プロ野球「投げ込み不要論」は本当に正しいのか 速球派がもてはやされる弊害

プロ野球「投げ込み不要論」は本当に正しいのか 速球派がもてはやされる弊害

佐々木朗希

 プロ野球は球春間近。選手は自主トレをスタートし、2月1日のキャンプインから2020年シーズンに向けての調整を続けている。昭和から平成、そして令和へと年号が移り変わる中、オフシーズンの選手の取り組みも、時代とともに変わりつつある。

 キャンプでの練習で、最も変わったのが投手の調整方法だろう。昭和の時代にはキャンプ中に投げ込みを行い、その球数がスポーツ紙の見出しにもなっていた。しかし近年は、投手の肩は消耗品であるという米国流の考え方が広く浸透し、高校野球でも球数制限が設定されるなど、「投げ込み不要論」が主流になりつつある。

 とはいえ、現在でも、練習で100球単位の投げ込みを行う投手は存在する。今季から広島の指揮を執る佐々岡真司監督は、現役時代にはキャンプ中に1回は必ず300球の投げ込みを行い、投手コーチになってからも選手に推奨していた。ほんの数年前でも、DeNAの三浦大輔現二軍監督が、キャンプ期間に2500球以上を投げた。現役選手でも“平成の怪物”と呼ばれた松坂大輔や、今季からブルージェイズに移籍した山口俊など、投げ込みを重視する選手も少なくない。

 現役時代は広島で先発、リリーフ投手として22年間、43歳までプレーした大野豊氏も「投げ込み不要論」に疑問を持つ1人だ。

「肩が消耗品であるということは、確かに間違っていない。ただ、バッターが練習用のマシンを相手に、あれだけ速いボールをガンガンと打っているのに、ピッチャーは消耗品だから投げないというのでは勝負にならない。先発投手が長いイニングを投げられるようになりたいとか、コントロールに自信がないという投手は、キャンプの練習でなければ本当の自信はつけられない」

 そのための練習のひとつが投げ込みであると、大野氏は言う。

「投げ込みの目的は、投球フォームを固めること、持ち球の球種のコントロールをつけること、投げるスタミナをつけること、などがある。技術的なことだけでなく、数を投げることで精神面の強さも身についてくる。そういう練習を集中してできるのは、キャンプの時期しかない」

 昨季は規定投球回数に達した投手がセ・リーグで9人、パ・リーグは6人で、規定回数をクリアした投手が1人もいないチームもあった。沢村賞も「該当者なし」と、投手分業制が進んだ影響もあり、かつてのような先発完投型の投手は“絶滅危惧種”とも言うべき状況になっている。その反面、昨季は西武の平井克典が81試合に登板するなど、リリーフ投手の負担が大きくなっている。大野氏はこの現状を危惧する。

「いい投手だから起用されるのはわかるが、それにしても81試合は投げ過ぎだ。あれだけ投げれば、いいものも悪くなってしまう。現に平井もポストシーズンでは自分の投球ができなかった。1年で70、80試合も投げれば当然、翌年にも疲れが残るし、選手生命も短くなる。近年は先発投手の投球数の目安は100球ぐらいになっているが、これは悪い意味でのメジャーからの流れだと思う。メジャーの先発投手が100球で交代するのは、中4日の先発ローテを守るため。日本ではまだ中6日が主流なのに、同じ球数で交代するのはおかしい。ペナントレースを勝ち抜くにはリリーフ投手が重要なのに、先発ばかりを大事にして、過保護になっているようにも見える」

 日本野球のメジャー化は避けられないが、形だけでは意味がないどころか、むしろ悪循環にもなりかねない。大野氏は変革も必要だが、変えるべきではないこともある、と主張する。

「投手の分業制は今の野球では絶対に必要なことで、リリーフ投手の勝敗における比重も年々高まっている。だからこそ、先発投手が頑張らなければいけないのに、最近は好投していても5回か6回で替わってしまう投手が少なくない。先発投手が長いイニングを投げられないのは、キャンプで球数を投げないことも原因のひとつだと思う。体力的な問題だけでなく、投げ込みで制球が良くなれば打者を打ち取れる可能性が高くなるし、球数も減るので、必然的に投げられるイニング数も増えてリリーフの負担を減らすことができる」

 日本球界のトップであるプロ野球のトレンドは、野球界全体に浸透していく。昨夏は岩手・大船渡高の佐々木朗希(現ロッテ)が、故障を危惧して県大会の決勝戦を登板回避したことが話題になり、各方面で論議を呼んだ。大野氏は話を続ける。

「アマチュアでも球数制限が浸透し、高野連も具体案を出した。この流れで先発投手は5回、6回で交代するのが当たり前、という子がプロに入ってきて、いよいよ球数を投げません、完投もしません、という風潮になっている。ただ、そんな投手ばかりでは面白くないし、寂しい気持ちもある。全員に先発完投しろとは言わないが、プロならせめてチームに2人か3人は、それができる投手を育てて欲しい。そう考えた時に、全ての投手に言えることだが、大事なのは制球力。球が速くなることは大きな魅力だが、それよりも、もう少しコントロールの精度を上げて、配球で勝負して打者を打ち取ることができる。そういう投手がもっと出てきて欲しい」

 確かに、近年は佐々木朗希に代表されるように、プロもアマも執拗とも思えるほど球速を求める傾向が目立つ。野球の醍醐味として、攻撃面での大きなホームランや大逆転劇と並んで、先発ピッチャーが9回を投げ切ることも、大きな魅力のひとつだと熱弁する大野氏。そんな選手が一人でも多く出現するために、最後に「苦言になるかもしれないが」と前置きした上で、キャンプの重要性を強調した。

「これまで言ったようなことを踏まえて、キャンプのあり方というものを再考すべきだと思う。コントロールに自信がない状態でシーズンに入って、昨日はたまたま抑えられたけど、今日は打たれた。そんなレベルでは困る。プロとして技術だけでなく、意識の上でも、もう少しレベルを上げて欲しい。そのためには、やるべきことをもっとやらないといけない。ピッチャーとしての基本、基礎を作る。それを徹底的にやるのがキャンプで行うべきことではないか。キャンプでしっかりそれをやれば、オープン戦やシーズンに入っても、考え方や行動、体の使い方など、いろいろな意味で応用が効くようになる。時間をかけて土台づくり、基礎づくりも含めてプロとしての投手としてのあり方、考え方、投げ方を作る場。それがキャンプというものだと思う」

 変えるべきこと、変えてはいけないこと。いずれにしても、キャンプの期間が選手のその年の成績を左右することは間違いない。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月8日 掲載

関連記事(外部サイト)