ドラフト戦線に異常あり いまだ1位指名公表球団ゼロのなぜ?

プロ野球ドラフト会議、当たり年と言われるも1位指名選手を公表するチームがゼロ

記事まとめ

  • ピッチャーに逸材が多く、当たり年と言われている今年のプロ野球ドラフト会議
  • 現段階でドラフト1位指名選手を公表するチームがゼロという、異常現象が起きている
  • 目玉といわれていた創価大・田中正義の故障による評価下落が原因の一つと言われている

ドラフト戦線に異常あり いまだ1位指名公表球団ゼロのなぜ?

ドラフト戦線に異常あり いまだ1位指名公表球団ゼロのなぜ?

表 2016年ドラフト1位指名候補

 ピッチャーに逸材が多く、当たり年と言われている今年のドラフトは10月20日に行われるが。ある異常現象が起きている。現段階で1位指名選手を公表するチームがゼロなのだ。

 某球団の編成トップがこう言う。

「今年はヨソの出方を伺いたい球団が多いから1位を公表する球団は少ないでしょう。ドラフト当日の朝に決めることになる球団も多いと踏んでいます。うちも公表はしませんよ」

 昨年は楽天が、早々と地元仙台育英の大型遊撃手、平沢大河の1位を公表(結果的にロッテと競合してロッテが指名)。ドラフト4日前になってオリックスが青学の吉田正尚内野手、直前にヤクルトが明大の高山俊外野手、西武が富士大の多和田真三郎、中日が県岐阜商の高橋純平投手と、最終的には、計5球団が1位を公表した。一昨年を振り返っても西武が前橋育英の高橋光成投手、広島が早大の有原航平投手と、2球団が早い段階で、堂々と1位指名を公表している。

 1位指名の公表には、いくつかのドラフト戦略上の狙いや意義がある。
 たとえば、アピールすることで、他球団の指名回避を誘う陽動作戦であったり、指名する選手、関係者への誠意の表現であったり、チームよっては、球団の姿勢をファンへ訴えるという手段でもある。

 だが、今年は、どの球団もスカウト会議で1位候補を絞っていきながらも「決めた」というコメントが出てこない。「悩んでいる」というコメントの方が多い。その最大の理由のひとつが、当初、目玉といわれていた創価大の田中正義が、春に右肩の関節炎でブランクを作り評価を落としていることにある。この秋に復帰してきたが、先発した10月8日の杏林大戦では、150キロは出たが、制球が定まらずに5回を投げて6安打3失点。「まだ5割くらいの出来だろう」と、スカウトに評価されるほどの状況で怪我からの完治をアピールできていない。逆に日米大学野球から注目を集めた桜美林大の右腕、佐々木千隼の評価が急上昇中で、8日の東海大戦では、8球団のスカウトが集結した前で、年間7度目となる完封をしてみせた。佐々木も競合が確実視されていて、田中正義よりも、1位入札球団が多くなるかも?という予測まである。

 さらに今回のドラフトが混沌としているもうひとつの理由が、高校生の逸材、甲子園を沸かせた“ビッグ4”の存在だ。作新学院の今井達也、横浜の藤平尚真、履正社の左腕、寺島成輝、花咲徳栄の左腕、高橋昂也の4人。素材のスケール感だけでなく、今井などは制球も含め完成度が高いため、今年、高卒ルーキーながら中日で後半戦にローテーションに入った小笠原慎之介、同様、即戦力としての期待値も高い。
 寺島は、どこの球団も喉から手が出るほど欲しい大型左腕。他球団との競合は避けたいだろうし、判断に悩むのも当然かもしれない。

 他にも社会人では、瀬戸内高校時代に、ダルビッシュ有が絶賛した東京ガスの山岡泰輔、 ここにきて評価が上昇してきた日米大学野球の代表組、明大、柳裕也、また即戦力内野手として、日大の京田陽太 、中京学院大の吉川尚輝の2人がいて、彼らを外れ1位候補として阪神、巨人らがリストアップしている。
  

 これらの状況を元ヤクルトの名スカウト、片岡宏雄さんは、こう見ている。

「どこもできる限り競合を避けたいんだと思う。クジを外すと戦力補強として計算が立たない。ギリギリまで他球団の様子を見るだろうね。担当スカウトは、直前まで指名候補側と連絡を密に取るので『どこそこの球団から1位で行きますと連絡がありました』などという情報が入ってくるからね。当日の朝、もっと言えば、ドラフト会議のテーブル上で決まるなんてことも珍しくない。今回、問題をさらにややこしくしているのは、田中投手の故障をどう判断するかの見極めだろうね」

 右肩を痛めた田中をどう評価するかで、ドラフトの模様がガラっと変貌するというのだ。

 では、ドラフト前に故障を発生した選手は、指名するべきなのか回避すべきなのか。

 片岡さんは、「おそらく各球団は、あらゆる手段を使って情報を入手しているだろう。もちろんドラフト前の選手との接触は禁じられているが、チームによっては裏でドクターに診させているし、その選手が通っている病院や医者を通じて情報を得る場合もある。それらの情報を総合的に判断、完治を見越して獲得する場合や、回避する場合もあるから、千差万別。
 『故障で調子を落とした選手は回避せよ』が、決してドラフトの鉄則ではない。故障に目をつぶって指名したことが裏目に出たこともあるが、その逆もある。高校生ならOK、大学、社会人は要注意、肘は、靭帯やねずみ(遊離軟骨)で手術ができるが、肩や肩の後ろ部分を傷めた場合は要注意などの一応の目安はあったが、それもケースバイケースだ」という。
 
 アマチュア時代に故障したため、他球団のマークが外れた選手をうまく指名して成功を収めた例は、決して少なくない。中日の左腕エース、大野雄大にしても、佛大時代に左肩を痛め、夏以降マウンドに立てなかったが、中日はその能力と完治の見込みを調査した上で、2010年のドラフトで単独1位指名。この年は早大の大石達也に6球団、斎藤佑樹に4球団も重複したドラフトだったが、中日は独自戦略を貫き、大野は3年目から3年連続2桁勝利をマークするなど成功を収めている。広島の薮田和樹も、亜大時代は、故障に苦しみ3年春のリーグ戦2試合にしか投げていないが、2014年のドラフト2位で指名して戦力になっている。

 さて、田中には何球団が入札することになるのか。故障さえなければ12球団競合とも言われた逸材を各球団は、どう評価するのか。海千山千のドラフト戦線において情報戦争に勝利した球団が成功を収めるのかもしれない。