優勝争いでファンが選手をボコボコに…阪神や広島ファンが暴徒化した3試合の「黒歴史」

優勝争いでファンが選手をボコボコに…阪神や広島ファンが暴徒化した3試合の「黒歴史」

長良川球場で行われた中日vs.阪神では、ファン同士の殴り合いから救急車25台が出動する騒ぎになった

■巨人ベンチを襲撃


 セ・パ両リーグとも熾烈な優勝争いが続くシーズン終盤。熱戦になればなるほど、ファンのボルテージも上がるが、過去には、優勝を争う重要な試合で、エキサイトしたファンが暴徒と化し、大荒れに荒れた試合があった。そんなあってはならない騒動の“黒歴史”を振り返ってみよう。

 勝ったほうが優勝というシーズン最終戦で、阪神の大敗に怒ったファンが、巨人ベンチを襲撃する事件が起きたのが、1973年10月22日の“甲子園決戦”である。

 首位・阪神を0.5ゲーム差で追う巨人は初回、王貞治の右犠飛などで2点を先制すると、5回まで毎回得点を記録し、8対0と突き放した。一方、阪神打線は三塁を踏むこともできず、ゼロ行進。7回の攻撃前には、ヤケクソになった虎ファンがグラウンドに五色のテープや空き缶、座布団などを投げ込む騒ぎも起きた。

 そして、0対9の9回2死、カークランドが三振に倒れ、巨人のV9が決まった瞬間、一塁側スタンドのファン約3千人がグラウンドに乱入。巨人ベンチになだれ込んだ。

 警備中の警官と球場ガードマンが止めようとしたが、多勢に無勢でお手上げ。逃げ遅れた王や牧野茂コーチら数人が殴られ、ネット裏では約500人のファンがテレビカメラやマイクなどを破壊。制止に入った解説者の村山実前監督に「阪神選手やってたのに、読売テレビの解説をしやがって」と殴りかかる者もいた。


■深夜まで警官とのにらみ合い


 さらに、甲子園署の警備本部前にも約2千人が押し寄せ、投石などを行ったため、中にいた女性警官が空き瓶の破片で足を負傷。この日はファンも含めて計6人のけが人が出た。

 その後も約800人が指定席売り場前に集まり、「責任者に詫びをさせろ」と要求。18時過ぎ、金田正泰監督が出て来て、「情けない試合をして申し訳ありません」と謝罪したが、ファンの怒りを倍加させる結果となり、深夜まで警官とのにらみ合いが続いた。

 乱闘にファンが加勢し、選手、コーチが殴られて負傷する事件が起きたのが、75年9月10日の広島vs.中日だ。

 広島は球団創設26年目の初優勝目前。一方、中日も連覇がかかっており、どちらも負けられない一戦だった。

 そして、悲願の初Vを期待する地元・広島ファンも、試合前からヒートアップ。中日の先発・星野仙一がブルペンで投げはじめると、金網越しに唾を吐きかけ、空き缶を投げつけた。

 さらに3回表、衣笠祥雄に死球を与えた直後の星野が打席に立つと、「殺せ、殺せ!」のヤジが飛んだ。「どんなことがあっても、オレは勝つ」と怒りを闘志に変えた星野は、左越えに1点差に迫る反撃のソロ。この一発で流れを引き寄せた中日は、7回に5対2と勝ち越し、勝負あったかに見えた。


■群集心理の恐ろしさ


 だが、広島も最終回に粘り、三村敏之の2点二塁打で1点差。なおも2死二塁の同点機に、山本浩二の中前安打で三村が本塁をついたが、タッチアウトで試合終了となった。

 ところが、左顎への強烈なタッチに激怒した三村が、捕手・新宅洋志に突っかかり、乱闘が勃発すると、興奮した約2000人の広島ファンがグラウンドに乱入し、中日ナインを殴る蹴るの暴行。谷沢健一がビール瓶で右手首を殴られたのをはじめ、星野、大島康徳、ローン、竹田和史、神垣雅行の主力6人とコーチ3人が全治1週間から10日のけがを負った。

 その後も騒ぎは収まらず、機動隊員約200人が出動。中日ナインを乗せたバスは、試合終了から1時間以上経過した22時半、装甲車に先導され、やっとの思いで広島市民球場を脱出した。

 事態を重く見たセ・リーグは翌11日、緊急理事会を開き、「球場自主警備に自信がない」という広島側の報告と中日選手の負傷状況から、この日の同一カード開催は不可能と判断し、中止を決定した。

 昭和期は気の荒いファンも多かったが、前出の甲子園の騒動も含めて、群集心理の恐ろしさを痛感させられた事件だった。


■31人が病院搬送、6人が入院


 平成の世でも、ファンの暴走と言うべき事件が起きている。

 催涙スプレーが噴射され、パニックになったのが、03年6月11日に長良川球場で行われた中日vs.阪神だ。首位独走中の阪神は、この日も中日に7対2と大勝。2位・巨人に9ゲーム差をつけた。

 事件が起きたのは試合終了直後、阪神ファン十数人がグラウンドに乱入し、右翼席の中日ファンを「弱い」「降りてこい」などと挑発したのがきっかけだった。

 怒った一部の中日ファンが、警備員の制止を振り切ってグラウンドに降り、殴り合いになった。そんな混乱のさ中、「バーン!」という破裂音とともに、右翼席と一塁側スタンドの中間付近から黄色い煙が立ち昇った。目撃者の一人は、「髪を茶色に染め、阪神のメガホンを首からぶら下げていた男がスプレーを撒いていた」と証言した。

 たちまち53人が目や鼻、のどの痛みを訴え、救急車25台が出動。31人が病院に搬送され、うち6人が入院した。

 診察の医師は「防犯用の唐辛子系催涙スプレーが使われた疑いがある」と語った。球場に催涙スプレーを持ってくるのは、あまりにも常軌を逸しており、阪神・星野仙一監督も「そんなのは本当のファンじゃない!」と切り捨てた。

 この事件がきっかけで、甲子園球場には乱入防止用のネットが設置されたほか、中日が主催する地方球場での阪神戦は、13年まで行われなかった。

 近年はさすがにこの種の行き過ぎた騒動も影を潜めているが、これらの事件を他山の石として、節度ある応援を心掛けたいものだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年9月13日 掲載

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