「投げない怪物」著者に聞く 大船渡・佐々木「温存波紋」の行方

「投げない怪物」著者に聞く 大船渡・佐々木「温存波紋」の行方

プロで輝けるか(C)日刊ゲンダイ

10月17日のドラフトで最多の4球団が競合し、ロッテが当たりくじを引き当てたMAX163キロ右腕の佐々木朗希(大船渡)。今夏の岩手大会の決勝戦で登板しないまま、花巻東に敗れた。この一件は球界に衝撃を与え、大激論にも発展した。先月発売された「投げない怪物」(柳川悠二著 小学館 1500円)では佐々木にフォーカスするとともに、先発完投型の投手が減った現代の高校野球事情についても詳しく書かれている。柳川氏に話を聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ――本書を執筆したきっかけは?

「当初はこの本でも書いている大阪桐蔭(大阪)をはじめとする強豪私立の中学生の青田買いをリポートし、『強豪校はこうやってつくられる』というテーマで取材を続けていました。そこで出てきたのが佐々木です。佐々木は強豪校とは対極にある地方の高校に進学。中学時代からの仲間と一緒に甲子園を目指す……という昨年の金足農(秋田)の吉田(現日本ハム)と重なる部分もあった」

■外科医が称賛

 ――なぜ、佐々木は岩手大会の決勝で投げなかったのですか。

「大船渡の国保監督は佐々木の肩ヒジに配慮していました。佐々木は中学から腰の痛みや成長痛を抱えていたので、ナイーブな状態だった。さらに、国保監督は佐々木が163キロを投げた直後から、診察した医師の言葉を借りながら、『まだ(球速に)耐えられる体ではない』と話していた。実際、連投ができないような状態なら仕方ないし、『投げさせなかった』判断を批判するつもりはありません」

■ナインの夢を…

 ――ですが、国保監督に対しては厳しい声も多い。

「僕が疑問に思ったのは、佐々木の将来を取ることによって、ほかの部員たちの夢をないがしろにした、ということです。大船渡の部員の中には、甲子園に出ていい大学に行きたい、と言った子もいた。さらに、甲子園に出る出ないは就職にも関わる。高校野球を真剣にやっている子たちにすれば、甲子園は夢の舞台。それを結果的に国保監督が奪い取った。そこは本書でも批判しました」

 ――佐々木はエースで4番。それが花巻東との決勝当日は打者としても出場しなかった。

「当日の選手起用は疑問だらけです。佐々木が投げられないにしても、なぜ、実質4、5番手の投手を花巻東相手に先発させたのか。なぜ、炎上していっぱいいっぱいの先発を六回まで引っ張ったのか。なぜ、試合中に他の投手を準備させなかったのか。なぜ、佐々木を代打ですら使わなかったのか。当日、国保監督はナインに『今日は佐々木を先発させない』と言っただけで、『そもそも試合に出さない』とは話していない。そうしたもろもろの意図を僕らメディアに話せというのではない。せめて、ナインに説明する義務はあったのではないか。僕は決勝当日の現場にいましたが、子供たちの心が監督から離れていたのは目に見えて明らかでした」

 ――敗戦直後、ナインの様子はどうでしたか。

「佐々木を責める選手はひとりもいませんでしたが、『どうして監督は佐々木に投げさせなかったんだろう』という思いを抱えている子はいた。何というか……やりきれなさが漂っていました」

 ――少し前の高校野球なら、地方大会の決勝でエースが投げないなんてあり得なかった。

「去年ですら、金足農の吉田は秋田大会から甲子園の決勝まで1517球をひとりで投げ抜いた。世間では金足フィーバーが巻き起こり、高野連の八田会長も『ひとりでマウンドを守る吉田をナインがもり立てる姿は、高校野球のお手本』と絶賛していた。今年の夏、鳴門(徳島)は予選からエース左腕の西野がひとりで投げ、甲子園の2回戦で敗退した。すると大手新聞社の記者が森脇監督を『なぜ、ひとりで投げさせたのか』と、問い詰めていた。たった1年で高校野球が激変し、従来のやり方が批判されている」

 ――佐々木の登板回避を機に、高校野球は変わろうとしている?

「甲子園をひとりで投げ抜くような怪物はもう生まれないと思います。大阪桐蔭も複数投手のローテ制。今の甲子園は二枚看板や継投といった、ひとりの投手に頼らないチームづくりをしないと勝ち上がるのが難しくなっている。明徳義塾(高知)の馬淵監督ですら、今夏の予選ではエースを決勝まで温存していたほどです」

■青田買い実情

 ――必然的に部員を多く抱える強豪校が有利になる。

「佐々木や去年の吉田のようなケースは、さらにまれになっていくでしょう。甲子園を目指す子はますます強豪校に集中し、『あの学校は連投させない』という理由で進学先を選ぶ球児も出てくる。大阪桐蔭が強いのは、素質のある中学生を集め、適材適所に配置し、練習試合や公式戦で競わせ、頻繁にベンチを入れ替えることでレベルアップを図っているからです。大阪桐蔭は甲子園でベンチ入りしていない選手ですら、有名私学に進学している。そりゃあ、中学生がこぞって行きたがるわけですよ。強豪校が中学生を青田買いしているように見えて、中学生に品定めされているのが実情です」

 ――今後、高校野球はどうなりますか?

「高校野球にはこれまで、歴史の転換点となる試合がいくつもあった。1983年にKKコンビを擁するPL学園(大阪)が優勝候補の池田を破った試合、そのPLを横浜(神奈川)の松坂が延長十七回をひとりで投げ抜いて破った試合などです。佐々木の一件もあって、むしろ選手が『監督、今日は投げられません』と登板拒否するようになるかもしれない。甲子園より健康を優先する新たな価値観が生まれた試合として、この夏の岩手大会決勝は、語られる試合になるかもしれない。それでも、佐々木の将来を守るあまり、結果的に他のナインの夢を奪う形になった国保監督の采配を称賛することは僕にはできません」

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