苦悩して進化するダルビッシュが挑む背水のプレーオフ登板

苦悩して進化するダルビッシュが挑む背水のプレーオフ登板

9月24日の試合では完璧な投球内容だったダルビッシュ。負けられないプレーオフ第2戦に先発する。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

 地区シリーズの初戦を落としたレンジャースは、7日(日本時間8日)、負けると後がなくなる背水の第2戦にダルビッシュ有(30)を先発マウンドに送り出す。ダルビッシュの直前2試合の登板は、13イニングを投げて、5安打、1失点、21三振、2四球とほぼ完璧な内容で、プレーオフに向けて、「全く心配がない。いい成績が残せるんじゃないか」と胸を張ったが、ここに至る過程は、決して平坦ではなかった。

 話は、9月14日まで遡る。

 ヒューストンのミニッツメイド・パークのビジタークラブハウスで、前回、THE PAGEに書いたリリースポイントの記事について雑談していると、最後にボソッと言った。

「今日のブルペン、すごく良かった」

 本来はその日が登板日。プレーオフローテーションにするため、前日の試合後に先発が17日に変更となり、代わりに入ったブルペンセッションを、数日後、改めてこう表現している。

 「人生で一番」

 ところが、3日後のアスレチックス戦では、初回に先頭打者本塁打を許すなど、5回を投げて、7安打、7失点(キャリアワーストタイ)で負け投手に。8三振を奪うも、3連続を含む4四球と乱れた。

 このとき、制球力が課題、などという指摘があったが、そんな表面的な話ではない。ダルビッシュはアスレチックス戦の試合後、こう話している。

「前回のブルペンが良すぎたって言いましたけど、そのブルペンは、これまで自分が投げている感じとはかなり違う感じで、そういう感じであまり投げたことがないから、大丈夫かなっていうのがあった」

 不安は的中する。17日の試合前、ブルペンに入ると案の定、「良くなかった」。急遽試合では、9日の6回2/3を投げて、3安打、1失点だったエンゼルス戦のフォームに戻したものの、思うように体が反応しなかった。

「前回のブルペンが違う感覚、今までのやつと違う感覚過ぎて、なんかちょっと、前回のブルペンで頭をそういう方向に使いすぎたから、その前のエンゼルス戦とは全然違うわけじゃないですか。そこが頭の中で凄い、混乱してたのかなっていう」

 混乱をほぐす作業は翌18日から始まったが、まずは、ヒューストンのブルペンで掴んだ感触を、「あまり試合中には向いてない。だからもうやらない」と捨て、単純に「元に戻す」とことを意識した。
   

 もっともダルビッシュの場合、厳密な意味でいえば、元に戻すという作業をしない。
 トミー・ジョン手術から復帰するときも、「元に戻るのでは意味がない、それ以上にならないと」といったようなことを言い続けて来た。そもそも、いい感覚で投げていても、もっといいものがあるのではと、せっかく掴んだものを壊すことをいとわない。ピッチングフォームの追求に終わりがないことを知っている。今回も“元に戻す”のは通過点で、エンゼルス戦の状態に戻した上で、さらにプラスαを模索したものの、その前の段階で誤算があった。“混乱”は思った以上に、体を支配していた。

 本人によると、「キャッチボールはぐちゃぐちゃ」で、ブルペンに入ってもそれは修正されず、「(ダグ・)ブロケイル(投手コーチ)を不機嫌にさせるぐらいストライク入らなかった」そう。よってあの時点でそれなりのレベルまで状態を高め、プレーオフに間に合わせられるかどうか、自信がなかったという。後日、珍しく、こんな言葉が口をついている。

「出来ないと思っていました」

 一時的に軌道修正の方向性すら見失ったが、様々な改良を試みた結果、24日の次回先発に間に合わせている。その試合では、7回を投げて、2安打、無失点。前回、7点を奪われたアスレチックス打線に借りを返した。よくも1週間でここまで…。後に、「オークランドの試合の日、急に良くなった」と振り返ったが、もちろん、迷い、考え、試行錯誤を繰り返したからこそ、答えを見つけたのだろう。ただ、「具体的なことをどう改善したかっていうことは言えない」とダルビッシュ。復調の過程で、それぞれの要素がどう絡み合い、どう一つにまとまっていったのかを口にすることはなかった。

 7失点から1週間、ひいては24日の試合前のブルペンでなにがあり、どんなきっかけを掴んだのか。
 聞きたいことは山ほどあり、例えば、24日の登板では、ロビンソン・チリノスの証言によれば、復帰以来投げていなかったスプリット・フィンガード・ファストボールを2球投げており、プレーオフまで見据えたとき、そこにどんな意図があったのか知りたいところだが、プレーオフに入って接触の機会が極めて限られる今、近々に詳細が明らかになることはないかも知れない。

 対照的に、ただ1人、ダルビッシュだけは曇りなき確信を持ってプレーオフにのぞもうとしている。

 レンジャーズはコール・ハメルズで第1戦を落とした。これで第2戦もダルビッシュで負ければあとがなくなるだけに、彼が体を張って流れを止め、さらに引き寄せることが出来るかどうか。久しく投げていない「MUST WIN」シチュエーションでの先発となる。

 試合は、7日午後12時8分(日本時間8日午前2時8分)、プレイボール。


 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)