ヤクルトのエースに憧れ、海を越えたパラグアイの日系二世…独立リーグ・高知が描く“未来図”

 野球の独立リーグ、四国アイランドリーグプラスが発足したのは2005年。一時は6球団に拡大したこともあったが、高知、香川、徳島、愛媛の4球団は、リーグ発足以来のオリジナルメンバーとして、その歴史を刻み続けている。地方における地域密着のプロスポーツとしての位置づけが半ば定着してきた今、高知は“次なるフェーズ”へ向け、地域との絆を深めるために、新たなる試みに挑もうとしている。そのキーワードは「育成」と「教育」にある。地域スポーツの“新時代の幕開け”を、4回連載で追っていきたい。

 最終回は、高知にやって来たパラグアイの日系人選手の持つ“可能性”を解き明かしていくことで、独立リーグの未来図を展望していきたい。

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 パラグアイのイグアスから、まず首都アスンシオンへ向かい、まずブラジルのサンパウロへ。さらにフランクフルトを経由して成田へ。高知へ到着するまで、空路でも丸2日ほどかかったという。

 二口(にぐち)卓矢ダリオは、日系二世の18歳。北海道で生まれた二口の父は、祖父と祖母に連れられ、パラグアイに渡ったという。母はパラグアイ生まれ。だから、父は日系一世、母は日系二世になる。

 二口がパラグアイで通っていたパラグアイ・ハポン高校は、日本人も多く通う日本人が設立した学校だというが、地元のパラグアイ人も普通に通い、授業はスペイン語で行われる。

 野球との出会いは、日本のように学校に「野球部」があるわけではなく、地域の小学生や中学生、高校生らが集まった地域のクラブチームでのプレーがきっかけだった。

■日本のプロになりたい


 その「イグアス少年野球」でプレーしている時、父からこう告げられたという。

「ここでプレーして、日本のプロになった人がいるんだよ」

 元ヤクルト・岡林洋一は、中学までパラグアイで育ち、その後、高知商から専大を経て1990年のドラフト1位指名でヤクルトに入団し、1992年には15勝をマーク。その年の日本シリーズでは3試合、30イニングを投げ、西武に日本一は奪われたものの、岡林はシリーズ敢闘賞を受賞。名将・野村克也がヤクルトの監督として初めてのリーグ優勝時の大黒柱として活躍した。

 その大先輩が、二口にとっての憧れであり、理想のモデルだった。いつか日本に行って、実力をつけて、岡林のように日本のプロになりたい。その夢の第一歩として、クラブチームの監督から紹介されたのが「高知」だった。

 二口のチームの監督は、前監督の駒田徳広(2022年から巨人3軍監督に就任)が、高知球団のスタッフらとともに、パラグアイへ野球指導にやって来た際、野球指導についての講座を受けていた。その繋がりから、二口を高知球団に紹介したのだ。

 パラグアイでは、日本の高校野球における「甲子園」に相当するような全国レベルの大会はない。二口によると、年に2回ほど近隣の地域の対抗戦のような大会が行われ、2022年1月に8チームで争われた大会で、二口は一人で17イニングを投げたという。

 一日で3試合。つまり、大会を一日でこなすという日程だ。ただ、初戦と準決勝は5イニング制、決勝は7イニング制だという。

 身長178センチ、体重70キロのスリムな体つきの二口が一人で投げ抜き、チームを優勝に導いた。そのセンスの高さを見込んだ監督は、さらなるレベルアップを図るべきだとして、高知球団にも相談、二口の日本行きを促したのだ。


■“文武両道プラン”


 迷いなく日本行きを決断したという二口を、両親も後押ししてくれたという。その周囲の期待の中に「教育」という支えがあることは見逃せない。

 監督や両親からは、独立リーグからNPBに進めなかったとしても、日本語をマスターして、野球やスポーツビジネスの勉強もして、パラグアイにそうした知識を還元してほしいという希望も告げられているという。

 実は、龍馬学園が運営する3校のうち「龍馬看護ふくし専門学校」の中に、2023年度から「スポーツ健康学科」を設けることになっている。ここで、野球やサッカーのプロクラブの経営、スポーツビジネスの専門知識を学ぶことができる。二口のように、パラグアイで「高校卒業」も果たしており「漢字はまだ得意じゃないです」とはいうものの、日本語のベースもある程度できている。独立リーグの練習生としてプレーしながら、日本語検定2級の取得を目指すことは、決して難しいことではない。

 日本にやって来るための“入り口”は「野球」であっても、将来的な「教育」の選択肢を備えてくれていることで、10代の若者を異国へ送り出す側も、ある程度安心できるのだ。

 高知球団で野球以外の事業を統括する責任者の北古味潤は、龍馬学園の「グローバルプロジェクト推進室室長」も務めている。独立リーグと日本語教育の融合を図ることで、二口のような夢を持つ若い外国人たちに、高知へ目を向けさせるための“吸引力”として「凄いマーケットになってくるかもしれない」とにらんでいる。

 そのために、独立リーグには野球の実力を伸ばすための「アカデミー」を作り、龍馬学園で日本語を学ぶ“文武両道プラン”を整備していくことを考えている。


■「プロアマ」の壁


 ただ、野球の場合、現状ではプロ選手が高校生の指導を行えないという、いわゆる「プロアマ」の壁が、今も存在している。プロ野球の長い歴史の中で、選手獲得に伴う金銭の問題など、かつての“負の歴史”が払しょくし切れていない部分が、いまだに残っているからだ。

 高知球団も、小・中学生の指導を行う「野球スクール」は稼働している。これに加えて、例えば現時点で高知球団が「アカデミー」を作り、そこで高校生の指導を行うとしよう。

 この場合、高校生が独立リーグという“プロの傘下組織”に加わることになり、現行の日本学生野球憲章に照らせば、恐らく「プロ扱い」と見なされる。だから「アカデミーチーム」の高校生で結成するクラブチームは、日本高校野球連盟に加盟する高校との練習試合を、今のままでは組めないことになる。

 こうした現行のルールが近い将来、大きく変わってくる、いや、変わらざるを得ないような、スポーツ界の“地殻変動”が起こる予兆を、北古味は感じている。

「これから、学校の部活動を地域に移行しましょうという話じゃないですか。地域スポーツ、クラブチーム化していくことになる。そうすると(アカデミーと教育の)このアイディアが成立してくるんですよね」


■国も地域も動き出している


 この「部活動の地域への移行」とは、休日にも部活動の指導を教員の負担軽減に加え、少子高齢化に伴い、学校単位での部活動の維持が困難になりつつある地域が出ているという、教育現場の現状も踏まえたもので、スポーツ庁ですでに本格検討に入っている。

 2023年度からの3年間は「改革集中期間」と位置付けられ、公立の中学校では2025年度末までに休日の部活動の地域移行を実現させるべく、国も地域も動き出している。

 近い将来、これが高校レベルにも波及してくることになってくるのは間違いない。その時に、地域のプロスポーツが「育成機能」を充実させ、高校生にもその門戸を開く時が来るだろう。

 その時、日本学生野球憲章などの現行ルールに、想定されていない状況が来れば、そうした規定は、時代に合わせて変化をせざるを得ないのだ。

 しかも、高知球団社長・武政重和は、サッカーのJFL・高知ユナイテッドSCの社長も務めている。高知ユナイテッドSCには、すでにU-13、U-14、U-15のジュニアユースチームもあり、育成のための「アカデミー」の素地はすでに備えている。

「市場が大きくて、活動されている母体や人数が、例えばサッカーで何万人、野球で何万人といるのであれば、それぞれで1つのコミュニティというか、サッカーのコミュニティ、野球のコミュニティで成り立つような世界があると思うんです。でも海外だったら、たった人口1万人くらいの街でも、自分たちのところのサッカークラブがあって、1部リーグに行けなくて、3部や4部だとしても、そこをみんなで応援しようという文化がある。今のところ、日本全体ではそんなにないと思うんですけど、そこに気づいている途中といえば、そうだなとも思いますね」


■地域密着のスポーツクラブの「未来図」


 武政が語るように、その“身の丈”に合わせ、高知の経済規模も踏まえた上でのスポーツクラブの経営、さらには選手育成が重要になってくる。

 すでに高知では、独立リーグとサッカーの経営母体は別ながら、事務所は合同で構え、営業や地域貢献活動を一緒に行ったりするなど、経営面での効率化も図っている。

 ただ、「経営を一緒にするとなれば、まだハードルがある」と武政は言う。独立リーグの場合、現在の親会社は、地元の「明神水産」の1社オーナー制。サッカーは、44の企業、団体、個人が株主になっているという。

 しかも、コロナ禍の影響も受けて「今のところ(野球とサッカーの)2社とも赤字。一緒にやれば、とおっしゃってくれる方々もいますが、今がそのタイミングなのかどうか、ですね」と、2社の社長としてはシビアな見解も示している。

 それでも、こんな「未来図」は決して夢物語ではないだろう。

 野球とサッカーが大同団結した「高知スポーツクラブ」ができる。そこに、選手育成の「アカデミー」としての役割を充実させる。高知球団が野球、高知ユナイテッドSCがサッカーで、高知県の若手選手たちを育成していく体制を整える。

 そこに、小・中・高校生たちが入ってくる。さらに、日本語教育のカリキュラムなども充実させ、セカンドキャリアに備える仕組みも整えておけば、高知県外の日本人、さらには外国人にも「高知」という地域スポーツに注目させる、一つの大きな魅力になってくる。

 スポーツクラブで結成した、日本人と外国人の高校生たちによる「野球」のチームが甲子園を目指し、「サッカー」のチームが国立競技場を目指す――。

 独立リーグやサッカーが、地域における「エンタテインメント」の位置づけとして、十分に定着してきた。ただ、それだけに終わるのではなく、次のフェーズとして、人生のキャリアパスの中で、選択肢の一つとしての役割を付加していく。それが地域振興につながり、コミュニティの拡大にも繋げられる可能性もある。

 地域密着のスポーツクラブ。その未来図に、地域のニーズにも則した付加価値をつけていく。それが、今後の地域スポーツに課されている新たなテーマなのかもしれない。

 小さな町で奮闘する球団の姿に、明るい未来が繋がっていると信じたい。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ〜産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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