熱き侍たちが躍動!! メジャーリーグ Times 最大の被害者は田中将大? 日本人投手、受難の時代

 最近のメジャーリーグでは、今シーズンに入ってからの「ホームラン急増問題」が話題になっている。
 メジャー全体で見ると、7月18日現在、9イニング当たりの本塁打数は1.23本。昨年は1.09本で'14年は0.83本だったので、昨期と比べて13%、3年前に比べると5割近くも一発の出る頻度が高くなったことになる。
 原因はどこにあるのか?

 真っ先に疑われたのは、ストライクゾーンの変更だ。
 MLBは今シーズンからストライクゾーンの下限を、膝のお皿の下の端から上の端に変更した。ストライクゾーンの上限は「肩の線とベルトの線の中間点」で変更はないため、ストライクゾーンは縦に6、7センチ狭くなったことになる。
 技巧派投手はストライクゾーンの下限が上がることで、シンカーやスライダーを低めに集めてゴロを引っかけさせるピッチングがやりにくくなる。そのため甘いコースに入る投球が増え、結果的に一発を食う頻度が高くなると予想されていた。

 しかし、いざ始まってみると、この予想は完全に外れた。
 「審判たちが、ストライクゾーンの変更を厳格に守っていないんだ。多くの審判は、これまで通り膝のボーダーラインに来た低めの投球をストライクと判定することが多い。だから、数%低くなると予想されたストライク率が全然下がらず、昨年と同じ63.55%なんだ。だからストライクゾーンの変更が本塁打数の急増につながったという仮説は成り立たない」(スポーツ専門局のアナリスト)

 それに代わって有力視されるようになったのが、秘密裏に行われたとみられる使用球の変更だ。
 新たに使われるようになったボールは、これまで通りコスタリカにあるローリングス社の工場で生産されたもので、反発係数も規定内に収まっている。しかし重さは、公式球の重量の範囲(141.7〜148.8グラム)の下限に設定されており、従来、メジャーで使用されていたものより5グラムくらい軽い。しかも、縫い目が低くなっているので、受ける空気抵抗が低い。そのため、芯でとらえた打球は1.5〜2.1メートル飛距離が伸びる。結果的に、ウォーニングトラック(フェンス手前)で外野手にキャッチされていたフライ打球がホームランになるケースが多くなった。
 この飛ぶ新ボール導入は、'15年シーズンの後半から部分的に行われていたようで、導入以前の'14年はフライ打球が本塁打になる頻度は9.5%だったが、導入後の'15年は11.4%に上昇。'16年には12.8%になり、今季は7月18日時点で13.7%までアップしている。メジャーでは例年、気温が上昇して空気が乾燥する7、8月は本塁打がかなり出やすくなる。そのため、今季終了時点でフライ打球が本塁打になる比率は14%台になる可能性が高い。

 この秘密裏に行われた「飛ぶ新球」導入の恩恵を最も受けるのは、打球がフライになりやすいフライボールヒッターたちだ。代表格に、フライ打球率が際立って高いギャロ(レンジャーズ)、ベリンジャー(ドジャース)、アロンソ(アスレチックス)の3人が挙げられる。この3人はパワフルな打撃と豪快なアッパースイングが特徴で、フライになった打球の25〜30%が外野席に飛び込む。そのため、今季、一躍メジャー屈指のホームランバッターと見なされるようになった。
 一方、この新ボール導入による最大の被害者になったのが、打球がフライになりやすいピッチャーたちだ。日本人投手はフォーシーム(通常の速球)主体のピッチングをするため、大半がこのタイプに属する。そのため、今季、本塁打を打たれる頻度が高くなっている者が多い。

 その代表格がヤンキースの田中将大だ。
 田中は、一発が出やすいヤンキースタジアムで投げないといけないので、他の投手より一発を食らいやすい。それに加え、今季は全投球の25%を占める伝家の宝刀スプリッターと、20%を占めるツーシームの制球が悪く、高めに浮いたところをアッパースイングで下から叩かれ、イヤになるほど外野席に運ばれた。
 今季、田中は被本塁打率(9イニング当たりの被本塁打)が2.0とメジャー全体のワースト3位。フライ打球が本塁打になる比率は22.6%でメジャー全体のワースト1位だ。7月18日現在、田中の防御率は5.33と悲惨な数字になっているが、この事態に陥った一つの要因は、間違いなく飛ぶ新ボールにある。この秘密裏に導入された「飛ぶボール」は、日本人投手にとって疫病神のようなものだ。

 正式な手続きを経て導入が決まったものではないので、短期間で使われなくなる可能性は果たしてあるのだろうか?
 答えはノーだ。なぜならこのボールの導入は「ホームランがたくさん出る野球が、お客さんを球場に呼んでくれる」と語るマンフレッド・コミッショナーの強い意志が働いているからだ。それを考えると、日本人投手受難の時代がしばらく続くことになるかもしれない。

スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。

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