巨人は野手を投手で起用しちゃダメなのか論争…原監督の燃える闘魂、リアリズム

■「じゃあ、他のチームならやっても良いの?」


 古い慣習に囚われたオジサンとそうではない人々との論争にも思われた。巨人・原辰徳監督が相手チームに大量リードを許した状況で繰り出した「内野手の投手起用」。監督自身、繰り出したと言うほど練っていたワケではなく、負けゲームにわざわざ戦力である中継ぎ投手陣を浪費することはなかろうという判断だったのだろう。そもそも、起用された増田内野手はキッチリとゼロで抑えて起用に応えている。なのに結構な批判が舞い飛んだ今回の問題、原監督に「燃える闘魂」と「徹底したリアリズム」を見たと言う徳光正行が綴る。

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 プロ野球ペナントレースも開幕してから40数ゲームを消化し、完全な形ではありませんが少し落ち着いてきましたね。しかし本年のゲーム数は120試合で、大体の場合が月曜日のみ休みの6連戦を戦わなければいけない状態。ですから、今までのシーズン以上に首脳陣が的確な采配をするのは当然のうえで、選手層が厚いチームが有利に勝ち星を重ねていくのではと思いながら観戦しております。

 その采配の部分で物議を醸したのが、読売巨人軍・原辰徳監督の選手起用法でした。8月6日の阪神タイガースとの7回戦。11点ビハインドでの8回裏1アウトの場面で原監督がマウンドに送ったのは、内野手である増田大輝選手でした。

 実況の方も、そして解説を担当していた赤星憲広さんや金本知憲さんも大変困惑しておりましたが、マウンドに上がった増田大輝選手0回2/3を投げて1四球こそ与えたものの無失点でマウンドを降りました。巨人大敗で幕を下ろした試合でしたが、生観戦をなさった方やテレビでご覧になっていた方々は「珍しい光景を見ることができた」と思われたのではないでしょうか?

 しかし試合後、特にプロ野球OBの方々は黙っておりませんでした。特に元巨人軍エースで監督経験もある堀内恒夫さんや巨人軍OBであり西武ライオンズでも指揮をとった経験のある伊原春樹さんは、辛辣な言葉でその起用法を批判なさっていました。

 御二人がもっとも強調していたのは「巨人があれをやってはダメ」という部分でした。「じゃあ、他のチームならやっても良いの?」なんて突っ込みたくもなりましたが、彼らは「歴史と伝統ある王者巨人が邪道なことをするな!」となったのでしょう。

■「増田選手、投手の才能あると思います」「明日勝つ確率をあげたり」


 それに反応したのが元メジャーリーガーで巨人軍OBでもある上原浩治さん、現役メジャーリーガーのダルビッシュ有投手でした。

 まずは上原さんのご意見から。

「内野手登録の選手が、外野を守ったら失礼になりますか?? 外野手登録の選手が、内野を守ったら失礼になりますか? 限られた人数で、どう使うかは監督の判断だと思います。きちんと投げられる野手をピッチャーに使うのは失礼にはならないと思うんですが…だったら打てばいいだけの話かと」

 さらに、

「OBの方たちに喧嘩を売るわけではないですが、今回の件は何がダメなんでしょうか?」「巨人だからやってはダメ?? 他球団ならオッケー?? そっちの方がおかしいと思いますが…残ってたピッチャー陣は、勝ち試合に投げさせたい選手たち。あそこで投げてしまうと、次の日に影響しかねないと思います」

 と、昨年までの現役経験やメジャー経験者らしいご意見を述べられていました。そしてダルビッシュ有投手はと言うと、

「最高です。大敗しているときは全然ありです。しかも増田選手、投手の才能あると思います」

「明日勝つ確率をあげたり、中継ぎ陣の負担を軽くするための戦術ですからねー。原監督がいかにシーズン全体を見ていて、選手の身体を気遣っているのかがよくわかる采配だと思いました」

 と見事な分析をなさっておりました。

 観戦歴だけ長い素人の私の目には、「今年の変則日程に添った見事な采配であり前例にとらわれない合理的な判断をなさる名将だな」と映りました。

 過去にも原監督は野手が残っている状態で代打に当時の桑田真澄投手を起用し、その桑田投手が結果を出したことがありました。

■原監督は大のプロレスファンなので敢えてアントニオ猪木風の言い回しを…


 一連の出来事を拝見しておりますと、原監督はああ見えて反骨心の塊であり、古い常識なんか糞食らえと思ってらっしゃるのではとも感じておりましたところ、とっても素敵な反論をなさったのです。

「俺たちは勝つために、目標(優勝)のために戦っているんだから。今年は、特にケガ人も多い。コロナ禍のルールというのもある。簡単に『ダメだ』と言うのは本末転倒のような気がする。(逆の立場の)俺だったら言わない。(野手の投手起用は)ジャイアンツの野球ではやってはいけねえんだとか、そんな小さなことじゃないんだよ。俺たちの役割は」

 良いですね〜、今まで以上に勇ましさや強さを感じるお言葉痺れました。特に「やってはいけねえんだとか、そんな小さなことじゃないんだよ」この言葉の使い方には、歴史と伝統があるエリート軍団の長という「小さな価値観」に囚われていない、戦う集団の長としての覚悟を感じました。さらに原監督は大のプロレスファンなので敢えてアントニオ猪木風の言い回しを選んだのでは? とも推測してしまいました(猪木さんは「いけねえんです」「〜なわけじゃねえんです」とかという言い回しを用いるんです)。

 妄想ついでにもう1つ。原監督の出身地は福岡県大牟田市でありまして福岡出身といえば「世界の荒鷲坂口征二」、その後育ったのが神奈川県、神奈川出身の不出世のヒーローといえば「燃える闘魂アントニオ猪木」…。原監督はプロレス界の黄金コンビの条件を併せ持って、野球界という真剣勝負の世界に命を張って挑んでいる勇者に思えてなりません。

 脱線も脱線してしまいましたが、まだまだ続くペナントレース最終的な王者がどのチームになるかはわかりませんし、丸佳浩選手と坂本勇人選手のスランプも気になりますが、原監督には変わらず古い発想や伝統には縛られず野球界を引っ掻き回して、新しい形の常識を形成してコロナならぬ「原監督以前」と「原監督以降」の野球界を作り上げて欲しいですね。

徳光正行(とくみつ・まさゆき)
1971年12月生まれ。茅ヶ崎市出身。日本大学芸術学部在学中よりミュージシャンを目指すが、父の病により断念。その後、司会業やタレント業に従事する。また執筆活動にも着手し『伝説になった男〜三沢光晴という人〜』『怪談手帖シリーズ』などを上梓。4月27日には岩井志麻子氏との共著『凶鳴怪談』を出版。現在YouTube「徳光ちゃんねる」でも活躍中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月11日 掲載

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