女子野球W杯でV5を達成したマドンナジャパンの4番・川端友紀が大変身を見せたワケ

女子野球W杯でV5を達成したマドンナジャパンの4番・川端友紀が大変身を見せたワケ

今大会、8名の新メンバーはいずれも年下だったが、川端は「みんな個性的で、すてきで最高でした!」と語る ※写真と本文は関係ありません

9月3日から韓国で行なわれた第7回女子野球W杯で日本代表の4番に座り、V5の原動力となった川端友紀

女子球界屈指のスターでありながら、「極度の人見知り」のため、これまで代表ではなかなか力を発揮できなかった彼女が、今大会で大変身を見せた理由とは!?

■笑顔に満ちあふれた頼れる日本の4番打者

韓国・釜山(プサン)で行なわれた第7回WBSC女子野球ワールドカップ。マドンナジャパンの川端友紀(埼玉アストライア)は頼れる日本の4番打者として躍動していた。

今大会の川端を象徴する印象的なシーンがあった。

9月7日、2次リーグ・スーパーラウンドの初戦となる対ベネズエラ戦のこと。5回表に投手強襲ヒットを放った川端は一塁ベース上でベンチからのサインを確認していた。

このとき、ライトスタンドに陣取る地元・韓国人応援団から「ユキ」コールが響き渡る。声援に気づいた川端は観客席をふり返ると、満面の笑みを浮かべてその声援に応えたのだ。それは、これまでの川端には決して見られなかった光景だった。

「地元の人たちからの大きな声援が聞こえて、本当にうれしかったから体が自然に反応しちゃいました。これまでの自分では考えられない(笑)」

日の丸を背負った試合で、彼女が白い歯をこぼすのを見たことがなかった。目の前のボールに集中していたといえば聞こえはいいが、意地悪な見方をすれば周りを見る余裕がなかったようにも見えた。

2012年カナダ大会、14年日本大会に続いて、川端にとっては今回が3度目の代表入り。過去2回の出場では常に苦難の連続だった。

12年カナダ大会では当時の新谷博監督(元西武など)とのコミュニケーションに悩んだ。大会期間中、監督から名指しで「おまえのプレーは軽い」と叱責された。普段はショートを守っていた川端だが、この大会ではDHでの起用がほとんどで「守りたいのに守れない悔しさをずっと噛(か)み締めて」彼女は帰国の途に就いた。

捲土重来(けんどじゅうらい)を期して臨んだ2年後の14年日本大会でも、またしても実力を発揮することはできなかった。

「この大会では結果を求めすぎていました。心身ともに絶不調で常に焦りや不安のなかでプレーをしていました。チームを悪い雰囲気にしないように、沈んでいる姿を見せないように心がけていたけど、本当は落ち込んでいるということはバレバレだったようです(苦笑)」

試合後の選手宿舎。すでに食事の時間が始まっているのに川端の姿がなかった。チームメイトが探すと、人けのない駐輪場の片隅で黙々とバットを振り続ける彼女の姿があった。その姿は鬼気迫り、チームメイトでさえ誰も近づけなかった。対面して激励することもはばかられたため、ある選手はLINEを通じて「元気出そうよ!」とメッセージを送るほどだった。

ヤクルト・川端慎吾の実妹であり、「史上初の兄妹プロ野球選手」と話題になった女子球界最大のスターである彼女は10年、発足したばかりの女子プロ野球リーグ「GPBL」(現・JWBL)所属の京都アストドリームスに入団。

リーグ初年度の10年、翌11年に兄同様、広角に打ち分ける巧みなバッティングで首位打者を獲得すると、すぐにリーグを代表する存在に。そして、プロでの実績を引っ提げて、初めて代表に招集されたのが12年のことだった。

だが、本人も認める「極度の人見知り」のために、なかなかチーム内に自分の居場所を見つけることができなかった。自ら話しかけることはほとんどなく、相手から何かを言われたときに、ひと言、ふた言返すのが精いっぱいだった。女子球界一の実績とスター性を誇りながらも「後輩にも人見知りしてしまう」ためにチームメイトに対して、気後れしてしまう姿が何度も見られた。兄・慎吾は笑う。

「妹は幼い頃からそうでしたね。家に電話がかかってきても、何を話しているのかわからないほど声が小さくて、知らない人とは何もしゃべれませんでしたから」

この性格は大人になっても変わらなかった。ストレスや悩みを内面に抱えたまま、2度目のW杯は終わった。

チームは4連覇を成し遂げた。それでも、川端自身は不完全燃焼のままだった―。

過去2大会の失敗と反省を経て臨んだ今大会。川端は誰もが納得する好成績を残した。そこには昨年、初の首位打者を獲得し、ヤクルト14年ぶりの優勝の立役者となった兄・慎吾の影響もあった。

「昨年のオフは兄に質問する機会が増えました。どんな意識で打席に立っているのか、追い込まれたときにはどういう待ち方をすればファウルで粘れるのかを教わりました」

こうして臨んだ今季はプロリーグ・JWBLでもコンスタントにヒットを量産。特に夏場から大会本番にかけては確かな手応えが芽生えていた。

「どんなボールにもスムーズにバットが出る状態で夏場を過ごしていて、打撃好調のまま韓国入りできました」

打撃に不安がなければ、あとは「人見知り」を克服するだけだった。今回のメンバーは川端を除いて19名。そのうち、新メンバーは8選手。3度目の代表選出となる川端にとって、半数以上が旧知の仲間だということは心強かった。

一方で、これまでは「女子野球界最大のスター」に対して、後輩たちの間にも川端に対する遠慮があるのは事実だった。しかし、前回大会で川端とともにプレーしたことで、若手選手の間にも、いい意味で遠慮がなくなっていた。川端は言う。

「今回は年下の選手たちがみんなで私をいじってきたおかげで『人見知り』を発揮する暇もなかったです(笑)」

平成国際大学の笹沼菜奈、平賀愛莉はともに代表歴2期目だったが、隙を見ては川端にまとわりついて冗談を飛ばしていた。後輩たちは口をそろえて「友紀さんってかなり天然だから、リアクションが面白いんです」と笑う。

日頃、アストライアでともに過ごし、今大会、投手コーチを務めた中島梨紗は言う。

「今大会の友紀はとにかく明るかったですね。普段はアストライアのキャプテンとして全体を見る必要があるけど、今回は一選手として専念できるので精神的にずいぶんラクだったのだと思います」

世界の強豪が集うW杯において08、10、14年大会を制覇し、今大会でも見事に優勝した名将・大倉孝一監督(環太平洋大学監督)は言う。

「今回の友紀に関しては何も不安はなかったです。以前は目も合わせようとしなかったのに、自分から声をかけてくるようになったからね」

川端の殻を打ち破るために、大倉はあえて全員の前で一発芸を演じさせたことも。

「突然のむちゃブリだったので何も用意していなくてビックリしました(笑)」

このとき川端は即興のパントマイムを披露してメンバーたちからの爆笑を誘った。こうした時間の積み重ねが、確実に川端の「人見知り」を解消していったのは間違いない。

日本の5連覇で幕を閉じ、自身もセカンドでベストナインに輝いた川端に、改めて今大会をふり返ってもらった。

「今回、大倉監督からは“出し切れ”ということを言われ、常にそれを心がけていました。だから、ホテルに戻ったときには毎日ヘトヘトでしたが、とても気持ちがよかったです。素晴らしいチームメイトと日の丸を背負って野球をする毎日は、これまで経験したことのない充実した日々でした。人見知りする余裕すらなかったですから(笑)」

これまでは、どこか憂いを秘めた表情でプレーする姿が目についていた。しかし、今大会で川端は決定的に変わった。この大会を通じて彼女は野球の本当の楽しさを知り、自分の感情を素直に表現することの大切さを知ったのだ。

「全国の女子球児たちの思いが詰まったこのユニフォームを着て、最高の仲間とプレーして優勝したという経験。それはきっとこれからの私に大きく役立つと思います!」

筒香嘉智(DeNA)や中田翔(日本ハム)、U−18の清宮幸太郎(早稲田実業高)にも引けをとらない頼れるマドンナジャパンの4番。川端友紀がついに覚醒した。

●川端友紀(Kawabata Yuki)






1989年5月12日生まれ。2010年に女子プロ野球入り。首位打者を3度獲得した、リーグを代表するスター。12年からマドンナジャパン入りし、3大会目となる今大会ではベストナインに輝く。実兄はヤクルト・川端慎吾

(取材・文/長谷川晶一)

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