巨人「山口俊」&中日「大野雄大」、どん底に落ちた二人はなぜ復活できたのか?

巨人「山口俊」&中日「大野雄大」、どん底に落ちた二人はなぜ復活できたのか?

山口俊(江戸村のとくぞう/Wikimedia Commonsより)

 今季のセ・リーグは、先発投手部門のタイトルを2人の投手が独占した。最優秀防御率が大野雄大(中日)。最多勝、最多奪三振、最高勝率の投手三冠を獲得したのが山口俊(巨人)だ。大野はプロ9年目の31歳、山口はプロ14年目の32歳。共に初タイトルとなった2人の共通点は、一度はどん底まで落ち込んだ状態からの“復活劇”ということだ。侍ジャパンの一員としてWSBCプレミア12にも出場した大野と山口。2人はなぜ立ち直ることができたのか。現役時代は広島で先発、抑えとして22年間で148勝138セーブを記録し、現在はNHKなどで野球解説者を務める大野豊氏に聞いた。

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 大野雄大は昨年、ルーキーイヤー以来となる未勝利に終わった。オフにはトレード要員の噂も出たが、開幕から1年間先発ローテを守り、防御率2.58で初タイトルを獲得した。「もともと力のある左腕であることは間違いない」という大野豊氏は、同性で自身と同じ左腕である大野雄の復活について、体調面での充実を最初に挙げた。

「入団時から左肩に不安があり、数年前には左ひじも痛めるなど、コンディション面に不安がある選手で、昨年はその影響があったのか、しっかりと自分のボールを投げることができていなかった。本人としては相当、悔しい思いをしたと思うが、今年はそれを踏まえてキャンプの体づくりから体調管理ができて、いい形でシーズンに入ることができた。もともといい内容のピッチングはするが、どこかで崩れてしまう悪いクセがあったが、今年は打線の援護に恵まれない試合も多い中、最後まで我慢強く投げられるようになった。自分が投げている間は粘り強く、失点を最小限にする。1点を取られても2点目は与えない。その意識が今年の投球の中で強く感じることができた」

 技術面では、原点回帰が功を奏した、と大野氏は言う。

「もともと威力のあるストレートが持ち味の投手だったが、今年は速球のキレやコントロールが、1年を通じて落ちることがなかった。左の先発投手にとって大きな課題になるのが、右打者をいかに抑えることができるか。ひとつはアウトコースのコントロールで、ここでツーシームをうまく使えるようになった。ストレートのタイミングで待っている打者に対して、同じ軌道から微妙に変化するボールでタイミングをずらすことができた。それからインコースへのスライダーも効果的に使っていた。ただ、これらの変化球が生きるのも、ストレートの状態がいいからこそ。今年はイニングを重ねても、ストレートの威力が落ちなかったイメージがある」

 今季から就任した与田剛監督の存在も追い風になった。

「監督やスタッフが変わることで、ピッチャーが生き返る場合と、逆にダメになってしまうケースもある。与田監督は大野に対して、大きな信頼感を持っていた。これまで首脳陣やチーム内で、ここでやられそうだなという場面やイニングでも、これまでのイメージを払拭して、彼の力を信じて任せると。それが監督の口から本人に対して、何らかの形で伝えられていたのではないか。それで大野も意気を感じて奮起して、今季の活躍につながったのだと思う」

 2017年にDeNAからFA移籍した山口は、移籍1年目のシーズン途中に不祥事を起こして出場停止処分になった。謹慎から復帰した昨季は、自身初となる規定投球回に達して9勝を挙げ、今季は最多勝(15勝)、最多奪三振(188)、最高勝率(.789)と3つのタイトルを獲得してチーム5年ぶりとなるリーグ優勝の立役者となった。「先発の頭数がなかなか揃わず、菅野の状態も万全でない中で、リーグ優勝に大きく貢献した」と評する大野氏は、躍進の要因として山口の投球スタイルの変化を指摘する。

「見ていると力八分目ぐらいで投げているイメージで、以前ほどフォームに躍動感がない。投げっぷりも決して良くは見えないが、今年はボールの質がよくなり、安定感があった。少し前までの山口と言えば、真っ直ぐとフォークを力任せに投げている感じだったが、今年は力感のないフォームから、いい球を投げていた。変化球もある程度、自在に操れるようになって、ここぞという場面でもしっかり投げ切れるようになった」

 横浜時代はクローザーを任され、2年連続で30セーブ以上を記録したこともあった山口。自身も先発、リリーフで実績を残した大野氏が、リリーフの経験は先発にも生きると強調する。

「抑えの場合は、最初からトップギアで入って、失投は許されない。1点が命取りになるので、極端に言えば全球、勝負球を投げ込んでいく気持ちが必要になる。それが先発だとある程度ゲームを作っていけばいいと、気持ちに余裕ができる。試合の流れに応じて、失点しても、次の点を与えないようにと切り替えもできる。先発では球種を増やすこともできる。抑えの場合は、変化球でも緩いボールはなかなか投げきれないもの。打たれたら悔いが残ってしまうので、どうしても真っ直ぐやフォークといった力のある勝負球がほとんどになる。山口の場合、先発ではスライダーやカーブも多用するようになり、緩急を使えるようになった。今の投球フォームに変えたのも、長いイニングや球数を投げるために、本人が考えたからだと思う」


■不祥事の影響


 技術面の進歩も当然あったが、自らが招いた逆境が、精神面でも山口を強くしたと大野氏は言う。

「不祥事を起こしたことで、周囲の人間から山口はあんな人間かと思われる。野球選手として絶対にあってはいけないことだが、そこから取り返すには、野球で頑張るしかない。本人もいろいろな意味で反省しつつ、今年はやらなければいけないという気持ちが前面に出たシーズンだったのではないか」

 見事に復活を果たした2人だが、「大事なのはタイトルを取った次の年」と大野氏はアドバイスを贈る。

「タイトルを獲ることは勲章になるが、その自覚を持ちつつも、変にプレッシャーに感じないことが必要になる。どんなにいい成績を残しても、シーズンが終われば、それで終わり。年が変われば、自分も相手も変わる。またゼロからのスタートの中で、技術面、精神面も含めて投球内容に磨きをかけなければならない。大野の場合は特に、オフに体のケアを怠らず、またキャンプからしっかりと体づくりから始めて、いかにベストな状態でシーズンを過ごせるかが重要だと思う。山口はリーグワーストだった四死球の多さが課題。もちろん状況によっては必要な四球もあるが、大半はムダなもの。原因は技術面にあるのか、それとも考え方にあるのか、そこをしっかり見極めて修正することが必要になる。2人に共通して言えることは、好成績を挙げた選手に対しては相手も当然、研究してくるので、今年の結果に満足することなく、さらに上のレベルを目指すことが大事。タイトルは毎年獲れるわけではないが、それに近い成績をどれだけ続けられるか。一流の評価を受けるかどうかは、これからの活躍次第になる」

 一度は地獄の苦しみを味わいながら、挫折を乗り越えた2人の来季が楽しみだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月17日 掲載

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