【杉浦大介のNYレポート】期待外れの戦いが続くヤンキースはトレード・デッドラインでどう動く?<SLUGGER>

【杉浦大介のNYレポート】期待外れの戦いが続くヤンキースはトレード・デッドラインでどう動く?<SLUGGER>

不甲斐ない戦いぶりに、ファンからはブーン監督の解任を求める声も出ている。(C)Getty Images

「今季のヤンキースは呪われている」――地元紙『ザ・スター・レッジャー』で健筆を振るうベテランコラムニストのボブ・クラピッシュは7月中旬、自身のコラムでそんな風に記していた。いかにもアメリカの記者らしい大袈裟な表現だが、ヤンキースファンはため息とともに肯くかもしれない。多くの離脱者と誤算に見舞われてきたヤンキースとのその支持者にとって、今季は近年最大級に残念なシーズンになっているからだ。

 7月26日終了時点で、51勝47敗で地区3位。首位に立つ宿敵レッドソックスには直接対決で3勝10敗と大きく負け越していることが響いて8ゲーム差、2位レイズにも3.5ゲーム差をつけられている。開幕前はリーグ優勝候補筆頭に挙げられていたことを思い返せば、期待外れとしか言いようがない。

「つらい負けだ。乗り越えなければいけないが、本当につらい。この1ヵ月半の間、多くの厳しい負けを経験してきた」。25日のレッドソックス戦後、アーロン・ブーン監督はそう声を絞り出したが、この日の負け方は今季を象徴していた。8回まで先発ドミンゴ・ヘルマンがノーヒッターを続け、4対0とリード。しかし、8回裏に初安打を許すと、その後の継投が失敗して一挙に5点を許し、痛恨の逆転負けを喫した。22日には、同じくレッドソックス戦で1イニング4暴投という信じられないミスでサヨナラ負けしている。
  今季、ブルペンが打たれて敗れたゲームは25日で19試合目、セーブ失敗は14度目。無惨な黒星の後、ヤンキースファンのイライラは頂点に達した感がある。この試合を終え、ソーシャルメディア上では「ブーン監督をクビにするべきだ」という意見が、これまで以上に多く見受けられるようになった。

 不振時に非難の矛先が監督に向くのはビッグマーケット球団の宿命だが、ファンの憤りもやむを得ないと感じられる部分もある。以前からブーン監督の采配はデータ偏重に過ぎるという指摘がなされている。実際、硬直的な判断が相次ぐ継投失敗の一因であると感じられるのは事実だ。

 データ分析を重視し過ぎることへの批判はフロントにも向いている。7月中旬、『ESPN.com』のバスター・オルニーは自身のコラム内でこう記していた。

「(ブライアン・)キャッシュマンGMはデータに依存しすぎているのではないか。ヤンキー・スタジアムは旧スタジアムに比べて右打者に優位という分析があるが、今のヤンキースはあまりに右打者ばかりのため、相手チームの終盤の継投を容易にしている」
  アーロン・ヒックスの故障離脱もあって、ヤンキース打線には右打ちのパワーヒッターがずらりと並ぶことになった。このような極端な編成も、結果が伴わなければ非難されるのは仕方ないだろう。

 台頭期はスーパースター候補と目されたグレイバー・トーレス、ゲリー・サンチェスは低打率に喘ぎ、アーロン・ジャッジですらルーキーで52本塁打を放った17年当時の打棒を取り戻せていないこともファンの苛立ちを煽っている。加え、近年のヤンキースはかつてと比べて大型補強に消極的。オーナーのハル・スタインブレナー氏が総年俸をぜいたく税課税ライン以下に抑えたいと考えていることは公然の事実でもある。

 これらの背景が影響したか、最近のヤンキー・スタジアムは一時と比べてかなり熱気が薄れた印象がある。デレク・ジーター、アレックス・ロドリゲスらを擁したスター軍団も今は昔。華やかさが失われ、倦怠すら感じさせるチームに、ニューヨーカーが熱くなれないのは致し方ないところなのだろう。
  このような状況下で、30日に迎えるトレード・デッドラインにヤンキースがどんな動きを見せるかが注目される。本来なら「売り手」に回った方がベターにも思える状況だが、ヤンキースに限ってはやはりそれはあり得ない。ぜいたく税ラインを超えない程度の小幅なてこ入れにとどまるのか、それとも本来のヤンキースらしい思い切った大型補強に乗り出すのか。

「優勝を狙うのに必要な戦力を獲得するためなら、もちろん補強を考える」――7月1日時点で、スタインブレナー・オーナーはそう述べ、今夏も「買い手」になる意気込みを述べていた。ただ、亡き父ジョージと比べ、勝利よりもビジネス優先に見えることが多い現オーナーに、本当に積極的な補強に臨む気概はあるのかは疑問視される。

 地区優勝は難しそうな現状で、しかもぜいたく税課税ラインまではあと300万ドル程度しかない。そんな状況で噂に上がっているトレバー・ストーリー(ロッキーズ)、ジョーイ・ギャロ(レンジャーズ)、スターリン・マーテイ(マーリンズ)といった実績のある選手を獲得に行くのだろうか……?

 26日にはパイレーツから救援投手のクレイ・ホームズを獲得したが、まさかこれで終わることもあるまい。分岐点を迎えようとしているMLB最大の名門チーム。ここでオーナー、フロントがどんな決断をするかで、ヤンキースが向かう近未来の方向性がうっすらと見えてくるだろう。

文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
 

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