大谷翔平の「四球攻め」は“差別”ではなく“必然”の選択。偉大すぎるゆえの苦しみ

大谷翔平の「四球攻め」は“差別”ではなく“必然”の選択。偉大すぎるゆえの苦しみ

大谷と勝負しないことは差別なのか? そうとは思えない明確な理由があるように思える。(C)Getty Images

「アジア人にホームラン王を獲らせたくないんだ」「差別だ!」――3日連続で“四球攻め”にあっている大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)。あまりの勝負の避けられすぎに、一部ファンからはこんな声も出ている。

 現地時間9月22日のヒューストン・アストロズ戦では2つの申告敬遠もあって自己最多4四球、翌日の同カードは3四球、そして24日のシアトル・マリナーズ戦でも2つの敬遠を含む4打席連続四球となった。3試合スパンで10四球以上を記録したのは、過去50年間で3人だけ。2003年のバリー・ボンズ、2016年のブライス・ハーパー、そして今季の大谷である。

 大谷は現在、熾烈な本塁打王争いを演じている。6月29日にトップになって以降はずっとリードしていたものの、8月からややペースが鈍ると、9月中旬になってブラディミール・ゲレーロJr.(トロント・ブルージェイズ)とサルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)に抜かされ、現在は両者から1本差の45本の位置にいる。タイトル獲得に向けて1打席1打席が重要になってくる中での“敬遠祭り”。確かに嘆きたくなる気持ちも理解はできる。

 では、大谷は果たして「アジア人にタイトルを獲らせたくない」から勝負を避けられているのだろうか(ゲレーロJr.はドミニカ共和国、ペレスはベネズエラ出身の“外国籍”なのに……)。もちろん真意は分からない。けれども、ヒステリックにならずに冷静に状況を整理していくと、大谷への四球は、ある意味で当然の選択のように思えてくる。

【動画】アストロズもビビった!? 大谷翔平の豪快45号ホームラン
 “敬遠祭り”が始まる前日、大谷は今季45号アーチを含むマルチ安打を放った。もっとも、試合は5対10で敗れており、20日の同カードは0対10で大敗。この2試合とも、大谷は4打数ずつ打席に立っていた。もしアストロズが端から大谷を避けたかったのであれば、この時点で四球攻めをしてもおかしくはないだろう。ではなぜしなかったのか。答えは簡単だ。ゲーム展開的に勝負できる余裕があったからだ。

 しかし、22日の試合は別だ。アストロズは初回に2点を先制したものの、6回まで3点しか取れなかった。さらにこの日の先発ルイス・ガルシアは、大谷に今季2本塁打を許しており、明らかに投げにくそうにもしていた。その中でエンジェルスは7回に逆転すると、アストロズはその後2打席を敬遠。しかし延長12回に4点を入れたことで、“気分よく”6打席目の大谷と勝負して三振を奪った。

 なぜアストロズがここまで勝利にこだわるのか。一部メディアからは「地区優勝が決定的なのに不可解」なる旨の記述がされていたが、なんら不可解ではない。21日の試合を終えた時点でアストロズは90勝61敗、地区2位に8ゲーム差をつけていた。しかし、彼らは地区優勝はもちろんのこと、狙っているのは「リーグ最高勝率」の座なのである。
  メジャーリーグのポストシーズンは、東中西の地区優勝チーム+ワイルドカード2枠で各リーグから5球団が進出できる。地区シリーズは5試合制、リーグ優勝決定シリーズとワールドシリーズは7試合制となっており、勝率の高いチームにホームアドバンテージ=本拠地で多く試合を行なう権利がある。

 果たして、21日の試合を終えた時点で、アストロズの勝率.596はタンパベイ・レイズ(東地区)の.612に次ぐリーグ2位。1試合レイズが多いものの、勝利数は3つの差があった。そして9月28日からレイズとの3連戦が組まれており、この時までに限りなく差を縮める、ないし離されてはいけない事情があったのだ。となれば、弱小エンジェルス相手に大事な白星を落とすことなどあってはならないのである。

 では、エンジェルスに勝つ簡単な方法は何か。もうお分かりだろう。「球界最高クラスの打者である大谷とまともに勝負しなければいい」である。

 大谷の後ろを打っているフィル・ゴスリンは今季96試合で7本塁打、OPS.697。はっきり言うと、よっぽど守備が良くない限りは強豪チームで中軸を打つことなどほぼあり得ない打力である。大谷に長打を打たれるリスクとゴスリン、ないし他のエンジェルス打者と比較した時、明らかに前者の方が危険度は高い。そう判断されているわけである。
  マリナーズが勝負を避けたのも、基本的には同じ理由だ。ただ、アストロズよりもこちらの方が“必死”になる事情もある。

 今季もマリナーズの下馬評は高くなかったが、意外な躍進を遂げ、珍しくこの時期までプレーオフ争いを演じている。最後にプレーオフに進出したのは、イチローの移籍1年目の2001年までさかのぼり、以降はほぼかすることもない。ブランク19年は現在ダントツのワースト記録であり、やはり彼らもとにかく勝ちに来ているのである。

 昨日も、大谷の四球がなぜ増えているのかについてデータ面から考察した。要約すると、本来は大谷の後ろを打っていたメジャー最強打者のマイク・トラウトが長期離脱してプロテクトできなくなったこと。そして、大谷自身もまたシーズンを通してボール球の見極めが改善しており、打者として成長したことが四球増加につながったと言及した。
  例えば23日のアストロズ戦、この日も3四球で表面的には明らかに勝負を避けたように見える。しかし、内実は少し違う。三振に終わった1打席目を含めて、全4打席はすべてフルカウントだった。確かにアストロズバッテリーがかなり警戒していたことは事実でも、大谷自身が際どいコースをカットし、見極めてもぎとった四球だった。

 24日のマリナーズ戦も、大谷は1打席目に三振に終わると、3回は2死ながら二塁に走者を置いた場面で打席が回ってきた。そして1球目、チェンジアップを見極め、2球目のカーブも外れたところで敬遠された。5回の第3打席、カウント1−2と追い込まれながらも、相手の決め球に釣られることなく四球を記録。7回もカウント1−1からボール3つを見極めた。そして最終9回も、2つのボールに反応することなく、相手に敬遠を“選択”させた。
  並みの選手だったら、いつ三振してもおかしくない場面で、大谷は完璧に四球を選び抜いてきているのだ。しかも、これだけ警戒され、また本塁打を打ちたいという自身のはやる気持ちも制御しながら。選球眼の良さはもちろん、メジャーのスカウティング評価でいう「Discipline」、つまり規律を持ったアプローチの賜物が、過去50年間で3人だけという偉業につながったのだ。

 2003年のボンズはこの年61敬遠、148四球を記録し、翌年は120敬遠(!)、232四球(!)、出塁率.609(!)とひたすら勝負を避けられ続けた。そして2016年のハーパーは、前年に最年少で満票MVPを受賞し、この時も記録達成時には出塁率.432、OPS1.054をマーク。1試合3敬遠を含む6四球されたのも、今年の大谷と同じように後続が弱かったからでもあった。

 ボンズはMVPに歴代最多7回輝き、ハーパーも受賞者である。そして大谷も、彼ら2人と同じようにMVPを獲得する可能性は非常に高い。3試合で11四球の快挙は「差別だ!」と証拠もなく騒ぎ立てるよりも、今シーズンに数々の伝説を残してきた大谷を“彩る”記録として、称賛したいものである。

構成●新井裕貴(THE DIGEST編集部)
 

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