オールスター開催地変更は“際どい政治判断”?MLBコミッショナーの危うさ【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】

オールスター開催地変更は“際どい政治判断”?MLBコミッショナーの危うさ【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】

オーナーたちとは立場に異にするマンフレッドのスタンスは、「独立性を保っている」ともとれるが、果たして……。(C)Getty Images

4月2日、MLBのコミッショナーであるロブ・マンフレッドは、7月のオールスターゲーム開催地をジョージア州アトランタから他都市に変更すると発表した(その後、コロラド州デンバーに決定)。その前日に可決したジョージア州議会が同州に多い黒人層の投票を事実上制限する選挙法改正案を受けてのことだ。

 地元企業のコカ・コーラ社やデルタ航空もこの法改正に抗議しているなかでの、このマンフレッドの動きは、コミッショナーオフィス主導で政治的な判断を下す彼のスタイルを象徴している。

 今回のジョージア州の法改正は共和党主導だ。同党は、昨年11月の同州での大統領選挙と、今年1月の上院2議席の選挙で続けて民主党に敗退した。それは、マイノリティに支持者が多い民主党が、投票所に行く手段がなかったり、投票の仕組みを理解していない層が多い彼らの投票促進に務めたためと言われている。そこで共和党は、投票所の利便性制限や、期日前投票および郵便投票の手続きを厳格化して対抗したのだ。
  球宴開催地の変更は、マンフレッドにとっては苦渋の決断だったろう。彼自身は共和党支持者である。しかし、MLB機構は昨年、BLM運動のサポートに弱腰だったと非難された経緯があり、黒人の野球人口が減少しているなかで、この回復は長期的な課題となっている。

 当然、企業イメージを重視するスポンサーの意向も無視できない。最悪の展開は機構が手をこまねいているうちに、黒人選手達が球宴ボイコットを表明することだ。マンフレッドは最悪の事態を回避するため先手を打ったのだ。

 しかし、これが賢明な判断だったかはまだ分からない。コミッショナーが対峙すべきは、MLB選手会だけではないからだ。30球団のオーナーたちも含めて彼らは皆、ワガママ(?)なビリオネアで、共和党支持の保守派が大半。実際、ダイヤモンドバックスのオーナー、ケン・ケンドリックはマンフレッドを公然と非難したし、ブレーブスは当然のことながら、「アトランタのファンが犠牲になった」との声明を出した。
  もしマンフレッドが今回、球団経営者のコンセンサス形成を図っていたら、到底この段階での声明発表には至らなかったろう。選挙法改正を黙認する態度を取れば球界内外のリベラル派から、球宴開催地の変更を表明すれば保守派からの非難は免れない、という立場だったのだ。

 したがって、マンフレッドは「これがベスト」という決断を下したのではなく、冴えない2つの選択肢から比較的マシな方を選んだ、ということだろう。立場上の損得勘定を吟味した、極めて政治的な判断だった。どっちに転んでも反対派がいる以上、単独での決断は必然だった。

 今回の一件に限らず、マンフレッドには独断が目立つ。一連のサイン盗み問題でのアストロズへの処罰もその典型だった。

 この辺りは、前任コミッショナーであるバド・シーリグと大きく異なる。おそらくそれは、シーリグは自身もブルワーズの元オーナーだったということが関係している。シーリグは常にオーナーたち、その中でも特に弱小球団の利益を重視した。

 ブルワーズがスモールマーケット球団だったこともあるのだろうが、それ以上にオーナー会議での承認を取り付けて自らの戦略を推進していくにはヤンキースの一票もパイレーツのそれも多数決上はまったく同じ影響力を持つことを認識していたからだろう。
  また、マンフレッドはニューヨーク出身でハーバード・ロースクールで学んだ弁護士という典型的な東部のエスタブリッシュメント。中古車販売業で財を成したシーリグとは根本的にタイプが異なる。

 シーリグはコミッショナー時代もオーナーたちと同じ“人種”だったが、マンフレッドは必ずしもそうではない。オーナーたちとの関係にはそれなりの緊張感があると考えるべきだろう。

 際どい政治判断を繰り返すマンフレッドは、将来シーリグのように任期を全うし、ハッピーリタイアを迎えることができるだろうか。オーナーたちの利益を軽んじているとして、92年に事実上解任されたフェイ・ビンセント(しかも、その首謀者がシーリグだった)の二の舞となるリスクもあるのでは……というのは少々考えすぎか。

文●豊浦彰太郎

【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
 

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