スパイに不正行為、サイン盗み疑惑…センバツ三大騒動はこうして起こった!

スパイに不正行為、サイン盗み疑惑…センバツ三大騒動はこうして起こった!

1998年、夏の甲子園ではエース・松坂大輔(現西武)がPL学園戦で、三塁コーチャーに球種を読まれるという疑惑が持ち上がり騒動に。それでも大黒柱として春夏連覇に導いた

■双眼鏡で本塁方向を凝視


 3月19日に開幕し、高校球児の熱い戦いが続く第93回選抜高校野球。過去には、グラウンド上で繰り広げられる熱戦の陰で、サイン盗みをはじめとする疑惑も一度ならず表面化した。そんな騒動の数々を振り返ってみよう。

 バックスクリーンの不審な男3人組をめぐり、“スパイ騒動”が起きたのが、1998年の2回戦、横浜vs報徳学園だ。試合開始直前、高野連事務局に「横浜の関係者が報徳のサインを盗み見て、球種を教える」という匿名のタレ込み電話があったことがきっかけだった。

 これを受けて、田名部和裕事務局長が警戒に当たっていたところ、バックスクリーン右側5列目付近に赤い帽子と緑のジャンパー姿の推定30歳代の男と20代後半の男、1列後ろに20代前半の3人がいるのを発見。帽子の男は、横浜の攻撃中、双眼鏡で本塁方向を凝視し、報徳のバッテリーサインが直球のときは上げたまま、変化球のときは下ろして、球種を伝達しているように見えた。

 高野連側は3人を写真とビデオで撮影して分析・調査。横浜が6対2で勝利したあと、神奈川県高野連の石川敬理事長を通じて、横浜側に事情聴取を求めた。これに対し、同県高野連会長でもある黒土創校長は、疑惑を真っ向から否定。20代前半の男はチームトレーナーの補助担当で、この日はネット裏席券が入手できなかったため、センター後方で観戦していたが、他の2人とは面識がないという話だった。

 結局、高野連側も「これ以上追及できない」として、「誤解を招くような行為は慎むように」と注意を促すだけにとどめた。くしくも横浜は、同年夏の甲子園では、エース・松坂大輔(現西武)がPL学園の三塁コーチャーに球種を読まれていた疑惑で、再びサイン盗み騒動の渦中に。このシーンがテレビのドキュメント番組で紹介されたことがきっかけで、「二塁ベースの走者やベースコーチが捕手のサインを見て、打者に球種やコースを伝える行為」は全面禁止になった。だが、相次ぐ騒動をものともせず、大黒柱としてチームを史上5校目の春夏連覇に導いたという意味でも、松坂は“平成の怪物”だった。


■ボールボーイにメモ


 野球部の副部長がネット裏から相手投手の攻略法を書いたメモを手渡す不正行為が発覚したのが、02年の1回戦、福岡工大城東vs宇都宮工だ。

 5回裏ごろ、ネット裏で観戦していたファンが大会本部を訪れ、「福岡工大城東の関係者が再三にわたってベンチのボールボーイにメモを渡している」と訴えた。田名部事務局長(前出)が現場に急行し、同校の副部長を問いただしたところ、計3度にわたり、メモを渡したことを認めた。

 その後、ベンチにいた部長、監督、レギュラー部員のいずれもメモを見たことを否定。控え選手がポケットの中に入れていたが、1点を争う接戦の中で、メモを見せる余裕がなかったことが判明した。

 メモには「ストレートが基本、同じ所から変化させている。ストレートの後のスライダーがかなりあまいコースにきている→フライを上げずゴロを打つ気持ちで、かなりたたいてよい」などと相手投手の攻略法が記されてあった。

 副部長は「不利な立場だったので、力になりたかった。規則違反であることは知っていた。軽率でした」と謝罪し、高野連・牧野直隆会長は「こんなもので本当に試合が左右できると思ったのか。大変残念な出来事」と遺憾の意を表した。

 副部長は謹慎処分となり、部長も変更を求められたが、「2回戦の明徳義塾戦を辞退する」という学校側の申し出に対しては、「選手に非はない」として出場を認めた。

 その一方で、同校のブラスバンド部は、翌日福岡ドームで行われるダイエーvs日本ハムの開幕戦のセレモニーで演奏を予定していたが、主催者の放送局から辞退要請を受け、参加を辞退。野球部と直接関係のない生徒が一番割りを食う形になった。


■控室に乗り込んで抗議


 試合中に監督が相手チームのサイン盗み疑惑をアピールする事件が起きたのが、19年の2回戦、星稜vs習志野だ。1点を追う習志野が4回1死二塁とした直後、星稜の捕手・山瀬慎之介(現巨人)が球審に「(二塁走者が)サインを盗んでいるようですけど」と訴えた。さらに習志野が同点に追いつき、2死満塁となったところで、今度は林和成監督が同様の抗議を行ったため、試合を一時中断し、4人の審判が協議したが、事実を確認できなかった。

 しかし、「私は習志野の1回戦、日章学園戦でサイン盗みに気づきました。ビデオを分析したところ、二塁ランナーのジェスチャーで球種を伝えていたことが分かりました。習志野戦の前に石川県の高野連に所属する審判にもそのことを伝えています」(週刊新潮2019年4月11日号)という林監督は納得できず、1対3で敗れた試合後も、2度にわたって習志野の控室に乗り込み、抗議した。

 これに対し、習志野・小林徹監督は「そういう事実はない」と完全否定。その後、高野連は「試合中に『サイン盗みの確証はない』と判定した審判団に承服しない態度で、フェアプレーの精神を侵した」ことなどを理由に、林監督に6月上旬まで部活動の指導を禁止する処分を科した。

“超えてはいけない一線”の真相究明は状況的に難しく、その種の行為がなかった場合でも、「サインを盗まれているのでは?」と意識して自滅することもある。野球の怖さであり、甲子園が魔物たる所以かもしれない。

※肩書きは当時

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年3月29日 掲載

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