有望選手が多く入学…「高校野球」私立を凌駕する“名門公立校”強さの秘密

有望選手が多く入学…「高校野球」私立を凌駕する“名門公立校”強さの秘密

県内でも屈指の県立の進学校である静岡高校出身の楽天・堀内謙伍

■「学校裁量枠」という制度


 2年ぶりの開催ということもあって、連日盛り上がりを見せている選抜高校野球。過去に優勝経験がある学校から初出場まであらゆるチームが出場しているが、毎年高校野球で話題となるのが私立、公立の“格差”についてだ。今大会の出場校の内訳は私立が23校、公立が9校となっており、公立の9校のうち4校は機会に恵まれない“救済措置”的な意味合いの強い21世紀枠での出場ということを考えると、私立が圧倒的に優勢といえる。

 私立の野球強豪校と言えば、有力な選手を県外からも多く勧誘し、選手のための寮や専用グラウンド、室内練習場といった充実した施設で鍛え上げており、一方の公立高校は地元の限られた選手のみで満足な設備も持たずに練習時間も少ないというイメージが強い。21世紀枠の推薦例の中に「少数部員、施設面のハンディ」、「学業と部活動の両立」という文言が入っているのも、野球を行う環境として恵まれていない公立校を救済しようという意味合いが強いからではないだろうか。

 しかし、全国の高校野球の現場を取材していると、そうではない事例も決して少なくないということがよく分かる。例えば、静岡高は県内でも屈指の県立の進学校でありながら、コンスタントに甲子園出場を果たしており、過去5年間のドラフトでも堀内謙伍(楽天)、鈴木将平(西武)、池谷蒼大(DeNA・社会人野球のヤマハを経てプロ入り)と3人のプロ野球選手を輩出している。

 歴史のある伝統校で学生や父兄からの人気が高いというのもあるが、それだけでこれだけの結果を残せるほど現代の高校野球は簡単なものではない。静岡高校の場合は、県内独自の決まりである「学校裁量枠」という制度を活用している点が非常に大きいのだ。


■積極的にスカウティング


 この制度は学業以外に重視するポイントをそれぞれの学校の裁量で決められるというものであり、いわゆるスポーツ推薦もこれに当たる。静岡県のホームページに公開されている「学校裁量枠において重視する観点及び選抜方法の概要等(一覧)」の静岡高校の審査項目には「野球(男)における実績、適性、活動意欲」と明記されている。

 同じく県内の伝統校で甲子園出場9回を誇る掛川西も同様の審査項目となっている。つまり、一般入試をクリアするだけの学力に満たなくても、ある程度の水準をクリアしていれば野球の実力によって合格が可能なのだ。他の学校は複数の競技を対象としているが、野球に絞ることでそれだけ能力の高い選手は集まりやすくなる。学校の伝統や進学実績などから、県内の有望な中学生は静岡高校の学校裁量枠を目指す選手が多いと言われている。

 今年の選抜に出場している市立和歌山も公立の学校だが、プロから高い注目を集めている小園健太、松川虎生のバッテリーはともに県外の大阪出身だ。また、県岐阜商は、鍛治舎巧監督の就任以降、積極的にスカウティングを行っており、昨年12月に行われた「阪神タイガースカップ」という関西圏の硬式クラブチームナンバーワンを決める大会にもチームのスタッフが視察に訪れていた。

 その他にも一昨年、選抜準優勝の習志野(千葉)、ここ数年甲子園で結果を残している明石商(兵庫)なども市立の学校ではあるが、中学時代から有望と言われていた選手が進学することが多い。強豪私立のように全国からスカウティングすることはできなくても、ある程度対抗できるだけの選手を揃えることは可能と言えるだろう。

 また、設備面でも必ずしも私立の方が充実しているわけではない。例えば今年の選抜にも出場しており、全国最多となる甲子園11回の優勝を誇る中京大中京(愛知)は私立ではあるが、野球部の専用グラウンドも室内練習場もない環境で練習をしている。選手用の寮もないため、進学してくる選手は基本的に愛知県内と隣県の岐阜や三重に限られている。

 現在では専用グラウンドのできた帝京(東京)もかつてはサッカー部と併用の狭いスペースで練習を行い、それでも春夏合わせて3回の甲子園優勝を果たし、多くのプロ野球選手も輩出している。


■魅力的な学校に進みたい


 一方で公立であっても前述した習志野や明石商などは野球部専用のグラウンドを持っているほか、近年、三重県内で安定した結果を残している、いなべ総合も県立高校であるが、練習施設が非常に充実している。

 このように私立顔負けの公立高校があることを批判したいわけではない。単純に私立、公立というくくりで考えることに違和感があるということである。公立高校であってもあらゆる方法で野球部を強化することはでき、それがその地域や学校の活性化に繋がっていることもあるはずだ。県外や県内でも遠方から進学してくることを嫌う風潮は根強いが、私立であっても公立であっても選手にとって魅力的な学校に進みたいと思うのは至極真っ当なことである。

 選択肢が増えるという意味では、むしろ公立でもそのような学校があるということは高校野球全体にとってプラスとなるはずだ。多様性を認めることが重要と言われる時代において「私立だから」「公立だから」ということをいつまで経っても議論しているのは不毛なことである。あらゆる学校の存在を認め、新たな時代に適した形で高校野球がこれからも発展していくことを望みたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月30日 掲載

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