「日本の野球が進む方向が変わる」? 甲子園の本塁打激増が意味するもの

「日本の野球が進む方向が変わる」? 甲子園の本塁打激増が意味するもの

今夏の甲子園で大会新記録となる6本塁打を放った広陵・中村奨成【写真:Getty Images】

専門家が指摘する本塁打激増の意味、「スモールベースボールが先に来てはいけない」

「第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップ」が1日にカナダのサンダーベイで開幕した。高校日本代表の「侍ジャパンU-18代表」は、初の世界一へ向け、厳しい戦いに挑んでいる。

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 2日(日本時間3日)の米国代表戦はレベルの高い相手投手陣の前に完封負けを喫したが、翌3日(同4日)にはキューバ代表から7点を奪って勝利した。今大会の日本は、高校通算109本塁打を誇る清宮幸太郎内野手(早実)、同65本塁打の安田尚憲内野手(履正社)ら大砲を揃え、歴代屈指の強力打線を形成。世代をリードしてきたこの2人に加えて、キューバ戦ではスタメンから外れたものの今夏の甲子園で評価を挙げた中村奨成捕手(広陵)も注目を浴びている。大会新記録の6本塁打をマークした打撃は、まさに圧巻だった。

 この中村の活躍に象徴されるように、甲子園では全48試合で通算68本塁打が飛び出し、2006年の第88回大会で記録された史上最多大会通算本塁打数60本を大幅に更新した。その理由とは、何だったのか。そして、この“本塁打量産”は、この先の野球界にどのような影響を与えるのか。

 現役時代に南海、ヤクルトでプレーし、引退後は名将・野村克也氏の“右腕”としてヤクルト、阪神、楽天でヘッドコーチや2軍監督を務めた松井優典氏は「(プロの目から見て)ある意味では刺激のある大会だった」と話す。「スモールベースボールが先に来てはいけない。日本の野球が進む方向が変わってきている」というのだ。

 まずは、なぜこれほど多くの本塁打が生まれたのか。

「確かに選手の体が大きくなっている。食べるものが変わってきているし、環境面の整理も大きいと思います。筋力トレーニングの進化などもあると感じます。ただ、徐々に本塁打数が増えてきたというのならわかりますが、今大会は去年からいきなり増えた。用具の問題など、色々なことも言われていますが、投手力で言えば、1人で最後まで投げるとか、連投するとか、そういうピッチャーが少なかったですね。裏を返せば絶対的なピッチャーがいない。そういうことも、投手力もある。そこら辺が考えられるところ」

 食事、トレーニングの変化は、確実に選手のパワーアップにつながっているという。ただ、松井氏は「『ホームランが増えたのは、筋トレして体が大きくなったから』と言うのは簡単だけど、プロ野球を考えた場合に考え方を変えていかないといけないんじゃないか」と話す。どういうことか。

「盛岡大付の主軸だった植田(拓)くんという選手は、身長165センチでガンガン、ホームランを打っていました。確かに体格も良かった。身長が低い選手は、成長が早いから、高校からどんどん筋力トレーニングをできるというのもあるかもしれません。ただ、植田くんのような選手は、15年、20年前だったら、絶対にあんなバッティングをさせてもらえていないと思います。『まだ小さいんだから』と言って、『三遊間へ転がせ』とか『スイッチヒッターになれ』とか、そう言われていたような選手かもしれない。昔なら、165センチの選手だったら、中学校のうちにスタイルを変えられている。過去にそういうバッターはたくさんいました」

「高校野球の監督は『しつけの野球』で終わっていたのではないか」

 最近は体が小さくても、この植田のようにしっかりとバットを振って、長打を打てる選手が増えてきた。これこそが大きな変化だという。

「『ピッチャーを中心とした守備のチーム』とよく言われます。走塁であったり、バントであったり、『甲子園戦法』と言われるような野球がある。プロ野球でも、キャンプは投内連携、バントシフト、牽制からスタートする。これは何の意味があるかというと、チームとしての作業を確認していくということでです。ただ、チームというのは個人の能力アップが不可欠。それが、ついついチームとしての作業に頭が行き過ぎる。チーム力とか、チームのつながりを生もうとする時に、そういう取り組みを入れるんです。だから、キャンプの最初にやるわけです。

 プロ野球がそうなると、今から成長していく若い選手、つまり、中学でも高校でも、チームを作る時にそこから入っていく。連携プレー、牽制、全力疾走、盗塁、走塁。これはある意味で『しつけ』の部分です。『しつけ』でチームとしての形を作り、監督が何かを言った時にパッとできるような選手たち、組織にする。ただ、そういうふうなところが、ある意味では『甲子園野球』と言われたのではないかと思うのです。そして、そこで止まっていたんじゃないか、と」

 日本では規律が重視され、チームプレーが良しとされる。ただ、それが先に来てはいけないのではないかと、松井氏は言う。

「『ピッチャーを中心とした守備と走塁のチーム』というのは、あくまでベースです。ただ、このベースの部分で『これがチームだ』と思っていたのではないでしょうか。指導者のちょっとした勘違いとも言えるかもしれません。失礼な話かもしれませんが、高校野球の監督は『しつけの野球』で終わっていたのではないか、と。

 チームづくりをする時には、やはりそう思ってしまうものです。『チームを固めたい』と。『走れ!』と怒るのは、チームに一番浸透しやすい。言われれば、誰でも走ることは出来るからです。でも、『打て!』と言って、それを選手にやってもらうのは、なかなか難しい。だから、簡単なほうに頼ってしまっていた。守備では『体でゴロを止めろ』とは言えます。それがいいかは別問題として、そのくらい『チームのために』というのが強かった。組織づくりのためには、1つのチームとして走ったり、守ったり、バントしたり、というのが確実と思ってしまう。そこで止まっていたのではないでしょうか」

 今大会で本塁打が量産されるのを見て、松井氏はこれが変わってきていると感じたという。指導者の変化も大きいというのだ。

今夏甲子園は「刺激のある大会」、日本球界全体が変わっていく可能性も

「『やっぱり体を作って、強く振るべきだ』という指導者が現れてきた。当てるのではなく、『振れ』『振れ』『振れ』と。それに伴う筋トレもさせて、ご飯も食べさせて、1球目から振るからにはタイミングも分からないから、相手の映像も見ておけ、と。昔はゴロを打ったらエラーが出る、チャンスが生まれる、とされてきました。ただ、そのせいでゴロを打つ打撃になってしまっていた。それが変わってきている」

 WBCで2度の世界一に輝いた日本の最大の強みは、「スモールベースボール」だと思われてきた。松井氏も当然、この長所は重要だと考えている。ただ、「スモールベースボールが先に来てはいけない」と指摘する。

「スモールベースボールは日本の特技とされています。ただ、最終的には体力的な野球に負ける。だから、私はよく批判される巨人のチームづくりは間違っていないと思います。V9の巨人を見たって、役者が揃ってる。その中でチームとしての機能をどう発揮するかが重要なんです。V9の巨人は、チームの機能を発揮することが終着点ではなかった。

 1つのバントを決めて、1点を守って逃げ切る。それもいいのですが、限界があります。今の高校生は、そこまで振らなくてもいいだろと思うけど、それでも打ちますよね。あれを見ていると、好球必打というのがあっての世界だなと改めて感じます。今年、これだけのホームランが出た。色々な要素が指摘されていますが、捉え方を変えた時に、我々プロもそういう捉え方をしないといけない。そういう反省があります。だから、ある意味では刺激のある大会でした」

 今夏の甲子園をきっかけに、高校野球だけでなく、日本球界全体が変わっていく。そんな可能性すらあると、松井氏は考えている。

「今から思えば、やまびこ打線を率いた池田高校の蔦文也監督は、ある意味では今のレベルの野球をやっていたのではないかと思います。あれから30年以上が過ぎて、今年の甲子園ではホームランがたくさん出ました。確かに、『筋トレをして体が大きくなったから』と理由を挙げるのは簡単ですが、プロ野球を考えた場合に、考え方を変えていかないといけないのではないしょうか。タレントを育てる。そこが欠けている今の日本球界がある。高校野球の指導者は変わっていっています。それが全てではありませんが、進む方向が若干変わってもいいのではないかと思うんです」

 本塁打量産をただの「現象」で終わらせてしまうのか。それとも、変化の始まりと見るのか。日本球界は大きな転換期を迎えているのかもしれない。(Full-Count編集部)

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