ロッテ佐々木朗希「夢の170km」に大騒ぎ 執拗に球速求める“データ全盛時代”の危うさ

ロッテ佐々木朗希に「夢の170キロ」とスポーツ紙が大騒ぎ 球速求める風潮に警鐘

記事まとめ

  • スポーツ紙はロッテ佐々木朗希の体力測定の結果を掲載、170キロも夢ではないと大騒ぎ
  • 巨人OBの高橋善正氏は「球速を追い求めるあまり、制球が乱れては意味がない」と語る
  • MLB平均以下のドジャース前田健太が先発3番手に抜擢されそうなのも制球の安定が大きい

ロッテ佐々木朗希「夢の170km」に大騒ぎ 執拗に球速求める“データ全盛時代”の危うさ

ロッテ佐々木朗希「夢の170km」に大騒ぎ 執拗に球速求める“データ全盛時代”の危うさ

163キロが注目される佐々木(C)共同通信社

野球界で、投手の球速が注目されるようになって久しい。

 例えば、19日付のスポーツ紙は、163キロの速球を投げるロッテのドラフト1位ルーキー・佐々木朗希の体力測定の結果を掲載。筋肉の数値自体は大したことがないのにそれだけのスピードボールを投げるのだから目標の170キロ到達も夢ではないと騒いでいる。

 16日付のスポーツニッポンは、巨人がキャンプ地・宮崎のブルペンにスピードガンを設置すると報じた。宮本投手コーチは就任時から、若手投手の球速を3キロアップさせることを目標に掲げているという。投手には「〇〇〇キロ右腕」という形容詞が当たり前のようにつき、ほとんどの投手が1キロでも速い球を投げたいと考えているのが現状だ。

 球速にこだわっているのは、プロ野球の投手に限らない。今春のセンバツへの出場が有力視される高校生投手は「球速をあと5キロはアップさせたい」「目標は150キロ」などと話す。

■高橋善正氏「制球が乱れる」

「投手にとって、球速が大きな武器になるのは事実です。けれども、球速を追い求めるあまり、制球が乱れては意味がないでしょう」と、現役時代に完全試合を達成した巨人OBで評論家の高橋善正氏はこう言う。

「たとえ200キロの球を投げても、ストライクゾーンに行かなければただのボール球です。最近のプロ野球を見ても、投手が平気でホームベースの手前でワンバウンドする球を投げる。捕手が外角に要求しているのに内角に投げる逆球なんてまだ序の口、フルカウントから打者の頭部付近に投げる投手もいます。

 少年野球のころから、速い球を投げるのがいい投手だと刷り込まれる弊害で、投手は狙った場所に投げる意識が希薄なのです。球速にこだわれば10割の力で投げなければならないわけで、いきおいフォームも崩れる。投げ方が乱れているのだから、狙ったところに投げられるはずがありません」

■逆球の経験は「片手くらい」

 例えば、メジャーで12年連続2ケタ勝利を継続中のサイ・ヤング賞投手、グレインキー(36=アストロズ)の速球の平均球速は145キロ。メジャー平均(約150キロ)を5キロも下回っているのに勝ち星をコンスタントに重ねられるのは、多彩な変化球も含めて内外角にきちんと投げ分けられる制球力があるからだ。速球の平均球速148キロ、同様にメジャー平均を下回っている前田健太(31=ドジャース)が今季、強豪チームの先発3番手に抜擢されそうなのも何より制球が安定していることが大きい。

 日本球界でも「神様、仏様、稲尾様」と言われた通算276勝の稲尾和久(西鉄)は抜群に制球が良かった。1958年、巨人との日本シリーズで7試合中6試合に登板して日本一の立役者となった右腕は、逆球を投げた経験について「片手くらいあるかな」と答えたという。あれだけ投げまくった「鉄腕」が、逆球はたった5回しかなかったということだ。

 メジャーも日本のプロ野球も、いまやデータ全盛。膨大な統計をもとにはじき出した戦略を、グラウンドで生かそうと躍起になっている。極端な守備シフトなどはその典型だが、あくまでも投手は狙ったコースに投げるのが前提。左打者に引っ張らせて右方向にゴロを打たせようとしているのに、投球が外角に外れたり、ワンバウンドしたりしてはシフトも意味をなさない。

■スピードガンの普及も影響

「投手が制球以上に球速にこだわるようになったのは、スピードガンの普及が大きいと思う。制球力に明確な基準はありませんけど、球速はハッキリと数字に表れ、一目瞭然で分かりやすい。選手も指導者も競うようにスピードを求めたのでしょう。ことさらに球速にこだわるマスコミの影響も大きいですよ。それに打者のレベルダウンもあるでしょう。同点の九回2死満塁フルカウントからベースの手前でワンバウンドするフォークを空振りして三振に倒れながら、フォークだから仕方ないと悪びれることなくベンチに戻ってくるプロ野球選手すらいるそうですから。

 球速は先天的な部分が大きいのに対し、制球は後天的に鍛えられると思う。どんなに練習しても肉体的な部分で速い球を投げられない投手はいますが、制球力は練習によってリリースポイントの感覚をつかめますからね。投手が打者をブラッシュボールでのけぞらせて次は外角スライダーかという場面で、とんでもないところに投げていれば、見ている方も面白くなくなりますよ。投手は制球の重要性を再認識すべきだと思う」(前出の高橋氏)

 速い球を狙ったところに投げられればベストだが、なかなかそうもいかない。球速にこだわるあまり制球をおろそかにしていれば、野球の質も低下する。結果としてファンの野球離れを招きかねないというのだ。


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