ライバル、盟友。日本で一番長い夏を戦った宮城2校

ライバル、盟友。日本で一番長い夏を戦った宮城2校

閉会式のあと、仙台育英と東北の選手で合同写真撮影が行われた。勝者と敗者、ライバルの枠を超えた友情がそこにあった

<高校野球宮城大会:仙台育英7−2東北>1日◇決勝◇Koboパーク宮城

 その光景は一枚の絵のように、清々しく胸に飛び込んできた。

仙台育英が昨夏の代表校・東北に7−2で勝ち、2年ぶり26度目の優勝を決めた。仙台育英はセンバツに続く2季連続の甲子園出場だ。

 閉会式のあと、ちょっと珍しいことが起こった。式が終わり、報道陣の案内で集合写真を撮ろうとした時だ。誰が発声したのかわからないが、両校の選手が歩み寄り、合同で集合写真を撮ることになったのだ。一瞬、目を疑った。甲子園をかけた戦いのあとは、敗者は泣き崩れ、見ていられないほどの姿になる。勝者と敗者。「残酷」な2色の色分けを見ることがほとんどだからだ。

 両校の選手は交互に肩を組んでカメラの前に並んだ。勝った仙台育英の選手は満面の笑み。負けた東北の選手はやっぱりうまく笑えてはいない。しかし、42人の顔は晴れやかだった。雨天順延や、準決勝再試合などで「日本一遅い決勝戦」になった宮城大会。地方大会を締めくくったのは、戦いを終え、涙をしまい、高校生に戻ったライバル校同士の誇らしい姿だった。

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■100年越えのライバル、伝統校

 仙台育英と東北。両校は、言うまでもなく宮城の、いや東北の高校野球をリードしてきた名門校だ。ともに創部は100年を越える。甲子園出場回数は、仙台育英が38回、東北が41回。甲子園通算勝率も仙台育英.538(全国33位)。東北が.512(同35位)とほぼ互角の数字を残している。今夏、決勝戦が2006年決勝再試合以来、8月に日程がずれこんだのだが、この時も仙台育英−東北のカードだった。過去の決勝対戦は18回。仙台育英が11勝7敗と勝ち越している。東北は近年、監督の交代などもあり、腰を据えたチーム作りができない時期があったが、昨夏の準決勝で仙台育英を倒し7年ぶりに優勝。母校の立て直しに燃える我妻敏監督(35)と、2年連続負けるわけにはいかない仙台育英・佐々木順一朗監督(57)の、意地のぶつかり合いも見えた今夏の決勝戦だった。

 ライバル争い、覇権の行方は、宮城大会の最大の注目点だった。2校は新チーム結成から3度対戦。昨秋の地区、今春の地区、東北大会。佐々木監督はエース長谷川拓帆(3年)を一度もマウンドに送らず“温存”し3勝した。東北は長谷川との対戦を「夏」に想定し、冬の間からスライダーの見極めや、スプリットの対応に時間を注いだ。そんな情報が耳に入るたび、仙台育英の選手は気を引き締め、朝6時からの朝練習で弱点克服に取り組んだ。挑戦者と王者。気負いや慢心なく、人間性を含めた「いいチーム」がともに出来上がった。

 「ライバル」であっても、仲が良かった2校。スポ少時代のチームメート、シニア時代からのライバル、中学軟式の選抜チーム…と、高校入学前から親交が深かった選手が多い。子どもの頃から、宮城の野球で育ってきた仲間同士。公式戦はいつも胸が高鳴る「再会の場」でもあった。驚いたのは、応援団の堀田知希団長(仙台育英・3年)と、梶原大輔団長(東北・3年)も、それぞれ東松島シニア、石巻中央シニア時代から交流があり、大会中でもLINEで選曲の相談をしあっていたことだ。「応援でも高め合おう」。雨で不運な失策が続いたこと以外、この決勝戦は「最高の舞台」だったといえる。

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■スポーツの中にある、ライバル・友情のスイッチ

 ライバル校が仲がいい。他の県ではタブーとされていることかもしれない。ライバル校を「打倒○○」とあえて意識し、開会式などでの会話を一切禁止にしている県もある。東北人の人柄は情に深く、根がやさしい。試合が終わればもとの「友達」だ。文頭の合同記念撮影にそれが現れていた。

 ゲームセットの後、山田利輝(仙台育英・3年)と抱き合い、「ありがとうな。がんばれよ」と声をかけたのは、同じ東部シニア出身の佐藤碩人主将(東北・3年)だった。「悔しいですけど、仲間なので」。すこし笑顔になった。小川拓馬(仙台育英・3年)は「東北を倒してから甲子園に行かないと意味がない。決勝が東北に決まった瞬間、東陵(準決勝)には絶対勝たないといけないと思った。延長15回再試合になったけど、負けられないと思った」。東北を破り、甲子園で勝つことへの覚悟が、すでに顔に表れていた。 

 試合の後、東北のグラウンドに行くと、ユニホームを着たまま長いミーティングが行われていた。「打倒育英」に燃えた1年。妥協のない準備をしてきただけに、悔しく、全員の目から涙がこぼれた。結束が強かった3年生の代が終わり、思いは次チームへ引き継がれる。メンバー20人中、9人が下級生。仙台育英が甲子園に出発した日、東北の新チームは始動した。ライバル伝説は、これからも続いていくだろう。

 今夏の地方大会は、大阪桐蔭−履正社、横浜−東海大相模など、数多くのライバル校の激戦があったが選手たちは「野球」という世界の中で、「ライバル」、「友情」のスイッチを切り替えている。社会人になると、ライバル心が嫉妬になったり、負けん気が意地になってしまうことがある。大人になると見失ってしまうスイッチを、選手たちは楽しく切り替えて、純粋に勝負と向き合っていた。野球の、スポーツの持つ力に、清々しさと、温かさと、そして忘れていた何かを思い出すことができた。今年も、地方大会の夏が終わった。【樫本ゆき】