12球団のコーチが現役時代に獲得したタイトルを独自調査 3位は伊東勤、2位は石井琢朗、1位は…

12球団のコーチが現役時代に獲得したタイトルを独自調査 3位は伊東勤、2位は石井琢朗、1位は…

石井琢朗コーチ

 プロ野球選手にとって日々最も身近にいる存在が投手コーチや打撃コーチ、守備コーチなどといったコーチ陣だ。最近では総合コーチ、統括コーチ、強化担当コーチ、育成コーチなどと細分化されたさまざまな名称のコーチが選手たちを熱心にアドバイスしている。選手の側にしてみれば、自分がどんなコーチからどのような指導を受けるのかは大きな問題だろう。自分のことを理解し親身になって教えてくれるコーチに出会うことができれば球界での成功がグッと近くなるからだ。

 例えば世界のホームラン王・王貞治も、巨人に入団して投手から野手に転向した当初は全くといっていいほど打てず、スタンドの観客からは「王は王でも三振王!」とヤジられる始末。その後の王の活躍からは想像できない、ごく普通の選手だった。

 そんな王にとって生涯忘れられない師匠となったのが荒川博だ。現役引退後の1962年から巨人の1軍打撃コーチを務めていた荒川は、当時の川上哲治監督から「王を何とかして3割、25本塁打打てるバッターにしてくれ」と要請された。

 荒川は、王のスイングにはインパクトの瞬間どうしても体が前に突っ込んでバランスを崩してしまうという悪いクセがあることに気づき、それを直すために試行錯誤の末、誰にもマネのできない一本足打法を編み出し、王にアドバイスした。もちろんユニークな打法をマスターするための人並み外れた王の努力があったことも当然だが、荒川の教えがなければ、おそらく入団当初と変わらない、ただの平凡な一選手で終わっていたかもしれない。

 さらに、こうした球史に残る師弟関係としては新井宏昌とイチローの例もある。新井は現役18年で首位打者1回、通算2038安打をマーク、名球会にも名を連ねる巧打者だ。94年、仰木彬監督に請われ、初めて指導者としてオリックスの打撃コーチに就任すると、そこで出会ったのがまだイチローと名乗る前の、1軍と2軍を行ったり来たりしていた若き日の鈴木一朗だ。ちなみにイチローという登録名を考案し、変更を仰木監督に進言したのも新井だという。

 新井は即座にイチローの天性の打撃センスを認め、その素質を引き出すべく指導した。類まれなる才能に恵まれ、しかも努力を惜しまないイチローほどの選手であれば、後年間違いなく活躍しただろうが、それでも新井と出会わなかったら、その後の野球人生は変わったものになっていたに違いない。こうした荒川―王、新井―イチローの例を見るまでもなく、コーチと選手の関係は極めて重要だ。

 現在のプロ野球には1軍から3軍まで巨人、ソフトバンクの23人を筆頭に中日22人、西武、楽天、ロッテ、オリックス、横浜19人、日本ハム、阪神18人、広島17人、ヤクルト16人の全12球団合わせて総勢232人のコーチがいる。その232人の中には、現役時代に輝かしい実績を挙げたコーチもいれば、活躍らしい活躍はできぬままコーチに転身した者もいる。

 そこで、現役時代のコーチたちの成績はどうだったのか、タイトル獲得の有無を指標にして調べてみることに見ることにした。

 すると、232人のうち選手経験のないトレーニングコーチ、コンディショニングコーチを除いた225人中、何らかのタイトルを1回でも獲ったことのあるコーチは74人で全体の3人に1人弱の32.9%。この数字が高いのか低いのかは評価の分かれるところだろう。

 また、獲得したタイトルは合せて281個で、タイトル獲得者が最も多かったのは巨人で23人中11人、中日が22人中10人で、この2球団はコーチのほぼ半分が何らかのタイトルを獲っているが、逆に横浜では19人中1人、2軍内野守備走塁コーチの田中浩康がベストナイン、ゴールデングラブ賞を受賞しているだけだ。

 さらにこれを個人的に見ると、最も多かったのは今シーズンから日本ハムのヘッドコーチ兼打撃コーチに就任した小笠原道大。最優秀選手、首位打者、本塁打王、打点王など全部で22ものタイトルを獲得している。

 以下、中日ヘッドコーチ・伊東勤21タイトル、巨人野手総合コーチ・石井琢朗15タイトル、西武投手コーチ・西口文也12タイトル、巨人2軍投手コーチ・杉内俊哉、中日内野守備走塁コーチ・荒木雅博各10タイトルと続いており、この辺りの顔ぶれが、いわば「文句のない実績のある」コーチといえそうだ。

 では、選手とコーチの関係はどうあるべきなのか、WBCで日本チームのピッチングコーチを務めたことのある野球評論家の武田一浩さんに聞いてみた。

「例えていえば、選手は社員、コーチは中間管理職だから、いい上司に恵まれた選手は伸びるし、逆にそりの合わない上司についてしまうと、せっかくの才能や素質を生かすことなく下積みで終わってしまうことになる。その点はサラリーマンと一緒だよね。コーチには現役時代の実績は全く関係ないといってもいい。選手もそんなことは気にしていない。むしろ、昔実績を残した選手がコーチになると、バッティングにしてもピッチングにしても、自分では現役時代に難なくできていたことが教えている選手にはできなくて、それが原因で関係がギクシャクしてしまうこともある。そんなケースはイヤというほど見てきたよ。コーチにとって一番大事なのは技術を教えることよりも選手の性格を見極めることかな。怒られてもなにくそと頑張る人間なのか、それとも怒鳴られたらシュンとなってしまう性格なのか、それが分かっているかいないかが大きな差になってくると思うね」

 日頃はほとんど陽の当たらない「縁の下の力持ち」だが、チームにとってコーチは監督と選手をつなぐ大事な「潤滑油」。たまにはその存在に注目してみてはどうだろう。

清水一利(しみず・かずとし)
1955年生まれ。フリーライター。PR会社勤務を経て、編集プロダクションを主宰。著書に「『東北のハワイ』は、なぜV字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡」(集英社新書)「SOS!500人を救え!〜3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月14日 掲載

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