選手への厚い信頼が仇になる可能性も…侍ジャパン金メダルへの最大のカギは稲葉監督の決断力?【東京五輪】

選手への厚い信頼が仇になる可能性も…侍ジャパン金メダルへの最大のカギは稲葉監督の決断力?【東京五輪】

19年のプレミア12では優勝を勝ち取った稲葉監督。今回は金メダルをもたらすことができるか。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

本番を前にしたテストマッチは2試合を戦って1勝1敗。

 この2試合が調整の場だと割り切って考えていたのなら、勝敗は関係ない。重視されたのは結果よりも内容だろう。2試合を見る限り、調整は順調に進んでいると見ていい。

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 中でも期待を感じさせるのは先発投手陣だ。

 1、2戦目の先発山本由伸(オリックス)、田中将大(楽天)の出来栄えは完璧すぎるほどで、先発を想定して1戦目の2番手で登板した森下暢仁(広島)も完璧だった。大野雄大(中日)も安打こそ許したものの危なげなかったし、青柳晃洋(阪神)は失点こそしたが、それなりのピッチングだった。
 
 一方の打線の方も、脇腹の怪我で出遅れていた柳田悠岐(ソフトバンク)を除いてはまずまずの状態だった。充実は3人いるセカンド勢で、山田哲人(ヤクルト)は打線に勢いをつけてくれそうな気配だし、浅村栄斗(楽天)の勝負強さは五輪の舞台でも頼りになるだろう。菊池涼介(広島)の守備力はチーム全体に安心感を与えてくれる。
  坂本勇人(巨人)、鈴木誠也(広島)の代表常連組の落ち着きも素晴らしく、シーズン中の好調をキープしている吉田正尚(オリックス)、飛び道具のある村上宗隆(ヤクルト)、職人・源田壮亮(西武)は活躍の場が随所に見込めそうである。

 五輪では、選手登録枠が24人と少ないことがクローズアップされるが、今大会に限っては試合数が最少で5試合、最大で7試合しかなく、それほど苦労するような予測は立ちようがない。

 選手個々が指揮官の思惑通りに働けば、金メダルはそう難しいハードルではない。課題となりそうなのは、思い通りに戦えなかった時の策をどう講じるかだろう。
 
 テストマッチ2試合はテレビ中継されており、侍ジャパンのデータはおそらく対戦国には筒抜けになっている。特に投手陣の起用法に関しては、相手チームは想定しやすくなったはずだ。打線の方も、どういう布陣で戦ってくるかの大枠は、この2日間のスタメンで明らかになった。各バッターのタイプも分かっただろう。
  2016年、第4回WBCの開催前年の秋に行われたテストマッチで、メキシコ代表が山田と筒香嘉智(現ドジャース)の打席で大胆なシフトを敷いてきた時には驚いたものだ。取材で調べたところによると、二人の打球方向がしっかりと分析されていた。筒香に至ってはゴロのケースとフライのケースと両面まで細かくチェックされていた。

 テクノロジーが発達し、情報も簡単に取得できて、その分析も進んでいる。あれほど大々的にテストマッチを開催したとなれば、対戦国の侍ジャパン対策はかなり進んでいると想定して戦わなければいけない。

 短期決戦でありがちな、特定の選手がブレーキとなった時のフレキシブルな戦い方が稲葉篤紀監督に求められる。

 稲葉監督の指揮官としての長所は情熱だ。2年前のプレミア12では対戦国のほとんどがベストメンバーでなかったにもかかわらず、頂点に立つことを誰よりも欲し、そして、優勝を決めた時には人目をはばからず涙を流した。
  指揮官の熱量は選手への信頼へと昇華して、好循環を生んできた。しかし一方で、選手を信頼しすぎるがあまり、一度決めた起用にこだわりすぎてしまう側面も見え隠れする。エースは田中将大、4番は鈴木誠也、クローザーは山ア康晃、ショートは坂本勇人といった具合に、一度決めてしまうとそこから離れられなくなってしまうところもあるのだ。

 今回の代表選出で、明らかにコンディションに問題を抱えている菅野智之(巨人)や中川皓太(巨人)を選出したのも、その一面だろう(2人は結局、出場辞退を余儀なくされた)。故障明けの千賀滉大(ソフトバンク)を追加招集したことも然りだ。

 2006年の第1回WBCでは、準決勝の韓国戦で不振のため先発から外れた福留孝介(中日)が7回に代打で登場して勝ち越し本塁打を打ったことがあった。第2回WBCでは、クローザーが安定しなかったところにダルビッシュ有(パドレス)を据えたこともあった。短期決戦では、状況に合わせて、随時戦略を変えていかなければいけない。

 先にも書いたように、先発投手陣の充実は今の侍ジャパンの強みだ。ある程度ゲームを作ってくれるだろうが、試合が僅差で推移した時の継投策をどう作り上げていくかは課題になる。今季の状態の良さからいえば、プロ野球記録の39試合連続無失点を樹立した平良海馬(西武)や、新人ながら圧巻の投球を見せている栗林良吏(広島)がクローザー候補だ。その中で、稲葉監督就任以降も代表皆勤の山崎康晃(DeNA)の抑え起用にこだわり続けるかは一つのカギになるだろう。
  鈴木が座る4番にしても、今季の出来の良さでは吉田、勝負強さでは浅村という選択肢もある。どのように打順を組み、また選手個々の調子を見極めながら対応していくか。試合数が少ない中、その決断の成否が優勝を大きく左右するはずだ。
  順当に力を発揮できれば、侍ジャパンが金メダルを逃すことは考えにくい。歴代の代表監督以上の熱さを持った稲葉監督の情の深さが選手のパフォーマンスを引き出し、圧倒的な優勝を遂げるのか、それともかえって仇となってしまうのか。

 28日、ドミニカ共和国戦から、金メダルだけを目指す戦いが始まる。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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