「100年に1度の記録的負け方」という阪神 矢野監督が目先の1勝にこだわり過ぎて犯している過ち

「100年に1度の記録的負け方」という阪神 矢野監督が目先の1勝にこだわり過ぎて犯している過ち

矢野燿大監督

 スポーツ報知(電子版)は4月27日、「【阪神】矢野燿大監督、連勝も喜べない…ボーンヘッド三重殺『本当に恥ずかしいプレー』一問一答」との記事を配信した。

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 せっかく今季2度目となる連勝を成し遂げたにもかかわらず、球団としては23年ぶりという三重殺という”不名誉”な記録も残ってしまった。

 矢野監督は「アレは本当に恥ずかしいプレーやしね」と苦言を呈したのも当然だろう。

 これで阪神は6勝20敗、引き分けは1となり、勝率は2割3分1厘となった。

 多くの方が驚かれただろうが、4月13日には勝率が0割6分3厘(1勝14敗1分)まで落ちてしまった。

 1955年にトンボが14試合目(1勝13敗)で、また79年に西武が16試合目(1勝13敗2分)で記録した、シーズン途中の最低勝率0割7分1厘を更新した。

 野球解説者の広澤克実氏は、ヤクルト、巨人、そして阪神でプレーした経験を持つ。阪神不振の原因を訊いた。

「昨年の阪神は77勝56敗10分、勝率5割7分9厘、2位でシーズンを終えました。優勝したヤクルトは73勝、オリックスは70勝だったことからも分かる通り、阪神が12球団で最多の勝ち星をあげたのです。昨年は強かった。だからこそ、今年の極端な不振に頭を抱えているタイガースファンも多いでしょう」

 広澤氏によると、チームが低迷する理由として、「見える原因」と「見えない原因」の2つがあるという。

「前者は、戦力不足とかフロントと経営側の不協和音などが挙げられます。後者は、チームのムードとか運といったものです。今年の阪神は『見えない原因』、まさに不運で負け続けていると見ています」


■“100年に1度の大記録”


 阪神ファンなら真っ先に、「コロナが痛かった」と悔しがるだろう。まず3月25日の開幕戦では、先発が予定されていた青柳晃洋投手(28)が感染。登板が見送られるというアクシデントが起きた。

「4月13日には藤浪晋太郎投手(28)、伊藤将司投手(25)と江越大賀外野手(29)の3選手が陽性と判明しました。この“コロナ禍”に加え、4月2日にはジェフリー・マルテ内野手(30)が『右足のコンディション不良』で出場登録を抹消されました。これだけ不運が重なると、どうしたってチームの士気は下がります。阪神低迷の大きな原因になっているのは間違いないでしょう」(同・広澤氏)

 しかし、いくら不運が重なったからとはいえ、それだけで勝率が1割台になるものだろうか。

「アメリカで最初のプロ野球リーグが誕生したのは1871年、今の大リーグが発足したのは1903年のことでした。日本では初のプロ球団が1920年に誕生しています。日米共に100年を超える歴史を有していますから、突然、何の前触れもなく、“100年に1度の大記録”が起きてしまうことがあるのです」(同・広澤氏)


■ベーブ・ルースと大谷翔平


 2004年、大リーグのシアトル・マリナーズに所属していたイチロー(48)は262安打を放ち、シーズン最多安打の記録を更新した。

 それまで記録を持っていたのは、ジョージ・シスラー(1893〜1973)が1920年に記録した257安打だった。

 記録更新は84年ぶりという、まさに“100年に1度の大記録”だった。ちなみにシスラーが所属していたチームはセントルイス・ブラウンズ(現ボルチモア・オリオールズ)だった。今は存在しないチームという点でも、記録の古さが伝わってくる。

 ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平(27)は、投打の“二刀流”で大活躍している。ここでもやはり“100年に1度の大記録”が注目を集めた。

 ボストン・レッドソックス時代のベーブ・ルース(1895〜1948)も“二刀流”でチームに貢献。1918年には投手として13勝を挙げ、打者として11本塁打を記録した。

 この「投手として2ケタ勝利、打者として2ケタ本塁打」というルースの記録を、大谷が更新するのではないかと期待されている。

 昨季の大谷はホームランが46本と、ルースを完全に凌駕した。残念なことに勝ち星は9勝と、僅か1勝だけ足りなかった。もし大谷が今年、記録を更新すれば、104年ぶりということになる。


■半世紀ぶりの快挙


「もしロッテの佐々木朗希投手(20)が、4月17日の日ハム戦で“2試合連続完全試合”を達成していたら、日本のプロ野球でも大リーグでも誰も成し遂げたことのない、まさに“100年に1度の大記録”が達成されるところでした。ZOZOマリンスタジアムで試合を観戦したお客さんは、記録達成の瞬間には立ち会えませんでしたが、立派な“歴史の証人”となりました」(同・広澤氏)

 こうした大記録が、なぜ突然にファンの前に現れるのかと考えても、その理由を解明することは難しい。

「なぜシスラー、ベーブ・ルース、イチローが大記録を達成し、大谷や佐々木が大記録に迫れたのか、博学の野球関係者やファンに訊いても、『彼らが天才だから』としか答えられないでしょう。野球の神様のプレゼントとしか言いようがないのです」(同・広澤氏)

 そして広澤氏は「阪神の不振も同じように、“100年に1度の大記録”と考えるべきだと思います」と言う。

「高橋ユニオンズはパ・リーグのチームで、1954年に創設されました。ところが56年に解散しています。おまけにトンボユニオンズを名乗っていたのは、55年の1年間だけでした。今季の阪神が最低勝率を更新したことで、ほとんどの人が覚えていない67年前のチーム名と、その勝率がスポーツ紙の1面に大きく報じられたわけです。これはこれで、立派な“半世紀ぶりの快挙”でしょう」(同・広澤氏)


■楽しむのがファン


 広澤氏は「プロ野球ファンなら、阪神の弱さも徹底的に楽しみ、応援すべきではないでしょうか」と言う。

「皮肉でも何でもなく、心からそう思っています。何しろ半世紀とか、1世紀という単位の記録なのです。ハレー彗星の接近と同じレベルです。今後、自分が生きている間に“最低勝率”の記録が更新されるかどうかを考えてみれば、これもまた貴重な体験であると、ファンの皆さんも理解してくださるのではないでしょうか」(同・広澤氏)

 まさしく「勝つだけが野球ではない」という言葉もある。

「それこそ『勝ってほしい』と懸命に応援している阪神ファンの皆さんには申し訳ありませんが、少なくとも残り11球団のファンは、この“100年に1度の大記録”がどう推移するのか、ぜひしっかりと見届けてほしいですね。阪神が勝ったら喜び、負けたらもっと応援する。これも立派に、プロ野球の楽しみをファンに提供していると思います」(同・広澤氏)

 なぜ、矢野燿大監督(53)が率いた2022年の阪神は、これほど弱かったのか──少なくとも今後10年は、プロ野球ファンの間で分析が盛んになるかもしれない、と広澤氏は言う。


■不可解な采配


 そうはいっても、広澤氏は矢野監督の采配に納得がいかない点もあるという。

「矢野監督は開幕前に、今季での退任を発表して話題になりました。優勝しようが、最下位だろうが、必ず辞めるのです。普通、監督が『最下位になって解任されるのは嫌だ』とジタバタするなら分かります。しかし矢野監督の進退はどうあっても決まっているのですから、本来なら順位など気にせず、泰然とした態度で采配を振るえるはずです」(同・広澤氏)

 ところが、矢野監督の采配は、まるで逆に見えるという。「記録的な勝率の低さに焦っているのかもしれませんが、矢野監督は“目先の1勝”にこだわりすぎです」と言う。

「特にスタメンです。必要以上に変えているように思えます。特に1番・近本光司(27)、4番・佐藤輝明(23)、5番・大山悠輔(27)の3人は、基本的に固定すべきでしょう。彼らは未来の阪神を背負って立つバッターです。来季の監督のためにも、1番、4番、5番の打順は変えない。それでこそスムーズなバトンタッチができるというものです」(同・広澤氏)


■星野監督の“視点”


 これだけ負け続けると、“休養”する監督も珍しくない。後任にはヘッドコーチや2軍監督が就くのが一般的だ。

「私はシーズン途中の監督交代には反対です。繰り返しになりますが、矢野監督は今季で辞めることが決まっています。フロントとしては慌てる必要はないでしょう。むしろ時間がたっぷりあると、前向きに受け止めるべきです。後任の監督を誰にするか、じっくり検討できるわけですから」(同・広澤氏)

 広澤氏が阪神でプレーした引退までの2年、監督は星野仙一氏(1947〜2018)だった。その“采配スタイル”で、他の監督と違うと強く印象に残っていることがあるという。

「ワンサイドゲームで自分たちが勝っている時、普通の監督なら喜んでいるだけです。ところが星野さんは、いつもより表情が険しくなり、非常に厳しくなったものです。不思議に思って理由を聞くと、星野さんは『7点とか5点といった大量リードをひっくり返されると、チームは取り返しの付かないダメージを受ける』と教えてくれました。一流の監督は独自の視点を持って采配しているのだと感じ入りました」


■監督の“野球観”


 星野氏は中日の監督時代、選手への鉄拳制裁も辞さないという姿勢だった。阪神の監督時代は必ずしもそうではなかったとも言われているが、2003年に優勝マジックが点灯すると、一気に厳しさが増したという。

「『これで優勝を逃したら、死んでも死にきれない』といつも口にしていました。そこから伝わってきたのは、星野さんは1勝することの難しさを骨身に染みていたということです。それを前提に選手を教育し、指導されていました」(同・広澤氏)

 翻って矢野監督は、「選手と一緒になって、目先の1勝や1敗に一喜一憂しているだけではないでしょうか」と、広澤氏は問題提起する。

「それではファンと変わりないでしょう。監督の大切な仕事の一つは、選手に自身の“野球観”を伝えることです。星野監督の“野球観”と矢野監督の“野球観”を比較すると、残念ですが深さも覚悟も全く足りないと言わざるを得ません」

デイリー新潮編集部

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