先発は救援よりどれくらい難しい? データで見える「1.25」という数字の差

先発は救援よりどれくらい難しい? データで見える「1.25」という数字の差

楽天・安樂智大【写真:荒川祐史】

同じ防御率3.00でも評価が違う先発と救援、実際は?

「先発は救援より優先度が高い」というのは、昔からプロ、アマを問わず常識とされている。野手で言えば、内野で一番センスのある選手がショートを務めるように、外野で守備の上手い選手がセンターを守るように、一番優れた投手は先発で、エースを任されるのが基本になっている。

 これはセイバーメトリクスによる研究でも合理的な判断であることが証明されており、分業化が進み先発の完投数が減少した現代のプロ野球においても先発投手の重要度は例外ではない。

 先発は最低でも5回を投げるのが仕事とされる一方、一般的な救援は大抵1イニングくらいしか投げないのだから(注1)、常識的に考えて1試合あたりのパフォーマンスは救援の方が良くなるはずである。防御率3.00の先発と防御率3.00の救援で評価が違うのは当然のことだ。先発で通用しなかったから救援にまわした。打ち込まれたから後ろで調整させたというのは、いずれもよく目にする光景だ。

 しかし、実際にどのくらい先発が救援より難しいのか? と尋ねられて具体的な数字が思い浮かぶ人は少ないのではないだろうか。ここでの「難しい」とは救援が先発にまわった場合、どの程度防御率が悪化するか、失点が増えるかということである。

先発と救援の成績を単純に比較すると防御率で0.30ほどの差

 はじめに先発と救援で成績がどの程度違うのか、NPB全体の平均を比較してみたい。イラストは1970年から2019年までの50年を5年ごとに区切り、先発(赤)と救援(青)の成績推移を見たものだ。実線は防御率、破線は守備から独立した奪三振・与四死球・被本塁打の3要素から投手の貢献を測るFIPを示している。ここでは防御率、FIPともに比較を行いやすいよう、NPBの平均を4.00とした場合の値で表した。

 防御率、FIPともに、1970年代から年を経るごとに折れ線が上下に分かれ、先発と救援の差が広がっていっているのがわかる(注2)。近年は特に救援成績が良化傾向にあるようだ。要因としては、投手分業制によって救援が重要視されるようになり、旧来の「救援=先発できない投手」扱いだった時代で先発していたような投手でも、救援にまわるケースが増えたことが大きいと考えられる。

 2015-19年の直近5年で見ると、平均を4.00とした場合の防御率は先発が4.10、救援が3.81。救援防御率+0.30点くらいが先発防御率となっているようだ。ただ、この数字がそのまま難易度の差と言えるかは疑問である。先発投手は防御率3点台を割れば好投手として持て囃される一方で、防御率1点台の救援はさほど珍しくない。先発と救援の難易度の差は実際にはこれ以上に大きいと思われる。優秀な投手は全体的に先発起用される傾向が強いため、それが難易度と相殺して約0.30という小さな差になっている可能性が高い。

 これらを踏まえると、先発と救援とでは、どのようなレベルの投手を起用するかという点で強烈なバイアスが働いており、両者の平均成績を見比べるだけではどの程度、先発が難しいのかは判別できない。現代は分業化によってほぼ先発しかしない、救援しかしない投手も多く、表面上の数字から実態を探るには限界がある。

先発と救援両方を経験した投手の成績の変化から見ると…

 表面上の数字を見ては実態にたどり着けないのであれば、どのような方法をとればよいだろうか。現代野球において先発と救援は分業されているが、シーズン中に両方の役割をこなす投手もいる。彼らの先発・救援成績を比較すれば、前述したバイアスを除いた上で、難易度の差を求めることができるのではないだろうか。

●対象年度:2015-19年(注3)
●対象者:同じシーズンに先発・救援の両方で打者30人以上と対戦した投手

 ここでは上記の条件を満たした投手を抽出し、先発・救援成績を比較することにした(注4)。なお「まず先発挑戦させて駄目だったため以降は救援」といった生存バイアス、「本職は先発だがチーム事情で短期間だけクローザー」のような適性によるバイアスを最低限弾くため、先発・救援どちらかの対戦打者が他方の3倍以上あった選手は除外している。

 この条件で抽出された投手の1人、2019年の安樂智大(楽天)の成績を例に比較の方法を説明する。2019年の安樂は先発として21.1回を投げ自責点14(防御率5.91)、救援として11.0回を投げ自責点3(防御率が2.45)だった。この場合先発・救援間で防御率の差は3.45となる。このように条件に当てはまった投手の投球回、自責点をそれぞれ合計していくことで、妥当な先発と救援の防御率差を出すことができるのではないだろうか。

 ただ安樂の場合、救援での対戦打者はわずか46人。サンプルとして十分ではなく、先発と救援での防御率差3.45が信頼に足るものとは言えないだろう。先発の防御率が悪く出すぎている、救援の防御率が良く出すぎている可能性は十分考えられる。

 こうした問題に対処するため、より対戦打者が少ないほうにあわせて成績に重みをつけたうえでサンプルを収集することにする(加重成績)。安樂の場合、先発で91人、救援で46人と先発で約2倍の対戦数があったため、先発での投球回・自責共に半分の10.2イニング、自責点7として集計するのだ。これによって対戦打者が少ない投手の影響を小さく抑え、比較を行うことができる。同じことを同条件の投手全員で行ったあと、それぞれの加重成績を合算すると、より妥当な先発・救援の難易度の差が生まれるはずだ。

救援での防御率+1.25とすれば、妥当な先発での成績になるか

 前述の方法で合算したのがイラストの表だ。先発の防御率4.61に対し救援は3.36で差は1.25。さきほど紹介した先発と救援の平均防御率の差は0.30ほどであったため、より差が広がる形となった。FIPは4.36と3.58で0.78と防御率に比べると差が小さいが、それでも平均成績では0.20程度しか変わらなかったことを考えると、こちらも大きく広がっていると言っていいだろう。

 FIPの算出要素である奪三振・与四球・被本塁打の数を比較すると、先発・救援で投球内容がどう変わるかをより具体的に把握することができる。同じ打者5944人との対戦で、四死球は先発611と救援617でほぼ変わらなかった。しかし奪三振は先発の946に対し救援で1153と増加。被本塁打も先発の161に対し救援で111と減少に成功している。

 やはり1イニングに力を注いで投球できること、先発にとって壁となる同じ打者と何度も対戦することによる打者の慣れが発生しないことが救援での成績良化につながっているのだろう。またワンポイントリリーフなど、監督の采配により有利な相手(状況)に登板させやすいことも影響していると思われる。

 結果から安直に考えれば、救援の防御率を+1.25点、FIPを+0.78点とするとその投手の先発成績に換算できるということになる。無論、選手個々の適性やチーム事情などは考慮してはいないため、実際に配置転換を行ったからといってこの成績になるとは限らない。

 首脳陣に先発能力がないと最初から判断された投手はサンプルに含まれていない点、疲労蓄積を考慮しきれていない点など、いくつかの問題も残っている。それでも、先発と救援の平均成績をそのまま見比べるよりはずっと実態に迫った数字になっていると考えられ、選手を評価する一つの目安にはなるのではないだろうか。

(注1)2015〜2019年の救援登板で1試合中に1イニングを超過したのは全体の約15%程度。

(注2)FIPは防御率に比べると全体的に先発・救援間での差が小さくなっている。これは先発が残した走者を救援が還した場合、防御率は先発の責任になるがFIPは無関係であること、救援のほうが奪三振数を伸ばしやすいために、走者を還さず残塁させる割合が高めになることなどに起因する。

(注3)サンプル数確保のために年数をむやみに広げてしまうと、予告先発のない時代や、現代の救援と異なる起用法の時代が含まれてしまうため、範囲は5年間に留めた。例えば2000〜2009年は救援登板で1イニング超投げた割合は約28%で近年の倍近い。

(注4)この条件だといわゆるオープナーやショートスターターも先発に含まれてしまうが、全体の中では少数であり該当者を除いても結果はほぼ変わらない、アクシデントによる早期降板とオープナーとを客観的に区別するのが難しいなどの理由から今回は考慮しない。(DELTA・二階堂智志
DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1〜3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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