稲葉監督の脳裏に焼き付く“北京の悪夢”。侍ジャパンは負のジンクスを克服できるか【東京五輪】

稲葉監督の脳裏に焼き付く“北京の悪夢”。侍ジャパンは負のジンクスを克服できるか【東京五輪】

前回の北京五輪では優勝候補に挙げられながら、信じられないミスも出てメダルなしという屈辱の結果に終わった。(C)Getty Images

いよいよ28日からオリンピックの野球競技が始まる。稲葉篤紀監督率いる侍ジャパンは金メダル獲得が至上命題とされる一方、いくつか不安の声も聞かれる。特に議論の的となっているのがメンバー編成だ。

 千賀滉大(ソフトバンク)や菅野智之(巨人=辞退)のように、故障上がりや今季調子の良くない選手が何人も選ばれていたことには、「(19年の)プレミア12優勝メンバーを優遇しすぎ、旬の選手を選んでいない」との声が上がった。柳田悠岐(ソフトバンク)のコンディション不良に伴い、センターの層の薄さも指摘された。

 とはいえ、これらの批判は感情的にすぎる印象を拭えない。代表選考は、個人成績表の上位から順にピックアップすれば完了――というようなものではないからだ。稲葉篤紀監督は、自身が実力をしっかり把握している選手を選びたかったのだろうし、国際大会を戦った経験も重視したと考えられる。
  そもそも、今回の出場国のうち、プロリーグでトップクラスの選手を召集したのは日本と韓国だけ。アメリカやドミニカ共和国はMLBがペナントレースを中断していないため、マイナーリーガー中心の顔ぶれだ。普通に実力を出せれば、日本が金メダルを取れる確率は限りなく高い。

 しかしながら、五輪で“普通に実力を出す”のが簡単ではないのも事実。図らずもそのことを証明したのが2008年の北京五輪だった。ダルビッシュ有をはじめ、将来のメジャーリーガー7名を擁するベストの布陣で臨み、星野仙一監督も「金メダル以外はいらん」と豪語していた。

 にもかかわらず、準決勝で韓国に敗れただけでなく、3位決定戦でもアメリカに勝てずにまさかのメダルなし。韓国とアメリカには4試合戦って一つも勝てず、全9試合で4勝5敗と文字通りの惨敗を喫した。

 準決勝と3位決定戦で致命的なエラーを犯したG.G.佐藤には轟々たる非難が浴びせられたが、他にも中日の絶対的守護神として君臨していた岩瀬仁紀も救援失敗が相次ぐなど、予想外の誤算が次々に起きた。それも国の威信を懸けた国際試合という、普段は感じることのないプレッシャーに見舞われたからこそだろう。
  この時、選手として屈辱を味わったのが他ならぬ稲葉監督だった。6月16日の代表選手発表会見で「心の中で『五輪の借りは五輪で返す』と誓ってきた」と語っていたように、稲葉監督の中でも北京のリベンジという思いは相当強い。7月には、星野監督の墓前で金メダル獲得を誓った。

 北京に限らず、オリンピックでの日本代表はほとんど期待に応えられていない。04年アテネ大会も、全員プロ選手で臨みながら格下のオーストラリアに2敗して銅メダル。初めてプロが参加した00年シドニーもメダルに届かず、北京と同じ9試合で4勝5敗だった。韓国と並び、最もオリンピックの野球に力を入れている国でありながら、金メダルは公開競技だった84年のロサンゼルス大会が最初で最後なのだ。

 そして今大会の対戦相手も、メジャーリーガーが参加していないとはいえ楽観はできない。例えばアメリカにはシェーン・バズ(レイズ)のようなトップ・プロスペクトがいるところに、セ・リーグトップのOPSを記録しているタイラー・オースティン(DeNA)、ソフトバンクで7勝、防御率2.03のニック・マルティネスらNPBで活躍中の実力派選手たちが加わる。北京でも、マイナーリーガーばかりのアメリカに2度も敗れている。今回もまったく油断はできない。
  その点はドミニカ共和国も同様。半引退状態の元メジャーリーガーを呼び寄せるなど、いささか寄せ集め感は否めない一方で、メジャー指折りの有望株フリオ・ロドリゲス(マリナーズ)や、巨人のローテーション投手CC・メルセデスもいる。それでなくとも、野球は番狂わせが起きやすいスポーツ。一発勝負のトーナメントで先発投手が好投すれば、格下のチームが勝利を収めるケースは往々にしてある。自国開催ということが、かえって目に見えないプレッシャーになることも考えられる。

 WBCやプレミア12では頂点に立っているものの、五輪では長く優勝から遠ざかっている日本代表。それでも、冷静に見れば日本が大本命であることには変わりない。悪しきジンクスを打破し、オリンピックの正式種目としては最後となるかもしれない今大会を最高の結果で締めくくることができるだろうか。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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