現役時代通算242本塁打の好打者だったベイカー氏、監督ではプレーオフ常連

現役時代通算242本塁打の好打者だったベイカー氏、監督ではプレーオフ常連

ワシントン・ナショナルズのダスティ・ベイカー監督【写真:Getty Images】

現役時代通算242本塁打の好打者だったベイカー氏、監督ではプレーオフ常連

「名選手、名監督にあらず」とよく言われるが、名選手が名監督になることもある。今季で監督歴22年を迎えるワシントン・ナショナルズのダスティ・ベイカー監督は、現役時代は通算242本塁打を放った名外野手だった。

 1968年、19歳の時にブレーブスでメジャーデビューを果たすと、ドジャース、ジャイアンツ、アスレチックスで19年にも及ぶメジャー生活を送った。この間、2度のオールスター選出、2度のシルバースラッガー賞を獲得した他、ゴールドグラブ賞も受賞。ドジャース時代の1977年にはリーグ優勝決定シリーズMVP受賞、1981年にはワールドシリーズ優勝を経験している。19年で2039試合に出場し、通算打率.278、出塁率.347、打点は1013に達した。

 現役時代以上に、監督としての印象が強い人も多いだろう。1993年、44歳で古巣ジャイアンツの監督に就任すると、10シーズンで3度プレーオフに出場。2002年にはワールドシリーズでエンゼルスと戦ったが、第7戦までもつれた末に、世界一まで一歩及ばなかった。カブス、レッズの監督を歴任し、現職に就いたのは2016年。才能ある若手集団を見事にまとめ上げ、95勝67敗の好成績で地区優勝。今季も地区首位を独走している。

 今年で68歳を迎えるが、考え方が柔軟で、チームスタッフはもちろん、親子以上に年の離れた選手たちからの信頼は厚い。常にドアが開いたままの監督室から流れてくるのは、南の島を思わせるスローなレゲエ。前半戦終了に近づいたある日、「Come on in(さあ入っておいで)」と気軽に招き入れてくれた監督室で、こんな質問をしてみた。

「現役時代からメジャーで50年を過ごす間に、野球は変わったと思いますか?」

 椅子に深く腰掛けた監督は、腕組みをしたまま、思いを巡らせるように語り始めた――。

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 思うに、最近の野球は小難しくなり過ぎたんじゃないかな。複雑になり過ぎた、とでも言うのかな。確かに、昔の野球はシンプル過ぎた。でも、今は複雑すぎると思うんだ。

 何がって? とにかく溢れんばかりの情報だ。それをフィルターに掛けて、自分が使えるものだけを選ぶ必要がある。だって、使えない情報も山ほどあるんだから。スカウティングリポート、ビデオ、スタッツキャスト……いろいろあるけど、自分が必要とするものは何か。軸はブレないようにしないといけない。

 情報が溢れている時代だから、選手は自分で何かを覚える必要がなくなってしまった。昔は、技術に加えて、記憶力の良さが他の選手を出し抜く資質の1つだったんだ。自分なりのデータベースを頭の中に作っておくことがね。今求められるのは、記憶力以上に情報の取捨選択能力かもしれない。そこが一番大きな違いじゃないか。

 便利な世の中だけど、普段の生活から自分の頭を使わなくなった。全ての情報はスマホの中に入っているから、電話番号だって覚えなくていいんだ。カーナビがいい例だな。カーナビを使わずに運転すれば、道に迷っても、どちらが北で南かくらいは判断がつく。だけど、カーナビに全部頼ったら、それすらも分からないだろ。

 自分は頭をシャープに保ちたいから、できるだけスマホに頼らないようにしているんだ。誰かの脳を使うんじゃなくて、自分の脳細胞を使うようにね。対戦相手の情報も、自分の手でメモを書き込んで、記憶するようにしている。アナログだけど、書くと覚えるんだよ。自分の場合、データを読むだけじゃ忘れちゃうからね。

「現代の野球は素晴らしい。だが、気に入らないのは三振が多いこと」

 変わったといえば、栄養学的なアプローチやトレーニング方法も変わったな。もちろん、昔だってトレーニングはしっかりしたよ。でも、今の方が栄養士やトレーナーといったサポートシステムが手厚く整っている。アスリート体型の選手ばかりだし、身体のコンディションに対する意識は高まっているだろう。

 だけど、どうしても分からないことがあるんだ。今の選手の方が身体に気を配っているはずなのに、昔よりも怪我が多い。少なくとも、自分にはそう見えるね。いくら考えても確かな理由は掴めないんだが、思い当たる節はある。練習のし過ぎだ。

 メジャーでは全体の打撃練習は短いけど、その前後で各々打撃ケージで打ち込んでいる。自分に言わせれば、打ち過ぎだね。打撃の調子が良くない時に、感覚を掴むために打ち込むことは当然。だけど、感覚を掴んだと思ったら、ほどほどで終わりにしておいた方がいい。感覚を掴んでから、さらに打ち込むから、またそこで感覚を逃してしまうんだ。そうすると、また感覚を取り戻そうと打ち続ける。こうなる頃にはヘトヘトだ。そういう悪循環を繰り返すから、怪我をする選手が多いように思うんだ。分かるか?

 勘違いしないでくれよ。現代の野球は、これはこれで素晴らしい。ただし、機動力野球が減っていること、アフリカ系アメリカ人の選手が減っていることを除けばね。もう1つ気に入らないのは、全体的に三振が多いこと。三振ばかりじゃ野球にならん。今は誰もがどんな場面でもバットを振り回して三振だ。

 ホームランは大切だよ。ひと振りで試合の流れが変えられるし、何と言っても盛り上がる。だけど、バントや進塁打を使いながら、走者を1つでも先の塁に進めて点を取るのも野球なんだ。ホームラン打者じゃない限り、走者を置いた場面で三振したら野球にならない。走者を進塁させるために、自分は何ができるか。頭を使ってクリエイティブに仕掛けないと。その上での三振だったら文句はないが、根拠の見えない三振が多い。ファンだって三振ばかり見るのは楽しくないと思うよ。

 三振をしないこと。それが、ピッチャーVSバッターという対決の中で、打者に課されたチャレンジなんだ。勝負を制するためにはどうしたらいいか。アウトになっても走者を進めて、得点につながればいいんだ。三振は打者が負けたということ。ダブルプレーよりいいって言う人もいるが、三振は芸がないね。

 野球そのものは変わってはいない。いいチームっていうのは、相手よりも基本的な部分をきっちりプレーできるチームだし、ゲームの細部に気を配れるチーム。そこは、いつの時代も変わらない。

 監督として、自分の選手に対するアプローチも変わらない。選手はいつだって本当のことを知りたがるし、正直な意見を求めている。ただ、前よりも少しだけ「褒めて伸ばす」ことに重点を置いた方がいいだろう。昔は怒鳴り散らしたり、尻を叩くやり方でも、反骨心を見せる選手はいたけど、今はそういう時代じゃない。選手と話をする時でも、相手の言い分を聞いて、理解を示しながら進めていく方がスムーズだ。

選手とのコミュニケーション重視、監督室のドアは常にオープン

 自分には37歳の娘と18歳の息子がいるが、自分の子供に怒鳴ってもいい反応なんて見せやしない。元々、怒鳴って反骨心を煽るようなやり方は好きじゃないし、自分が若い時だって、怒鳴られたらいい気分はしなかったからね。だけど、怒鳴ることが指導法だと思っている人もいる。「お前にはこんなことはできない」「あんなことは無理だ」なんてネガティブな発破をかけることで、「だったら見てろ、やってやる」って選手が奮起した時代もあるから。でも、その方法はもう通用しない。今は、嘘はつかずにポジティブな発破をかけることが大切だね。

 何よりも大切にしているのは、チーム内でのコミュニケーションをしっかり図ることだ。今じゃメールやメッセージ、SNSがコミュニケーションを取るメインの手段で、電話もほとんど掛けない。直接話をすることはとても大切なのに、顔と顔を合わせることはもちろん、電話ですら話をしない世の中だ。

 だからこそ、自分は顔と顔を合わせたコミュニケーションを大切にしているんだ。直接会って話をすれば、表情を見るだけで、正直な気持ちを話しているのか、あるいは強がっているのか、どんな心境なのか察することができる。電話だって、声のトーンを聞けば、うれしいのか悲しいのか、判断はつくだろう。

 自分からコミュニケーションを取ることと同時に、選手から自分に対してコミュニケーションを取りやすい環境を作ることも大切にしているよ。だから、来客がない限り、監督室のドアはいつでもオープンだ。野球のこと、家族のこと、昨日行ったコンサートのこと……。話したいことがあれば何でも、いつだって話しにくればいい。発信するだけじゃなくて、聞く耳を持つことは同じくらい大切なこと。ここで受けた相談は、絶対に口外することはない。

 監督室では、自分は自分の意見を率直に伝えている。もしかしたら、その人物が考えていたことと違うかもしれないし、耳が痛いことを聞かされるかもしれない。でも、それは自分から見た意見であって、1つの参考にしてくれればいい。監督と選手という関係性以前に、1人の人間として、人生の先輩として、同じチームで戦う仲間を思い、1人の責任ある大人の男として成長できるようにサポートすることが大切だから。

 みんな、忘れがちだが、野球選手だって人間なんだよ。喜びもするし、傷つくこともある。スタンドの客席に座るファンと同じ人間なんだ。監督は買い物に行くんですか? なんて聞かれることもあるけど、もちろんだ。妻に「あなた牛乳買ってきてね」なんて言われて、スーパーに出掛けることだってあるよ(笑)。だからこそ、野球をきっかけに知り合った選手たちには、立派な人間に成長してもらいたいんだ。

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 時代と共に野球を取り巻く環境は変わりつつあるかもしれないが、野球を愛し、野球に愛される人の在り方は、何も変わらないのかもしれない。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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