大船渡高校の登板回避問題で安定の時代錯誤感を示した「御意見番」張本勲

 TBSの「サンデーモーニング」といえば、人権問題などに非常に理解が深い番組だとして知られている。ところが、ことスポーツに関連するとまったく別のスタンスがあるようだ。

 7月28日放送の同番組内、名物コーナーの「週刊・御意見番」で取り上げたのは、夏の高校野球岩手県予選での大船渡高校の「エース登板回避」問題。同校の國保陽平監督が、プロも注目するエース佐々木朗希投手の決勝戦での登板を回避した一件だ。監督は肘の違和感など、身体面での懸念を理由に、あえてエースの登板を回避させた。

 結果として、同校は決勝で敗れたため、甲子園への出場は果たせなくなった。

 この監督の決断については「英断」と評価する向きもいるものの、「プロを視野に入れるのはおかしい。甲子園を全力で目指すべきだ」といった批判もある。

 そして、この件で、安定の「昭和的」なコメントを口にしたのが、「御意見番」こと張本勲氏だ。

「最近のスポーツ界で私はこれが一番残念だと思いましたよ」「けがを怖がったんじゃ、スポーツやめたほうがいいよ」「楽させちゃダメですよ。スポーツ選手は」等々。スポーツ科学もパワハラも存在しなかった頃のような見解を開陳したのである。

 こうしたアナクロなコメントには、メジャーリーガーのダルビッシュ有投手をはじめ、批判が寄せられているが、張本氏のような考え方の野球関係者が少なからず存在していることもまた事実だろう。この夏も甲子園では「酷使」すれすれの「熱投」が見られる可能性は高い。

 しかし、現場では少しずつ変化の兆しも見られている。今回の國保監督同様、投手の酷使を避けようと考える指導者も現れてきているのだ。

 スポーツジャーナリストの氏原英明氏は、10年ほど前からこの登板過多問題に向き合い、取材を続けている。実際に過剰な負担をかけられた投手や、それを指示した監督らにも丁寧に話を聞いており、その著書『甲子園という病』には当事者たちの貴重な証言が数多く収められている。2014年の盛岡大学附属高校のエース、松本裕樹投手を巡るエピソードを紹介してみよう(引用はすべて『甲子園という病』より)。


■剛腕投手の異変


 2014年夏の2回戦、盛岡大学附属−東海大相模戦は大会屈指の好カードとして注目されていた。とくに関心を集めていたのが、松本裕樹投手(現ソフトバンク)の存在だ。

 最速150キロのストレート、カーブ、スライダー、カットボールを持つ本格派右腕で大会屈指の投手という評判だった。打者としても高校通算54本塁打なので、大谷翔平に続く二刀流の逸材としても騒がれていた。

 ところが、いざ試合が始まると、松本のストレートは最速でも130キロ前後。変化球を駆使して勝利を収めたものの、異常は明らかだった。このとき、彼の右ひじは靭帯に炎症を起こしていたのだ。

 続く3回戦でも松本は先発したが、すでに限界。3回途中9失点で降板。チームも敗退した。

 これだけならば、よくある「登板過多」「エース酷使」のエピソードの一つになるのだが、盛岡大附の場合は、ちがった。松本の件を反省材料として、エース1人に頼るチーム作りを辞め、複数投手を登板させる体制を作った。そのうえで、2017年、甲子園に戻ってきて春・夏ともにベスト8まで勝ち上がったのだ。

「松本の失敗から学びました」と語る同校の関口清治監督は、軸になる投手は存在するにせよ、1人の投手に過度な負担が掛からないようなチーム作りに一新していた。

 氏原氏の取材に答える関口監督のコメントは示唆に富むものだ。2014年の采配を「指導者のエゴだった」と厳しく反省しながらこう振り返っている。

「2014年のチームはエースの松本と2、3番手の投手に力の差がありました。それで、どんな試合でも『松本、松本、松本』という偏った起用になっていました。勝つことで何よりチームに力がつく。そう思い込んだ私は『大事な試合は松本が投げる』というチームづくりを浸透させてしまったんです。指揮官のエゴが原因で、2番手以降の投手を育てることができなかった。そのために、エースの松本がケガをしていても、2、3番手投手を起用することすらできない状態をつくってしまっていた。夏の大会を迎えるまでの過程に、監督のミスがありました」

■60連投!


 予選で勝ち抜くためだけならまだしも、公式試合ではないときでも、ついエースを登板させてしまっていた、という。

「練習試合などもその傾向がありました。“目の前の相手を倒すことによってチームが成長する。(この試合は)鍵を握るゲームなのだ”と僕自身が勝手に思ってしまうところがあったのです」

「夏の大会を控えた6月くらいになると、最後の追い込み期間になります。高校野球にとって大事な時期です。ですから、この時期というのはほとんどの練習試合が強豪との試合になるんです。そうなってくると、どのチームもエースの登板が増えます。強豪を相手に勝ちたいという欲が(監督自身に)出てくる。また、遠くから遠征に来ているチームが相手であった場合も『エースを出さないのは失礼だ』みたいな空気もあるんですよね。そこを変えるのは難しい」

 つい甲子園大会や予選にばかり目が向くが、実際にはそれ以外の場面での酷使も生じうるというのだ。さらに、高校入学以前の問題もある。

「松本から聞いた話なのですが、少年野球をやっていた時、彼は公式戦の全試合で投げたそうです。つまり60連投くらいはしていた、ということです。もちろん少年野球は毎日試合をしていたわけではないので60日間連続ということではありませんが、60数試合の連投をこなしていたそうです。それを知った中学のボーイズの指導者は、中学時代の松本には登板を控えさせたと聞きましたが、野球界にはいろんなところに勝利至上主義の問題があるのだと思います。実際、私たちのチームには、小中学校の投げすぎで手術を経験して入部してくる子や、ケガの影響で一球もブルペンで投げることができないまま卒業していく選手もいます。そうした現状を支配しているのは、勝ちたいという指導者のエゴではないでしょうか」

 氏原氏は、関係者が「指導者のエゴ」を脱し、関口監督が起こしたような意識改革が広がってくれれば、と述べたうえでこう記している。

「高校生の肩や肘をロシアンルーレットの対象にしてはならない。潰れなければラッキーで、潰れたら運がなかったということではないのだから」

 高校生に限らず選手たちは指導者に逆らうことはできない。だからこそ、指導者側は彼らの身体や将来に対して最大限の配慮をする必要がある。1人の選手に過大な負担をかけるのは、実は指導者やチームが「楽」をしているだけではないか。関口監督の改革はそんなことを示しているようにも見える。

 選手に「楽させちゃダメ」という張本氏のようなアドバイスを真に受けて、選手生命が断たれるような事態になった場合、誰が責任を取ることになるのだろう。

デイリー新潮編集部

2019年7月31日 掲載

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