ワンス・アポン・ア・タイム・イン・巨人軍(ジャイアンツ)第7回 無国籍な無形文化財であり続ける巨人のホーム東京ドーム

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・巨人軍(ジャイアンツ)第7回 無国籍な無形文化財であり続ける巨人のホーム東京ドーム

東京ドーム外観(DX Broadrec/Wikimedia Commons)

「王・長嶋の時代はなぁ」と遠い目をするオールド・ファン、「ゴジラ松井までは」追っかけていた団塊ジュニア世代、そして、いつの時代にも存在するアンチ巨人……誰もがいまだに巨人軍の“幻影”を追っている。

 しかし、現在のリアルなジャイアンツとは――。当代一の“巨人ウオッチャー”が、選手、監督・コーチ、球団・球場、ファンを切り口に「令和の巨人軍」の実像に迫る!


■“観光地”としての東京ドーム


 20世紀最後のチャンス!

 2000年8月の「週刊ベースボール」にそんなコピーの広告があった。巨人戦in東京ドーム観戦&宿泊パック。内野指定C席+1泊朝食付でお1人様料金がシングル14000円、2名様ご利用のツインだと12000円。土曜日観戦と内野指定B席はそれぞれ上記の料金よりお1人様2000円アップ。約20年前の20世紀の終わり頃、地方から「上京して巨人戦を見にいく」ことは一大イベントだったのである。埼玉の田舎町で生まれ育った自分にもその感覚はよく分かる。

 あの頃からずっと、巨人が本拠地に使う東京ドームは、“球場”というより“観光地”の雰囲気に近い。グッズ売り場には「東京ドームに行ってきました!」なんてベタすぎるお土産タオルが販売されているし、近年の巨人戦は東京観光の一環として訪れる外国人ツーリストの姿も目立つ。だから、選手プロデュース弁当も強気の1550円と観光地価格なのか……じゃなくて、もちろん都心からのアクセスは良く、屋根があるから雨天中止の心配もないので予定に組み込みやすい。いつの時代も、人を集める観光地で重要なのは洗練されたマニアックさではなく、ベーシックな誰でも楽しめるエンタメ性である。常に東京ドームは大衆のモノとして消費されてきた。

 数年前、巨人とヤクルトの「TOKYOシリーズ」のパンフレット原稿を担当した際に、それぞれの球団の選手に相手本拠地について質問したが、巨人側の選手は神宮球場といえば学生野球の思い出を語り、一方でヤクルト所属選手から見る東京ドームは、「初めて野球観戦に来た場所」であり「幼い頃にテレビで見ていた球場」でもあった。やっぱり、東京ドームはスカイツリーや浅草寺と同じカテゴリーにあるように思う。


■平成を“完走”したホームスタジアム


 さて、近年は最多観客動員数を記録し続けるプロ野球はテレビで見るものから、球場で楽しむ体験型イベントへと変わりつつあるが、それは巨人も例外ではない。18年5月11日の中日戦では実数発表以降最多の4万6855人が入場。19年の主催試合観客数は302万7682人で過去最多を更新した。

 ファンクラブの「CLUB GIANTS」は、先行チケットの第1次抽選販売に参加できる「GOLD MEMBER」コースが年会費27500円という高額にもかかわらず、即日3500名の定員に達する人気だ。19年からリニューアルされたこのファンクラブは以前のようなGボックスチェアや巨人版黒ひげ危機一発といった多彩な入会特典グッズよりも、明らかにチケット優先販売権の方に力を入れているように見える。ちなみに20年のCLUB GIANTS入会記念品は3種から選べるバッグだが、アラフォー男性の自分にはどれもまったく欲しいとは思えない安っぽさとデザインだった(なんて文句を言いつつ今季も継続入会してしまうファンの悲しい性)。

 ファーストプライオリティはいかにスタンドを超満員にするか。球団もユニフォーム無料配布や、オレンジ色のアフロかつらを来場者でかぶる「みんなでアフロ」のようなイベントを度々企画。近年は巨人戦が地上波ゴールデンタイムから消え、国際的な他スポーツも台頭し、危機感を覚えた球団側も本気で球場に客を呼ぼうとしている。

 なお東京ドームは巨人の自前スタジアムではない(賃料は年間25〜30億円ほどと報じられている)というハンデはあるが、16年1月には「東京ドーム50億円リニューアル計画」が話題となり、1・2階席とも角度などの形状を変更することで膝前スペースを従来比約1.5倍拡張。アリーナ照明の全LED化で視界はクリアになり、最新のラインアレイスピーカーを22台設置して音響も改善された。さらに全てのトイレに温水洗浄機能付き便座を設置と老朽化する設備をリフォームした形だ。

 それでも、賃貸には変わらず、04年の球界再編後はNPB球団も本拠地を自前で所有したり、営業権を握るケースが増えつつある。ヤフオク!ドームのホームランテラスやZOZOマリンスタジアムのホームランラグーンといった時代のニーズに合わせた柔軟な改装や、楽天生命パークの遊び心溢れる観覧車やメリーゴーラウンドのような独自のボールパーク化が進む中、東京ドームはオールドタイプの球場なのは疑いようがない。

 なにせ懐かしのビッグエッグの開場は昭和最後のシーズン、1988年3月18日のことだ。この日、阪神とのオープン戦で昭和の怪物・江川卓がライバル掛布雅之相手に引退セレモニーを行い、真新しいマウンドから正真正銘のラストピッチング。あれから、もう30年以上、平成を完走し、そして令和もホームグラウンドとして使用している。現在31歳の巨人キャプテンを務める坂本勇人が生まれた年にできた球場と考えると、長い時間が経ったのである。

 同時に東京ドームの歴史はそのまま平成エンタメ史だ。首都・東京のど真ん中にある国内最大級の屋内多目的ホール。数多くのロックバンドやアイドルグループがそのステージを目指し、ローリング・ストーンズやマイケル・ジャクソンといった海外大物アーティストも来日公演で使用し、時にプロレスやボクシングやK-1といった格闘技のコロシアムでもある。かと思えば、ふるさと物産フェアのような日常的なイベントも定期的に開催されている。昨夏の欅坂46のライブは2日間で10万人を動員したのも記憶に新しい。皮肉なことに、天気を心配する必要のない密閉式屋根に大観衆が乗っても痛みにくい人工芝という、野球場としては前時代的なスペックが大型イベント開催を可能にしているわけだ。


■“無国籍感”の正体


 さらにその肝心の野球場としての東京ドームの立ち位置も特殊だ。19年シーズンにはソフトバンクが「鷹の祭典」、楽天が「楽天スーパーナイター」とパ・リーグ球団が東京でのお祭り的な感覚で主催ゲームを開催。東京オリンピックが行われる20年は、五輪準備のため本拠地を長期間使えないセ・リーグのヤクルトやDeNAの主催試合を東京ドームで行う。もちろん両チームの東京ドーム主催試合は初。それにしても、この球場としての「無国籍感」はなんだろうか。圧倒的なホーム感のあるマツダスタジアムや甲子園とは対極に位置している。

 だからダメなのではなく、もはやこれは東京ドーム特有の個性なのではないだろうか。いつ何時、何色にも染まることができる。限りなく透明に近いビッグエッグ。良くも悪くも巨人色は薄い。外野席の柱にいかにも後付けしました風な永久欠番プレートの扱いの軽さが象徴的だ。シートの色はチームカラーのオレンジや黒で統一することはなく無機質な青色。横浜スタジアムのTOB(株式公開買い付け)を成立させたDeNAが「コミュニティボールパーク化構想」の一環として、ハマスタの座席をすべて“横浜ブルー”に塗り替えたのとは対照的である。

 ただ、球場の一体感のなさは観戦する上ではラクな場合もあるのも事実だ。最近は内野席でもユニフォーム姿で選手タオルを掲げる熱心なファンが目立つ球場も増えたが、東京ドームの内野席や2階席の雰囲気はいまだにユルい。

 ついでに、ビールの売り子嬢の可愛さは球界屈指。以前、取材した他球場の売り子の女子大生は「いつか激戦区の東京ドームで自分のやり方が通用するか試してみたい」と笑っていた。他球場に比べ、会社帰りのサラリーマングループや観光客の「ちょっと野球に来てみました」的な一見さんも多く、ビール片手にのんびり見るには適した環境だ。ソフィスティケートはされていないが、心地いい。行き過ぎた「洗練」は、時に猥雑な大衆娯楽のプロ野球の魅力を奪ってしまう。


■次の巨人軍のホームスタジアムは?


 正直、このコラムは当初「巨人もヤンキースタジアムのような総天然芝で開閉式屋根付きの自前スタジアムを建設すべき」という内容で書き始めていた。だが、どう考えても現時点では野球に特化した新しい「令和のジャイアンツスタジアム」計画は現実感が乏しい。

 参考までに東京ドーム構想が動き出したのは1978年で工事開始は85年、開場は88年、工事期間は1036日、延べ23万700人がかかわったという。球場は建設計画が動き出してから完成するまで、やはりそれ相応の時間と資金が必要だ。巨人もしばらくは東京ドームとともに戦う可能性が高い。恐らく、未来の坂本のNPB史上2人目の通算3000安打もこの地で達成されることだろう。

 2031年にはヤクルトの本拠地、新神宮球場が完成する予定だ(当初の27年から計画見直しで4年遅れに)。MLBのサンディエゴ・パドレスの本拠地、ペトコ・パークを参考に建設される都心の真新しいボールパーク。巨人としては完全に先を越された感は否めないが、となると今以上に総武線で数駅の近さにある東京ドームの古さが際立つだろう。28年には東京ドーム開場40年を迎える。坂本も40歳だ。その前後で、次代の巨人本拠地をどうするか本格的に語られる予感がする。

 ここ数年はタブロイド紙で築地の新球場建設プランが噂になったが、後楽園球場から東京ドームへと続く歴史は簡単に捨てない方がいいだろう。この地で、巨人は戦い続け栄光を勝ち取り、格闘家の男たちは命を懸け最強を決めるリングに上がり、日本の歴代アイドルグループは夢をかなえるためにステージで力の限り叫んだ。プロ野球はもちろん、巨人という球団の立ち位置も一昔前とは大きく変わりつつある。だからこそ、国内最高峰の巨大ホールとして在り続ける、変わらない東京ドームの存在が重要だと思うのだ。時間をかけて築き上げたストーリー性や伝統だけは、カネを出しても買えやしない。

 確かに東京ドームは野球場としては時代遅れなのかもしれない。だが、あの場所は我々が生きた「時代」そのものなのである。いわば平成の、日本エンタメ業界の無形文化財。そういう球場は、他にない。

(次回へ続く)

中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ「プロ野球死亡遊戯」は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)、『平成プロ野球死亡遊戯』(筑摩書房)など。最新刊は『原辰徳に憧れて ビッグベイビーズのタツノリ30年愛』(白夜書房)。

2020年2月13日 掲載

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