レアルの3連覇達成でリバプールとの最大の違い──「ただのフットボールの試合」ではなかった?

レアルの3連覇達成でリバプールとの最大の違い──「ただのフットボールの試合」ではなかった?

3連覇という偉業を成し遂げたレアル・マドリード

試合が終わった今となってみれば、チャンピオンズリーグ決勝前日会見でリバプールのユルゲン・クロップ監督が語った言葉は選手たちに届かなかったのかもしれない。いや、彼らの胸には響いたが、とてつもなく大きな舞台が指揮官の望みを打ち消したといえばいいだろうか。

「明日(のCL決勝)はナーバスになってしまうかもしれないが、普通にやってほしい。自分の得意なプレーをいつもどおりに。シュートを打ち、ゴールを狙い、クロスを放ち、ヘディングを合わせ、やりたければバイシクルにトライする。当然、大一番ではある。それでも所詮は、ただのフットボールの試合なのだ」

重要な試合の前に指揮官がやるべき最も大切なことのひとつに選手たちからプレッシャーを取り除くことがある、と言われる。これに同意するか、と問われた後に50歳のドイツ人監督は「同意する」と言い、そう続けた。

けれども、クラブフットボールで最高の栄誉がかかった試合では、物事はそれほどシンプルに運ばなかった。対するレアル・マドリーのマルセロが前日に「まずは相手の出方を見る」と話していたように、序盤から両チームが探り合うような展開で試合は推移していく。

ただし、キエフの夜にはこれ以上ないほどの緊張が張り詰めていた。ひとつのミスが命取りになる──。それはピッチ上の22人だけでなく、詰めかけた多くのファンもきちんと理解していた。

前半はクロップ監督が自称する“ヘビーメタル・フットボール”は影を潜め、相手がボールを保持しても、いつものように前からプレスを畳みかけることはなかった。

試合が動いたのは、信じがたいミスによるものだった。GKロリス・カリウスがボールをキャッチした後、すかさず味方に手でパスを出したところにレアルのカリム・ベンゼマの足が伸び、あろうことか、ボールはゴールに転がっていった。

おそらく、この24歳のドイツ人GKには、知らぬ間に重圧がのしかかり、視野が極端に狭くなっていたのではないかと想像する。プレミアリーグで2シーズン目を過ごし、チャンピオンズリーグは今シーズンが初。ホームでの準々決勝ではすさまじい破壊力を備えるマンチェスター・シティを完封するなどチームの躍進に貢献してきた。

だが、CLファイナルはそれまでの試合とは別次元のもの。しかも、相手は欧州で最も成功を収めてきたクラブだ。目の前には超人的にゴールを重ねるクリスティアーノ・ロナウドもいる。これといったタイトルを持たず、代表にもまだ選ばれたことのないGKが、平常心を保てなかったとしても不思議ではない。

もちろん、エースのモハメド・サラーがセルヒオ・ラモスの「レスリングのような」(クロップ監督)タックルによって負傷離脱したことも、勝負を分けた大きな要素だろう。

それによって、リバプールの選手たちに動揺が走り、逆にレアルは試合を支配し始めた。ただし先制された直後には、CKからデヤン・ロブレンがそのラモスをなぎ倒すようにヘディングで競り勝ち、サディオ・マネのゴールでリバプールが追いついた。

大勢の赤いサポーターが狂喜し、反撃の狼煙(のろし)を上げるように発煙筒が焚(た)かれ、それに呼応したチームは“ヘビーメタル・フットボール”をピッチ上に描き始める。だが、それもつかの間、交代で入ってきたガレス・ベイルが見事なバイシクルを決めてレアルが勝ち越すと、終盤にはブレ球のミドルでGKカリウスを正面から打ち破った。

クロップ監督が推奨していたバイシクルを相手に決められたのだから、皮肉なものだ。そして、最後の失点はカリウスの2度目のミスという他ない。その後にベイルが突進してきた際には、出て行くこともできず、ただただうろたえているようだった。この時点では、自分がどこに立っているのかもわからなくなっていたのではないか。

一方のレアルは、今年の決勝でも何事もないように普段のパフォーマンスを見せた。いや、今季についていえば、不安定な国内での出来と比べて数段上の内容だったと言える。ジネディーヌ・ジダン監督がロナウドについて言っていたことが思い出される。

「重圧に屈する人は多いが、彼は逆にそれを力に変える。重要な瞬間のために生きているのだ」

それは、このレアル・マドリーというチームそのものにも置き換えられる。格式と威厳。彼らの強さはそうした無形のものでしか表現できないような気さえする。指揮官が好む言葉は、「多くのハードワークと高い能力」だ。つまり、そこにシークレットはない。

クラブが莫大な資金を持っていることも事実だが、それはレアルだけではない。積み重ねてきた歴史と醸(かも)し出す風格。ライバルたちがどれだけ背伸びしても、経験の差だけは埋めがたい。それが普段通りのパフォーマンスができるかどうかにも繋がるのだろう。

白い巨人がまたひとつ重厚な歴史を重ねた。

(取材・文/井川洋一 撮影/藤田真郷)

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