右ヒジ炎症のため準決勝を登板回避した近江・岩佐直哉。その決断に過密日程の影響はなかったか<SLUGGER>

右ヒジ炎症のため準決勝を登板回避した近江・岩佐直哉。その決断に過密日程の影響はなかったか<SLUGGER>

山田とともに勝利の方程式を形成した岩佐。右ヒジ炎症のため、準決勝は登板できないまま終わった。写真:塚本凛平(THE DIGEST編集部)

 彼の右ヒジが軽症であることをただ祈るのみだ。

 これまで快進撃を続けてきた滋賀県代表の近江が準決勝で智弁和歌山に力なく敗れた。

 勝利の方程式を描けなかったのだから仕方ない結果と言えるだろう。エースナンバーをつけた岩佐直哉は登板することなく終わった。

 近江の多賀章仁監督は言う。

「準々決勝の神戸国際戦でかなり悪くなったということ。7、8回、球速が出ていなかったので、あの試合でいっぱいいっぱいでした。今日、ブルペンには行かせましたけど、登板はできない状況でした」

 右ヒジが炎症しているのだという。今後、地元に帰ってから精密検査を受けるのだろうが、2回戦で優勝候補筆頭の大阪桐蔭を撃破、強打の盛岡大付や神戸国際大付にも競り勝ったチームだけに、エースが準決勝で登板回避になってしまうとは残念な限りである。

 大会を席巻した勝利の方程式だった。2年生で主軸を打つ山田陽翔が先発して6、7イニングを投げ、その後を岩佐が受け継ぐ。大阪桐蔭戦では序盤に4失点した山田が6回を志願して投げ切ると「岩佐さん任せました」と交代を直訴したほどだ。 山田と岩佐の信頼関係は強かった。

 下級生の山田が勢い良く投げ込むことで流れを作り、それを上級生である岩佐が兄貴であるかのようにしっかり勝利に導く。滋賀県大会から続くこの2人のリレーが、甲子園ベスト4まで続く快進撃の原動力だった。

 岩佐は言う。

「完封リレーはできなかったんですけど、僕たち2人で必勝リレーとして4試合を勝てたことは嬉しかったです。今日は投げたかったんですけど、ヒジが痛くて投げられなかったです」

 周知のように、現在の甲子園大会には1週間500球の球数制限がある。そのため、多くのチームは特定の投手に登板が偏らないようなチーム作りを心がけている。事実、ベスト4進出のチームで、エース一人で勝ち上がってきたチームはなかった。

 今の時代の高校野球に複数投手戦は当然の戦略で、過去「三本の矢」と呼ばれた3投手での甲子園準優勝の実績がある多賀監督も、複数投手の戦い方を熟知していた。 もっとも、肩やヒジの状態は個々の投手によってさまざまだ。どれだけケアを施していても、故障を引き起こしてしまうことはある。

 岩佐の場合、過去にも故障歴があった。今年春の滋賀県大会はベンチ入りしていなかったというから、古傷が再発した可能性もある。

 しかし、この件は近江だけの問題として片付けるべきではないだろう。毎試合登板をさせたことが悪い、故障歴のある岩佐へのケアを怠った、と多賀監督の起用法だけを批判するのは早計だ。

 今こそ、検証が必要ではないか。ましてや今大会は雨の影響で6度の順延があり、もともとあった休養日が削られている。

 日本高野連は健康問題をテーマとしながら、「3連戦の回避」だけに絞り、全体の日程緩和には目を向けなかった。近江がその影響を受けたという見方はできるだろう。

 何せ、近江は2回戦の大阪桐蔭戦から中2日で3回戦を戦い、その翌日に準々決勝。そこから休養日を1日挟み、準決勝に臨んでいた。2回戦から6日間で4試合をこなしている。決勝に進んでいたら、7日間で5試合だったことになる。 岩佐の投球数それほど多くないとはいえ、負けられない試合が続く中で、どれだけの負担がかかっていたかは想像に難くない。

 思えば、今年の春のセンバツで、準決勝に進出した中京大中京のエース・畔柳享丞が右ヒジに痺れを感じて、途中降板したことがあった。今年から本格導入された球数制限に抵触はしなかったが、日程面など不利な状況が畔柳を追い詰めたのではないかという意見は少なくなかった。

 しかし、日本高野連はこの件を「経過観察」として、記者会見すら開かなかった。高校球児がヒジの痛みに耐えかねて降板したのに、だ。

 岩佐の右ヒジ炎症は避けられたのかどうか。

 その検証とともに、日本高野連には真摯な姿勢で会見を開いてもらいたい。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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