世界一ドジャースは組織ぐるみで関与?MLBを揺るがす“不正投球”問題の本質【前編】<SLUGGER>

世界一ドジャースは組織ぐるみで関与?MLBを揺るがす“不正投球”問題の本質【前編】<SLUGGER>

『SI』紙の記事を受けてダルビッシュ(右)もMLBの投手の“不正投球”の蔓延を暴露。その告発内容にはバウアー(左)も該当するが……?(C)Getty Images

「松ヤニは使ったことないです。 自分の過去数年の回転数はほぼ変わっていません。 問題とされているのは急に回転数が数百も上がっている人たちです」

 これは、ファンからの疑問に答える形でダルビッシュ有(パドレス)がツイートした内容である。彼はこのようにも言っている。「ただ松ヤニをつけるだけでは回転数とかに変化はほとんど出ません。 最近使っている人が増えているのは色々な物質を混ぜているもので、それならすぐに回転数を増やすことができるみたいです。短期間で急に何百回転も増えている人はアウトと考えてもいいと思います」

 ダルビッシュが言及しているのは『スポーツ・イラストレイテッド(SI)』誌電子版が発表した、MLBで蔓延している“不正投球”についての告発記事のことだ。記事では、多くの投手がボールに異物を付着させて投げている実態を暴露している。最近引退したばかりのある投手は「全体で80〜90%の投手が“スティッキー・スタッフ”を使用している」と証言。スティッキー、すなわち粘着性の物質をボールに塗りつけて投げることで回転数を増加させ、通常ではあり得ない変化を生み出している――というのだ。

 別の投手は、自分は投球感覚が狂うから使っていないとした上で、投手コーチから試してみないかと唆されたと明かす。回転数だけでなく、指がしっかりかかって制球しやすいのでより力一杯投げられ、球威の増加につながるとの指摘もある。なお、ダルビッシュの過去5年間の4シームの回転数は2505→2543→2529→2595→2561と一定で、疑惑は完全に晴れている。
 
 一般的な「スティッキー・スタッフ」は、松ヤニに日焼け止めなどの物質を混ぜたものだが、他にも打者が使うバットの滑り止めに「改良」を加えたり、ドラマーやサーファーなど他業種用の製品を試したり、中には自作に走る者までいるとされる。投球時の隠し場所としては、ベルトやグラブの指と指の間、キャップの庇などが用いられているようだ。

 滑り止めの目的でロジンバッグ以外の物質を使うのは、明白なルール違反だ。だが、MLBの公式球は非常に滑りやすいことで知られる。ダルビッシュは「なぜ日本では滑り止めは使われないのに、MLBでは使われるのか? ボールに問題があるってMLBはわかってんのにお金のためかずっと滑りまくるボールを提供してくる。 わかってるんやからそっちを先にどうにかしましょう」(6月5日付のツイッターより)と不満を隠さない。

 近年のMLBはピッチングの進化が著しい。それはスタットキャストやラプソードなど最新テクノロジーの導入によって詳細なデータが得られ、同時に『ドライブライン・ベースボール』のような最先端のトレーニング施設で効果的な鍛錬が実現したからだ――というのがこれまでの理解だった。そのこと自体は間違いではないだろう。
  しかしそれだけでなく、非合法な手段によって「実力」を高めている――それが『SI』の告発記事の主張だ。今年は投手の奪三振率が過去最高、打者の打率は過去最低。例年にないペースでノーヒッターも頻発している。速球の平均球速もこの10年間右肩上がりで、こうした傾向に“不正投球”が寄与している、というのは疑いではなく事実と見て良さそうだ。

 『SI』の記事では、この怪しげな分野で先頭を走っているのが、20年に世界一になったドジャースだとしている。その根拠は、ここ数年で最も投球の回転数が急上昇したチームであるということ。しかも特定の誰かではなく、1人を除き投手陣全員の回転数が上がっている点が疑惑を深めている。昨年と比べ、今季のドジャースは最初の2か月で7%も回転数が上昇しており、他球団と比べて格段に高い。17年のワールドシリーズではアストロズのサイン盗みによって世界一を奪われたチームが、別の形で実はまったく同情に値しなかった可能性がある。

 個人で疑惑の渦中にあるのは、昨年のサイ・ヤング賞投手でもあるトレバー・バウアーだ。19年は4シームの回転数が2358だったのが、ドジャースに加入した今年は2835まで上がっていて、ダルビッシュが言うところの「短期間で急に何百回転も増えている人」に該当する。
 
 ところが、実はバウアーはこの問題に対してかねてから最も積極的に発言している人物でもある。18年の段階で「異物を付着させる以外に回転数を増やす方法はない」と言い切り、実戦で確かめたことがあるとも認めており「競技の公平さを保つ努力をしていない」とMLB機構の姿勢を糾弾さえしていたのだ。

 また、昨年エンジェルスはあるクラブハウス従業員を、ビジター球団の投手に滑り止めを売りつけていたとの理由で解雇した。この人物は解雇は不当として裁判中なのだが、その過程においてゲリット・コール(ヤンキース)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)、ジャスティン・バーランダー(アストロズ)らを違反投球の常習犯と名指し。コールが彼の“商品”を求めてきた際のメールまで公表した。コールは17年には2164に過ぎなかった回転数が、2年後は2530となっていて、こちらも「アウト」である疑念は拭いきれない。【後編へ続く】

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 

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