巨人「原監督」の考えは甘い! DH制を導入しても「セ・パの格差」を埋められない“根拠”

巨人「原監督」の考えは甘い! DH制を導入しても「セ・パの格差」を埋められない“根拠”

原辰徳監督

「(セ・リーグも)DH制は使うべきだろうね。DH制で相当、差をつけられている感じがあるね」

 日本シリーズでソフトバンクに4連敗を喫した巨人の原辰徳監督が10月24日、オーナー報告を行ったが、その後の取材でパ・リーグに追いつくためにはセ・リーグでもDH制(指名打者制)を導入すべきとの考えを示した。果たして、セ・リーグはDH制を導入すれば、本当に強くなるのだろうか。多角的に検証してみた。

 まず、原監督の意図するところや強くなるという意見は、野手のレギュラーが単純に1人増えて、それだけ選手の出場機会が増えるというものだ。守備に難はあるものの、打撃に秀でた選手の活躍の場が確保され、チームとしての攻撃力も上がるという意見は確かに一理ある。

 とはいえ、DH制を導入すれば、セ・リーグの球団が強くなるかといえば疑問である。順を追って、その根拠を示していきたい。

 パ・リーグにDH制が導入されたのは1975年のこと。その2年前にMLBでア・リーグが採用したことを参考に取り入れられた。75年から84年までの10年間、日本シリーズの成績は5勝5敗と拮抗している。

 日本シリーズでのDH制は、85年に全試合で初めて採用されたが、翌年は全試合で不採用。そして87年からパ・リーグの本拠地ゲームのみで採用される形となり、現在までそれが続いている。

 85年から94年までの日本シリーズの成績は、パ・リーグが6勝4敗と勝ち越したが、95年から2004年では逆にセ・リーグが6勝4敗と盛り返している。75年から04年までの30年間、日本シリーズの成績は15勝15敗である。パ・リーグが、DH制の導入によって強くなったわけではないことが鮮明になっている。

 それはMLBでも同様だ。先述したように73年からア・リーグではDH制が導入されているが、ナ・リーグには現在もDH制がない。過去10年間のワールドシリーズの成績を見てみると、DH制のないナ・リーグが6勝4敗と勝ち越している。このことからもDH制を導入しているリーグの代表が必ずしも強くないことがよく分かる。

 日本球界に話を戻そう。それまで拮抗していた“セ・パの力関係”がパ・リーグ優位へと傾いたのは、04年に起こった「球界再編問題」以降である。その翌年05年から今年までの15年間にわたる日本シリーズの成績は、パ・リーグが12勝3敗と圧倒している。やはり、「球界再編」をきっかけに、それまでの編成や育成などを見直して、パ・リーグが生まれ変わったと考える方が妥当ではないだろうか。

 セ・パ交流戦の結果をみても、それは顕著だ。05年から19年までの15回でパ・リーグが14回も勝ち越しているが、今年の交流戦でもセ・リーグはDH制がない本拠地の試合で23勝31敗と、パ・リーグに完全に負け越している。パ・リーグの球団からすれば、投手が打席に入り、普段守備につかない選手が守る必要があるセ・リーグ本拠地の試合は不利なはずだ。これは制度の有無とは関係なしに“パ・リーグの優位”を示しているといえるだろう。


■成績で検証すると…


 さらにもう一点。セ・リーグ6球団がDHを導入したとして、戦力がアップするのか。新たにレギュラー候補になりそうな選手の今季の成績を比較した。ちなみに、その選手がDHにそのまま入るという意味ではなく、現在守りについている選手がDHに入るケースもあると想定している。

巨人:ゲレーロ 101試合 68安打 21本塁打 54打点 1盗塁 打率.237
DeNA:佐野恵太 89試合 59安打 5本塁打 33打点 0盗塁 打率.295
阪神:高山俊 105試合 73安打 5本塁打 29打点 9盗塁 打率.269
広島:長野久義 72試合 45安打 5本塁打 20打点 0盗塁 打率.250
中日:アルモンテ 49試合 54安打 7本塁打 25打点 0盗塁 打率.329
ヤクルト:山崎晃大朗 80試合 46安打 0本塁打 8打点 4盗塁 打率.274

 一方、パ・リーグの主にDHで出場した選手の成績は以下の通りである。

西武:栗山巧 123試合 103安打 7本塁打 54打点 0盗塁 打率.252
ソフトバンク:デスパイネ 130試合 116安打 36本塁打 0盗塁 打率.259
楽天:ブラッシュ 128試合 111安打 33本塁打 95打点 2盗塁 打率.261
ロッテ:井上晴哉 129試合 108安打 24本塁打 65打点 0盗塁 打率.252
日本ハム:近藤健介 138試合 148安打 2本塁打 59打点 1盗塁 打率.302
オリックス:ロメロ 81試合 90安打 18本塁打 63打点 3盗塁 打率.305

 こうしたデータからも、セ・リーグの顔ぶれがそのまま出場試合数を増加させたとしても、パ・リーグのそれには遠く及ばないことが予想される。DH制の導入で、新たな外国人選手の補強や他の思わぬ選手の台頭も期待できるとはいえ、それでも簡単にパ・リーグのレベルに追いつけるかは甚だ疑問である。

 今、セ・リーグに必要なことは、パ・リーグの後塵を拝していることを素直に認め、制度を変えるのではなく、今ある制度の中でどのようにしてチーム力を高めることができるかを考えるべきではないだろうか。

 パ・リーグでは、ソフトバンクが資金的に恵まれていることは間違いないが、強さの秘訣は決してそれだけではない。“世界一”を目指すというビジョンに立ってハード面、ソフト面の両面を強化してきたからこそ、今年、日本シリーズ3連覇という偉業を達成することができたのだ。また、西武、日本ハムなどは度重なる主力選手の流出に対しても、現有戦力のやりくりや若手の抜擢などで、ソフトバンクに対抗している。

 一方、セ・リーグはどうだろうか。巨人、阪神の老舗球団が直近しか視野に入っていない補強を繰り返してきたことで、強さが維持されず、他の球団もそれに引きずられる形となっている。広島が自前の戦力を鍛えてリーグ3連覇を達成したことは評価できるが、リーグを牽引するような影響力は発揮できなかった。

「制度が変われば、セ・リーグが勝てるようになる」。そのような考え方が変わらない限り、セ・リーグは、今後もパ・リーグに圧倒され続けてしまう可能性が高いと言えるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月8日 掲載

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