【全日本大学野球】12球団が熱視線を送るドラフト候補!西工大・隅田知一郎が残した特大のインパクト

【全日本大学野球】12球団が熱視線を送るドラフト候補!西工大・隅田知一郎が残した特大のインパクト

九州のドラフト候補ではナンバーワンの呼び声も高い隅田。春の段階で「今年のドラフトでは2位以内で指名される」との噂もあったが、その高い潜在能力を見せつけた。写真:田中研治

連日、熱戦が繰り広げられた第70回全日本大学野球選手権記念大会は、慶応大学の34年ぶり4回目の優勝で幕を閉じた。2年ぶりに行なわれた大会で、選手たちはのびのびとプレーし、躍動した。今秋のドラフト候補生たちも堂々のアピールを見せた。

 初戦敗退で姿を消したものの、今大会トップクラスのインパクトを残し、全国にその名を轟かせた選手がいる。西日本工業大のエース・隅田知一郎だ。西工大は九州地区大学野球連盟北部九州ブロック代表で6年ぶりに全国の舞台に登場。今秋のドラフト候補としてすでに12球団が熱視線を送っている隅田だが、大学ではこれが初めての全国大会となる。だが、隅田は初の大舞台で、その評価を跳ね上げる圧巻のピッチングを披露した。

 全国大会常連の強豪・上武大との1回戦は、緊迫した投手戦となった。隅田はキレのある直球に精度の高い変化球を織り交ぜながら毎回の14奪三振。許した安打も4本のみだったが、0対1で惜しくも完投負けを喫した。その悔やまれる「1失点」を喫した場面が、この試合のハイライトと言っても過言ではない。隅田の野球人生にとっても色濃く刻まれた力と力のぶつかり合い。それは、強力・上武大打線の4番に座るブライト健太との対戦だった。
  ブライトが先頭打者として登場した2回。試合の主導権を握るためにも、ここが上武大打線を抑え込むカギになる。西工大バッテリーは迷わず真っ向勝負を挑んだ。1球目は低めのボール球、2球目は大飛球のファウル。そして3球目に投じた甘く入った真っすぐを左中間スタンドに運ばれた。この先制弾が、結果的に決勝点となった。

「インコース真っすぐを3つ」――前日から武田啓監督、山名浩伸捕手と隅田は作戦を練っていた。「ブライト選手にはインコースに真っすぐを3つ行こう。そこを抑えられたら乗っていけるし、評価も上がるぞ」。武田監督はバッテリーに発破をかけた。2球目にヒヤリとする大飛球を打たれたが、隅田と山名は怯むことなく、インコースに力いっぱいのストレートを投げ込む選択を変えなかった。しかし、それが甘く入ってしまい、本塁打とされたのだった。コースが甘くなったことは悔やまれるが、真っすぐで勝負したことは悔いのない決断だった、と隅田は振り返る。

 この一戦を経て、隅田は「(今の自分の)真っすぐではまだまだ勝負できないと思った」と反省を口にした。確かに、この1球が勝敗を分けることになった。しかし、最速148キロを計測した力のある直球と多彩な変化球で打者を翻弄し、四死球も攻めた結果許した1つのみ。大舞台で見事な投球を披露した。圧巻の14奪三振に関しては「意識していませんでした。気付いたらいっぱい(三振)とっていました」とはにかんだ。
  リーグ戦では上での戦いを見据え、スライダーとスプリットを自ら封印して投げてきた。当然、苦しい場面もあったが、その甲斐あって全国の舞台では投球の幅が大いに広がった。最も自信があるというスライダーを隠してきたことで、神宮ではそれが大きな武器であることを改めて実感した。さらに、チェンジアップには相手打線もまったくタイミングを合わせられなかった。

「変化球は自信になったけど、真っすぐあっての変化球なので、秋に向けて真っすぐを磨いていきたいと思います」と次の戦いへ向けて前を向いた隅田。課題も見つかったが、大きな収穫も手にした一戦だった。

 ここに至るまで、決して楽な道のりではなかった。全国への切符を掛けた北部九州ブロック大会は大混戦だった。日本文理大、別府大、そして西工大の3チームが同率首位となり、優勝決定プレーオフ(巴戦)が行なわれた。そこでも1勝1敗で3チームが並び、再度行なわれた巴戦で別府大、同ブロック9連覇中だった日本文理大に連勝し、西工大が全国大会出場をつかみ取ったのだった。
  隅田は人目はばからず涙して喜びを噛み締めた。「自分がチームを勝たせたい」とエースの自覚を持って腕を振ってきたが、最後は「みんなに助けてもらって優勝できた」と仲間への感謝の思いが込み上げたのだという。その気持ちは神宮のマウンドでも変わらなかった。「自分は神宮に連れてきてもらった側なので」と仲間のために戦った。

 もう一人、勝利を届けたい恩人がいた。それは、今年1月に亡くなった野球部の寮長・岸上誠さん(享年77)だった。厳しさを持ち合わせながらも、常に選手たちの味方でいてくれる心強い存在だったという。「寮長を神宮に連れて行くんだ」とチーム一丸となってスタートした今季。見事、リーグ優勝を果たした際は、岸上さんの遺影も歓喜の輪に加わった。「寮長も神宮で勝つところを見たいと言ってくれていたので、寮長のために全国でも勝ちたかったんですが……また次頑張ります」と隅田。天国で見守ってくれた岸上さんにも、さらなる飛躍を誓った。

 西工大・武田監督は全国で1勝することの難しさを改めて痛感した。隅田をはじめ、2回戦で先発予定だったアンダースローの下山泰輝、主将の前田瑞己らに、入学当時から「お前らの代で全国優勝するぞ」と言い続けてきた武田監督。全国制覇の夢は叶えられなかったが、激戦を乗り越えて6年ぶりにたどり着いた神宮は、監督にとっても感慨深い舞台だった。

 隅田、下山以外の4年生はこの春をもって引退。11月に行なわれる明治神宮大会が、2人にとって西工大悲願の全国大会初勝利を叶えるラストチャンスとなる。秋こそ、歴史を塗り替える。

文●上杉あずさ

【著者プロフィール】
ワタナベエンターテインメント所属。RKBラジオ「ホークス&スポーツ」パーソナリティやJ:COM九州「ガンガンホークス CHECK!GO!」リポーターとしてホークスを1軍から3軍まで取材。趣味はアマチュア野球観戦。草野球チーム「福岡ハードバンクポークス」の選手兼任監督を務める。
 

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