高校野球で「脱・丸刈り」が急増中 それだけでは競技人口の減少は食い止められない

 燦々と輝く太陽の下、丸坊主の球児たちが白球を追いかける――そんなイメージが強い高校球児だが、代名詞の“丸刈り頭”が減りつつあるという。丸刈りが嫌で野球をやりたがらない若者が増えているため、髪を伸ばしてもOKな高校が増えているのだ。野球界全体では、野球人口を増やすためにこうした取り組みが行われているが、はたして奏功するのだろうか。高校・大学球児向け雑誌「サムライベースボール」発行人の古内義明氏に聞いた。

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 公益財団法人 日本高等学校野球連盟(高野連)の調査によると、高校野球人口は2014年に17万人を突破して以来、減少の一途をたどっている。今年は約14万人となり、この5年間で約3万人も減少しているという。

 その一因には、中学球児が丸刈りを敬遠していることが挙げられているという。そこで、最近は丸刈り禁止、あるいは髪型自由の動きが加速しているのだ。

 今夏の甲子園に出場した花巻東、秋田中央、旭川大などの球児たちも丸刈り頭ではなかったし、常連校の新潟明訓も脱丸刈りを宣言。同校野球部の波間一孝部長は「硬式野球を選ばない理由の一つに“坊主が嫌だ”というのがある以上、少しでもそういうものがなくなっていけば」と話し、大谷翔平と菊池雄星の両選手を育てた花巻東の佐々木洋監督も「(脱丸刈りは)時代の流れ」とコメントしている。

「子どもたちの選択肢が広がるのは良いことだと思います。高校野球人口減少の歯止めには多少なりとも寄与するでしょう。丸刈りをやめることは、高校野球にとって、少なくともマイナスにはならないと思います」(古内氏)

 高野連と朝日新聞の調査によると、2018年、丸刈りの高校は全国3939校のうち76.8%にも上る。これらの高校が坊主をやめれば、高校野球人口の減少に歯止めをかけられるかもしれないというわけだ。


■高すぎる道具代も敬遠される一因


 高校球児の人口減少の他の要因としては、高額な道具代も考えられる。グローブは5万円、バットやスパイクも2万円以上する。そこに練習用のユニフォームなどが加わると、格差社会が叫ばれる昨今にあっては、家庭の経済的負担はかなり大きい。これらの課題について古内氏は次のように語る。

「道具代についても、野球界全体でもっと議論していかなければならない問題です。近年は中学軟式野球の人口減少も著しく、最盛期には30万人いたのが、いまや16万人ほどに減少してしまいました…。こうした事態を受けて、最近は少年野球団体が子どもに道具を貸し出すケースもあり、改善しようとする取り組みも見られます」

 競技人口を増やすために、プロ野球ではこんな動きも。

「野球のことを知らずに部活の顧問になる先生もいますから、彼らのためにNPB(一般社団法人 日本野球機構)は授業研究会を行ったり、『壁当て』(壁に向かってボールを投げては取る練習)用の壁を作ったりしています。ただ、NPBで使った道具をアマチュアに流して還元するなど、もっとダイナミックな取り組みも必要でしょう」

 また、2017年には競合するスポーツ用具メーカー19社が、「一般社団法人 野球・ソフトボール活性化委員会」を発足させ、プロ野球の試合に親子を招待するなどの施策も行っている。

 このように、各団体は野球人口を増やそうと躍起だが、古内氏は「これ以上の増加は困難」と予測する。

「少子化や野球以外のスポーツの人気により、これから爆発的に野球人口が増えるとは考えにくいです。とにかく今後は野球へのハードルを今より少しでも下げて人口の現状維持に務めるべきでしょう」


■野球はガラパゴスからグローバルへ


 丸刈りの議論に加え、最近では甲子園の過密日程による投手の連投、球数制限、熱中症対策など多くの問題が指摘されている。しかし、実際の改革はあまり進んでいない。

「これは非常に難しい問題です。甲子園という共通目標があることで日本の野球界が発展してきたことは紛れもない事実ですからね。さまざまな課題があるのは高野連も理解し、改革してきていますが、全国4千校近い高校があり、県大会の1回戦で負けるような学校から甲子園常連校まで、平等に扱うようなスキーム(枠組み)を作ることは容易ではなく、一気に変えるのは難しいでしょう」

 腰が重く、実行力に乏しい高校野球界だが、昨年、新潟県高野連は独自に球数制限制度の導入を決定(のちに日本高野連の要請により撤回)。今年2月には、公益財団法人 全日本軟式野球連盟が小学生野球での投球数を1日70球以内と制限し、8月の全国大会から導入することを決めた。

 高校野球の強豪校の脱丸刈りも、こうした流れの一環というわけだろう。変革期を迎えている日本野球界の今後について、古内氏は次のように語る。

「今は好きな野球選手を聞くと、メジャーリーガーを挙げる子が多い。かつてのように『(日本の)プロ野球選手になりたい』ではなく、メジャーを目指す子が普通になってきている。そのようなグローバルな価値観が広まり、日本独特の丸刈りや連投の問題が取り沙汰されているのだと思います。これからはテニスやサッカーのように、小さい頃から本場のアカデミーや下部組織、高校や大学に留学したり、甲子園とは無縁の選択肢を選ぶ野球選手も出てくるはずです」

 日本野球界は、高野連など局所的な取り組みだけではなく、プロアマ含め俯瞰的に見取り図を描くべきだ。脱丸刈りは高校野球だけではなく、日本野球の変革の狼煙なのかもしれない。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年9月 掲載

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