達成者は「江夏豊」ともうひとりだけ… 「全球団に勝利」「全球団に敗戦」した投手

達成者は「江夏豊」ともうひとりだけ… 「全球団に勝利」「全球団に敗戦」した投手

江夏豊

 現在、プロ野球にセ・パ両リーグ合わせて12球団があることは、野球好きなら小さな子供でも知っている。2004年の球界再編で近鉄とオリックスが合併、新たに楽天が誕生したが、その数は1958年以来62年間変わっていない。

 そんな中、「自らが在籍している間に全12球団から勝ち星を挙げた」投手はこれまでに18人いる。05年に交流戦が始まるまでは初めて達成した野村収(83年5月15日達成)のほか、古賀正明(83年10月4日達成)武田一浩(02年5月7日達成)の3人だけという極めて珍しい記録だった。交流戦が開始されてからは以前に比べて達成されやすくなったとはいえ、それでも長いプロ野球の歴史の中では200勝投手(24人)よりも少ない、めったにお目にかかれない記録といえるだろう。18人を達成日順に並べると、以下のようになる。

83年5月15日 野村収(大洋〜ロッテ〜日本ハムなど・通算121勝)
  83年10月4日 古賀正明(太平洋〜ロッテ〜巨人など・通算38勝)
  02年5月7日  武田一浩(日本ハム〜ダイエー〜中日など・通算89勝)
05年8月20日 門倉健(中日〜近鉄〜横浜など・通算76勝)
06年3月29日 吉井理人(近鉄〜ヤクルト〜オリックスなど・通算89勝)
07年7月24日 工藤公康(西武〜ダイエー〜巨人など・通算224勝)
  09年7月14日 久保康友(ロッテ〜阪神〜横浜・通算97勝)
  10年5月3日  藤井秀悟(ヤクルト〜日本ハム〜巨人など・通算83勝)
  10年5月19日 石井一久(ヤクルト〜西武・通算143勝)
  12年7月27日 杉内俊哉(ダイエー〜ソフトバンク〜巨人・通算142勝)
  12年8月14日 セス・グライシンガー(ヤクルト〜巨人〜ロッテ・通算64勝)
  13年5月20日 木佐貫洋(巨人〜オリックス〜日本ハム・通算62勝)
  14年4月14日 涌井秀章(西武〜ロッテ〜楽天・通算137勝―7月26日現在)
  14年4月16日 寺原隼人(ダイエー〜横浜〜オリックスなど・通算73勝)
  14年4月26日 大竹寛(広島〜巨人・通算102勝―7月25日現在)
  14年6月9日  ジェイソン・スタンリッジ(ソフトバンク〜阪神〜ロッテ・通算75勝)
  14年6月21日 林昌範(巨人〜日本ハム〜DeNA・通算22勝)
  19年4月18日 金子弌大(オリックス〜日本ハム・通算129勝―7月26日現在)

 18人の中で通算勝利数が最も多かったのは工藤の224勝で、以下、石井143勝、杉内142勝、涌井137勝(7月26日現在)と続いている。これだけの数の勝利をマークしていれば全球団制覇もあり得ると納得できるが、逆に最も少ないのは林の22勝。DeNA時代の14年6月14日、横浜スタジアムの西武戦にリリーフで登板、1/3回を無失点に抑えて勝利投手になり、史上17人目の全球団勝利投手になったが、その時通算20勝目。何とも無駄のない“効率的な達成”だった。

 ちなみに18人の達成者のうち、近鉄を含めて13球団から勝ち星を挙げている投手が3人だけいる。工藤、杉内、寺原だ。ただし、日本シリーズを含めれば、01年のヤクルト・近鉄のシリーズ第1戦で勝っている石井も13球団達成となる。

 なお、「自らが在籍している間に全球団から勝ち星を挙げる」という条件のため、この18人には入ってこないが、史上最も多い15球団で勝利投手となったのが緒方俊明(巨人〜西日本〜西鉄など・通算53勝)とヴィクトル・スタルヒン(巨人〜パシフィック〜金星など・通算303勝)の2人。球団数が増えない限り破られることのない記録だ。

 また、現時点で残り1球団となっているのは岸孝之(楽天・対象球団=広島)、デニス・サファテ(ソフトバンク・同=広島)、久保裕也(楽天・同=巨人)、内海哲也(西武・同=巨人)。松葉貴大(中日・同=オリックス)、中田賢一(阪神・同=ソフトバンク)の6投手である。

 しかしながら、いずれも対象の球団も同一リーグではないため、交流戦が中止となった今シーズン内の達成はない。このうち、サファテは江夏豊(阪神〜南海〜広島など)、マーク・クルーン(横浜〜巨人)、増井浩俊(日本ハム〜オリックス)、秋吉亮(ヤクルト〜日本ハム)とともに史上5人しかいない全球団からセーブを挙げた1人で、仮に全球団勝利を達成すれば、プロ野球史上初めての全球団勝利&セーブの記録となる。来シーズン以降のサファテの動向が今から大いに楽しみだ。

 勝利、セーブとくれば残るのは敗戦だ。調べてみると、全12球団で敗戦投手となったのはわずかに2人だけ。かなりレアな記録だったのだ。

 そのうちの1人、江夏は通算で206勝もマークしていながら、キャリア途中で先発からリリーフに回ったこともあって古巣の阪神から勝ち星を挙げることができず、全球団勝利を逃している。江夏の現役当時は交流戦がなかったため、78年〜80年の3年間在籍した広島時代に阪神から勝っていれば、史上唯一の全球団から勝利&敗戦&セーブを挙げたことになっていた。しかし、この3年間に登板した阪神戦は全て敗戦もしくは引き分けで勝ち星を得ることはできなかっただけに大いに悔やまれるところだ。

 さて、全球団で敗戦投手になった残りのもう1人、杉内にも貴重な記録があった。巨人時代の13年5月28日、東京ドームでのソフトバンク戦に先発した杉内は7回5失点で敗戦投手に。この結果、江夏を上回り近鉄を含めた13球団で敗戦投手となった。全球団で敗戦投手は決して不名誉な記録ではない。長い期間第一線で活躍しなければ達成できないからだ。今、巨人で2軍コーチになっている杉内も胸を張っていいだろう。

清水一利(しみず・かずとし)
1955年生まれ。フリーライター。PR会社勤務を経て、編集プロダクションを主宰。著書に「『東北のハワイ』は、なぜV字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡」(集英社新書)「SOS!500人を救え!〜3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月8日 掲載

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