広陵・中村奨成が語る「僕が考える究極のキャッチャー」

広陵・中村奨成が語る「僕が考える究極のキャッチャー」

プロではどんな捕手になるのか(写真・時事通信フォト)

 決勝で敗れたとはいえ、広陵高校の捕手・中村奨成こそ、今夏の主役だった。6本塁打は清原和博が1985年に作った甲子園1大会5本塁打の記録を上回るもの。決勝の2日前、中村はノンフィクションライター・柳川悠二氏に理想の捕手像と打撃論を語った。

 * * *
 この夏、甲子園に最も愛された男が、ユニフォームを着た少年たちに囲まれていた。翌日に準決勝・天理戦を控えた広陵の中村は、写真撮影をおねだりする少年に「明日はどっちを応援する?」と聞いた。

「天理は応援せえへん」

 思わず苦笑いを浮かべた中村は、少年の頭を撫で、こう告げた。

「頑張って、お前も甲子園に来いよ」

 18歳の中村の表情には、父性すら感じられた。

「プロを希望します」

 今年5月に、中村は広陵の監督である中井哲之にその意思を伝えた。中井は野村祐輔(広島)や小林誠司(巨人)ら、プロに進んだ教え子と同様、中村にも大学進学を勧めようと考えていた。しかし、母子家庭の中村は、卒業後すぐに野球を職業にし、母に負担をかけない道を訴えたのである。

◆ボール回しから本気

 少年の写真撮影に応じる間に、広陵の仲間はバスに乗り込んでいた。私は中村に声をかけ、バスまでの800mを、約10分かけて一緒に歩いた。

「自分、小さい子どもがめっちゃ好きなんです。良いお父さんになれますか?」

 広島県の廿日市市出身の中村が野球を始めたのは小学1年生の時。一人だけ違う方向を向いて守る捕手に惹かれた。最初から肩は誰より強かったという。

「子どもの頃から、よくモノは投げていましたね。ボールだけでなく、そこらへんにあるものを(笑)」

 少年野球で肩が強い子どもは真っ先に投手を任されるはず。だが、「コントロールが悪くて……」投手としては落第。プロを目指す選手の多くは、小中学時代から硬式野球に励むが中村は中学時代も軟式だった。

「硬式チームが近くになくて、遠くまで通うのが面倒だったんです。中学でもピッチャーをやってみましたが、今度は捕れるキャッチャーがいなかった(笑)」

 広陵の監督である中井と初めて出会ったのは中学2年の時。中井が振り返る。

「野球は抜きん出た力がありましたが、髪型がおかしく、大馬鹿者。生活態度に問題があるヤツは、広陵では試合に出さない。『来なくていい!』と伝えました」

 だが、中村は広陵に進む。決め手となったのは、中井の「男として真っ直ぐに生きろ」という言葉だった。

「自分の技術を褒めてくださる方が多い中で、中井先生は自分の人間的にダメなところを指摘してくださった。入学して自分という人間がすべて変わりました」

 中村の遠投は120mを誇る。捕ってから二塁に送球するタイムも2秒を切る。すでにプロの捕手のレベルにある。だが、彼の鉄砲肩は、数値で計るよりも、生で見てこそ凄みが伝わる。甲子園では、試合前のボール回しや、二塁送球をする度に、どよめきが起きた。

「自分はバッティングよりも、守備から相手にプレッシャーをかけたい。そのために、試合前のボール回しから強いボールを投げています。盗塁を刺す時に意識するのは、捕ってから投げるまでの握り替え。そこをいかに早くするかです」

 肩を強くするために特別なことはしていないという。

「筋トレもしたことがない。それは、上に行ってからでいいと思っています。普通に野球の練習をすることだけで、肩を作ってきました」

 憧れは広陵の10年先輩である巨人の小林だ。

「守備に関しては、ですね。的確なリードだけでなく、投手陣に絶妙なタイミングで声をかけている。そのあたりが上手いと思うんです。打撃は坂本勇人(巨人)さんです」

 確かに、打撃フォームは坂本に似ている。監督の中井はこう評価する。

「バットを構えた時のトップの位置がバッチリ決まっているし、バットが最短距離で、身体の近くから出て行く。空振りもしますが、その次に同じ球が来ると仕留めることができますね」

◆相手が得意な球を狙う

 プロを見ても、打って守れる捕手は希少だ。少なくとも、この時点でこれほどの水準の捕手というのは城島健司(元阪神)、古田敦也(元ヤクルト)とも異質だ。

「どうしてもキャッチャーって、守備の人っていうイメージがあるじゃないですか。僕はそれが嫌。攻撃的な捕手になりたい。自分はホームランバッターだとは思っていません。チャンスに強く、打点を稼げるバッターになりたい」

 大会期間中、中村がことある毎に口にしていたのが、「相手の一番のボールを打ち返したい」だった。

「相手投手の得意なボールを打ち返せたら、心理的にダメージになりますから」

 天理戦で2本のアーチを架け、清原の持つ1大会最多本塁打記録を更新した。その試合後の言葉。

「不思議な感覚。できすぎです。甲子園は高校球児なら誰もが憧れる場所。その中で結果を残せたのは、甲子園の力かな」

 開会式の日、広陵ナインは頭を五厘刈りに揃えて登場した。青光りした中村の頭髪は、決勝で大敗した頃には黒々としていた。それが大きく成長を遂げた14日間の戦いを物語っていた。

※週刊ポスト2017年9月8日号

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