大谷翔平の“勝ちたい”発言が「積極的な提言」と受け止められる背景(鈴村裕輔)

大谷翔平の“勝ちたい”発言が「積極的な提言」と受け止められる背景(鈴村裕輔)

大谷の発言も、大谷自身も好感を持たれている(C)ロイター/USA TODAY Sports

【メジャーリーグ通信】

 今季の本拠地最終戦となった9月26日のマリナーズ戦後、大谷翔平が記者団とオンライン形式で行った記者会見は、周囲を騒然とさせるものだった。

「ファンの人も好きだし、球団自体の雰囲気も好きだが、それ以上に勝ちたいという気持ちが強い。プレーヤーとしては、その方が正しいと思う」といった発言は、地区優勝争いに加われないだけでなく、6シーズン連続の負け越しが決まったエンゼルスに対する厳しい批判として捉えられた。

 しかも、報道陣の中には、「大谷は負けるのに疲れた。希望しているのは勝利だ」と、今季終了後に確実な戦力の補強ができなければ、大谷がフリーエージェントの権利を獲得する2023年には、他球団に移籍するのは確実と指摘する者もいるほどだった。

 大谷の一連の発言を受け、監督のジョー・マドンは、「すぐに移籍するということはないと思う」と「大谷、移籍」という見立てを否定している。

 主砲のマイク・トラウトが故障者リスト入りし、長打力を期待できる選手の数が揃わない打線と、大谷以外は投球回が100回に達した者がいない投手陣を眺めれば、球団の雰囲気はよいものの勝利への貪欲さが感じられないという批判も、ある意味で当然だ。

 ところで、大リーグではしばしば、選手が球団や機構に不満の声を上げる。

 最近でもブライス・ハーパー(フィリーズ)が「大谷が投げ、トラウトが打つ場面を想像するだけで心が躍る」と、五輪への選手の派遣を行わない機構を批判している。また、今年6月にはピート・アロンソ(メッツ)は投手による滑り止め粘着物質の使用禁止措置について、FA選手の大型契約を阻止するのが目的だと機構と球団を非難している。

 日本の場合、「フロント批判」や「監督批判」には厳しい視線が送られやすい。事情は大リーグも同じで、球団の顔として親しまれたサミー・ソーサがカブスからオリオールズに移籍したのも、監督の批判を繰り返し行ったことが最大の原因であった。

 ただ、同じように批判を行っても問題視されない選手もいる。言動の謙虚な選手などはその典型で、そうした選手の批判はむしろ好意的に捉えられることも珍しくない。今回の大谷の場合も、投打にわたる活躍は明らかだし、球場の内外での配慮のある行動も、しばしばテレビやSNSで取り上げられ、好感を持たれている。

 そのため、大谷の発言も、球団批判というよりは、チームの再建に向けた積極的な提言として受け止められている。その意味で大谷は今季、大リーグ屈指の好選手となっただけでなく、試合後の発言とその影響の面でも、大リーグの環境に適応したと言えるのだ。

(鈴村裕輔/野球文化学会会長・名城大准教授)

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