【杉浦大介のNYレポート】「9.11」から20年後、かつての熱狂を取り戻したサブウェイ・シリーズ<SLUGGER>

【杉浦大介のNYレポート】「9.11」から20年後、かつての熱狂を取り戻したサブウェイ・シリーズ<SLUGGER>

選手もファンも意地のぶつかり合い。そんなサブウェイ・シリーズが久々に戻ってきた。(C)REUTERS/AFLO

「近年最高のサブウェイ・シリーズ」――そんな呼称も間違いではなかっただろう。9月10〜12日、シティ・フィールドで行われたたメッツ対ヤンキースの3連戦は、ニューヨークのベースボールファンを熱狂させた。

 10日こそ11安打で10点を奪ったメッツの大勝に終わったが、11日の第2戦はニューヨークの人々にとって特別なゲームになった。2001年の米同時多発テロから20年目を迎えたこの日。マイク・ピアッツァ、エドガード・アルフォンゾ、アル・ライターといったメッツOBだけでなく、警察官や消防士など事件現場で人名救助に尽力した人々が招待され、フィールドでその功績が改めて称えられた。

 当時、両軍の監督だったジョー・トーリ、ボビー・バレンタインも始球式に登場。「ニューヨークのすべての人が感情的になる日だ」と話したメッツのピート・アロンゾをはじめ、両チームの全選手が「NYPD」「FDNY」の帽子をかぶってプレーし、ゲーム中は「USA! USA!」のコールが盛んに沸き起こった。
  試合自体も大激戦となった。2回にヤンキースが5点を先制するも、メッツが逆転する波乱の展開。メッツが1点リードで迎えた8回、アーロン・ジャッジのこの日2本目のホームランなどで再逆転したヤンキースが劇的な勝利を収めた。

「楽しかったし、特別な試合だった。ファンも楽しんでくれたと思う。9.11ということもあって、プレーオフの雰囲気だった。この街に喜びをもたらせたことを嬉しく感じている」

 ヤンキース最古参のブレット・ガードナーがそう述べた通り、最後まで息もつかせない展開の末のヤンキースの勝利は、4万3144人の超満員のファンをエキサイトさせるのに十分だった。実際、これほど盛り上がったサブウェイ・シリーズのゲームは久々だったかもしれない。

 筆者がニューヨークに住み始めた1999年頃、サブウェイ・シリーズは文字通りの“お祭り”だった。入場券は正真正銘のプラチナチケット。開催期間が近づくと、地元のスポーツファンの話題はヤンキース対メッツでもちきりになったと記憶している。

 地元のライバル対決から生み出されたドラマも数限りない。ロジャー・クレメンスとピアッツァという看板スター同士の間で、ビーンボールを巡る因縁があった。当時は両チームとも強豪だったため、シーズン中の対戦時から全米的に注目された。迎えた2000年、ヤンキースとメッツはワールドシリーズで激突し、ニューヨークの盛り上がりは頂点に達した感があった。 時は流れ、そんな熱狂も今は昔。1徐々に新鮮味と希少価値が薄れ、もはや毎年開催する必要はないと言う声も聞かれるようになった。それだけに、今年のシリーズが名勝負になったことの意味は余計に大きかったのである。

 12日の3戦目は今後もニューヨーカーの間で語り継がれていくだろう。この日の主役はメッツのフランシスコ・リンドーアだった。開幕から不振に喘いできた遊撃手は2回の3ラン皮切りに3本塁打の大爆発。さらに、ヤンキースのサイン盗み疑惑をめぐりジャンカルロ・スタントンとの間で口論が勃発し、フィールド上に両チームの選手が飛び出す場面もあった。9回裏、一打逆転のチャンスでスタントンが打席に立った際、場内はワールドシリーズ並みの盛り上がりを見せた。最後、スタントンが放ったポップフライをつかんだのはリンドーア。出来すぎの結末だった。

 今回のシリーズを迎えるまで、残念ながらニューヨークの街はベースボールに熱狂しているとはいえなかった。12日のゲームを終えた時点で、両軍ともワイルドカード争いに何とか食らいついている状況。最終的に、ニューヨークの両チームがともにポストシーズン進出を逃す可能性は十分にある。 そんなシーズンでも、いやそんなシーズンだからこそ、メッツとヤンキースのライバル対決が久々に盛り上がったことの意味は大きい。両チームが大観衆の前で激しい戦いを繰り広げ、ファンも熱狂したことで、ようやくニューヨークのスポーツシーンが以前の“日常”に戻ったように感じられたのだ。

 もちろん、ベースボール・シティと呼ばれるニューヨークが本物の熱狂を取り戻すには、まだ時間がかかるかもしれない。それでも、あの悲劇から20年後のアニバーサリーに行われた今回の3連戦は、ファンにベースボールの魅力を久々に思い知らせてくれた。多くのニューヨーカーはかつての盛り上がりに想いを馳せるとともに、来年のシリーズにも期待を寄せているはずだ。

文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
 

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