立浪以来の高卒ショート!“令和の牛若丸”滝沢夏央を獲った西武の“金の卵”発掘法

立浪以来の高卒ショート!“令和の牛若丸”滝沢夏央を獲った西武の“金の卵”発掘法

滝沢は入団会見で「守備のスペシャリスト」を目標に掲げた

■猛打賞に加え、好守を連発


「シンデレラボーイ」とは、まさに“この選手”を表現するためにある言葉だ。西武の高卒ルーキー、滝沢夏央のことである。5月13日に故障で離脱した源田壮亮の代役を期待されて一軍初昇格を果たすと、初スタメンとなったその日の楽天戦でプロ初安打をマーク。翌日には7回に同点に追いつくタイムリースリーベースを放ち、その後の暴投で決勝のホームを踏み、試合後にはヒーローインタビューでお立ち台にも上がった。【西尾典文/野球ライター】

 5月22日の日本ハム戦では3安打猛打賞を記録したほか、持ち味である守備では、とても18歳とは見えない好守を連発している。日本球界で最小兵となる164cmという身長とそのスピードから“令和の牛若丸”との声も上がっている。

 高卒1年目の選手が、一軍のショートとしてこれだけ結果を残せるのも珍しいが、さらに驚きなのが、育成ドラフト2位から短期間に這い上がってきたことだ。ドラフト制度ができて以降、高卒1年目からショートで活躍ができた選手は、中日の立浪和義(現・中日監督)しかいない。その立浪は、1位指名で入団していることを考えると、いかに滝沢の存在が異色だということがよく分かる。


■判断材料に乏しかった高校時代


 なぜ1年目からショートという重要なポジションで活躍できる選手が、育成ドラフト2位という低い評価になったのだろうか。164cmという小柄な身長はもちろん影響しているが、他にも要因はある。

 大きかったのは、故障とチーム事情だ。滝沢は新潟県上越市にある関根学園に所属していた。2年秋には北信越大会で準決勝まで勝ち進んでいるが、当時の滝沢は腰の故障を抱えながらのプレーであり、本調子ではなかったという。

 また、3年夏は、チームに力のある投手が少なく、「背番号1」で選手登録をされていたほか、4回戦までの4試合は、秋に痛めていた腰の影響もあって試合にすら出場していない。

 滝沢が唯一出場した準々決勝の日本文理戦でも3番、投手としてプレーし、チームは延長戦の末に2対5で敗れている。筆者は、この試合を現地で取材していたが、投手としてのフィールディングや脚力に光るものはあったものの、野手としての能力は判断材料に乏しかった。

 西武以外のスカウト陣は、それ以前から、滝沢をマークしていたとしても最後の夏に1試合しか出場できず、しかも本職のショートではないとなれば、ドラフト候補として強く推すのは難しかったという。


■地方大学の選手を積極的に上位指名


「当然、滝沢はマークをしていましたが、やはり身長を考えるとそれを補うだけの圧倒的な武器がないとプッシュするのは難しいですよね。足も“普通の俊足”というレベルで、『Sランク』というわけではない。守備も細かいステップはできるし、スローイングも良かったですが、能力がズバ抜けているという印象ではなかったです。ただ、西武は春の段階で、かなり(スカウト関係部署で役職が)上の人も何人も見に来ていたので、正直、『そんなに評価高いのか』と驚いたのを覚えています。タイプとしては、『進学して力がついてから』と考える球団が多かったと思います。まさか、いきなり一軍であんなに打てるとは思わず、驚いています。源田が復帰すれば、ショートからは外れると思いますが、1年目でこれだけ一軍を経験して、結果が残せていれば十分ですよね」(他球団の新潟県担当スカウト)

 では、西武は、低いドラフト順位とはいえ、滝沢を指名することができたのだろうか。その理由は、独自色の強いドラフト戦略にある。過去には、二度のホームラン王に輝いた山川穂高(富士大・2013年2位)をはじめ、細川亨(青森大・01年自由枠)、山崎敏(平成国際大・03年自由枠)、美沢将(第一工業大・09年2位)といった、他球団が高く評価することが少ない地方大学の選手を積極的に上位で指名している。

 また、伊藤翔(徳島インディゴソックス・17年3位)、松岡洸希(埼玉武蔵ヒートベアーズ・2019年3位)と、独立リーグの選手も高い順位で獲得している。これを見ても「隠し玉」とまではいかなくても、他球団の目があまり向いていない地域やカテゴリーから選手を発掘しようとする意識の高さが感じられる。


■隠れた逸材への期待


 ちなみに、一昨年の育成ドラフト5位で指名し、現在は一軍でリリーフとして活躍する水上由伸も、全国で最もプロ野球選手の輩出が少ないリーグの一つである「四国地区大学野球」の四国学院大でプレーしていた。

 残念ながら、故障もあって昨年限りで引退した綱島龍生(糸魚川白嶺・17年6位)は、滝沢と同じ新潟県の高校出身の選手だった。過去を振り返ってみても、プロで活躍している同県の高校出身者は少なく、西武にとっては新たな“ブルーオーシャン”だったとも考えられる。

 現場でアマチュア野球を取材していると、西武のスカウト陣は、他球団のスカウトとは、かなり離れていた場所で試合を視察していることが多く、選手の評価については、基本的に渡辺久信GMや潮崎哲也編成ディレクターといった管理職だけが取材に応えている。他の11球団とは一線を画した戦略、体制をとることが、今回の滝沢獲得に繋がったといえるだろう。

“令和の牛若丸”がこのまま一軍で活躍し続けることができるかは未知数だとはいえ、いつの時代もこういったシンデレラストーリーを野球ファンは望んでいる。今後も“隠れた逸材”がすい星のごとく現れることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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