの秒数「ポップタイム」を、2015年以降について計測すると(「走者一塁」時に企図された二盗についてのみ計測。またディレードスチールなどは除く)、今季甲斐は最速値を2度更新するなど、トップ3を独占している。全体の分布を見ても、甲斐が記録している1.71〜1.73秒という記録がいかに突出しているかがわかる。

盗塁を狙われにくくなったソフトバンク

 もちろん、盗塁阻止は投手と捕手、そしてタッチする野手の連携によって実現するものであり、ポップタイムがどれだけ速くてもそれのみで盗塁を防げるわけではない。むしろ、盗塁阻止の成否には捕手の送球よりも投手のクイック技術のほうが大きく影響しているとする研究も存在する。それでも、昨季、非常に悪かったソフトバンク捕手陣の盗塁阻止率は今季上昇している。そこに強肩・甲斐の出場機会増がある程度寄与しているのは間違いないだろう。

 だが、甲斐が果たしている盗塁阻止以上に大きな貢献は、その強肩のイメージによって、盗塁を狙われるケースを減らしていることだ。走者一塁、また一、三塁の場面で盗塁を企図されたケースの割合を集計すると、ソフトバンクは2014、15年に非常に高いパ・リーグのワースト値を記録。つまりかなり積極的に盗塁を仕掛けられていたが、今季は数値を下げ、他球団と遜色ないものになってきている。

 この数値の低下に甲斐が貢献しているのは明らかだ。甲斐がマスクを被ったとき、盗塁を企図される割合はチームの平均の半分強まで下がる。他球団は、甲斐の肩をかなり恐れ、盗塁を自重している可能性が高い。

 盗塁阻止率が上がり、盗塁を企図されるケースも減った結果、ソフトバンクが実際に許した盗塁の数も減っている。甲斐がマスクを被る機会がさらに増えていけば、ソフトバンクはリーグ上位の「盗塁をさせないチーム」となるかもしれない。

攻撃でも力を発揮しつつあるソフトバンク捕手陣

 ソフトバンクの捕手陣は、許盗塁以外にも攻撃力において問題を抱えてきた。他のポジションに強打者を多く擁するため表面化してこなかったが、捕手のバッティングは他球団に対してかなり後れを取っていた。同じ打席数をリーグの平均レベルの捕手が代わって立った際に残すと推定される成績に基づく貢献を0としたとき、2015年のソフトバンクの捕手陣(高谷、鶴岡、細川亨など)が果たした貢献は得点換算で-17.1点と推定された。

 この弱点は昨季改善の兆しを見せ、3.7点としていたが、甲斐を軸に高谷、鶴岡の3人が中心となって臨む今季は、大きくプラスの幅を広げそうで、捕手が立つ年間打席数を550打席と想定した場合、その貢献は平均比で16.8点となる計算だ。実現すれば、相対的な数字ではあるが2015年から年間30点以上の上積みとなることを意味し、捕手の攻撃力は、ソフトバンクにとって弱みから強みに転じる可能性が出てきている。打率で比較しても、今季数字を伸ばしているのがよくわかるだろう。

 今季のソフトバンクは、先発投手陣は主力を多く欠き、打線も内川聖一やアルフレド・デスパイネらの離脱が発生している。ここまでまだ首位に立っていないこともあり、2015年や昨季の前半戦のような圧倒的な力を感じる人は少ないかもしれない。

 それでも安定した戦いができているのは、捕手に代表される、弱みを抱えていたポジションにおいて、競争力をじわじわと高めてきたことが好影響しているためだと思われる。捕手以外のポジションに目を向けても、柳田悠岐が集中的に貢献を記録するチームだった2015年と比べると、今季は当時マイナスを記録していたポジションの凹みが小さくなっており、貢献が各ポジションにまんべんなく広がっている様子が見て取れる。「弱みを消す」という形の戦力アップを、今季のソフトバンクは着実に果たしているようだ。(※今季の数値はすべて交流戦終了時点)(DELTA)

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1〜5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。

関連記事(外部サイト)