ヤクルト優勝を語るなら「この試合」! 神宮ヤクルト主催試合5年間皆勤賞のライターが選ぶ“至高の5試合”<SLUGGER>

ヤクルト優勝を語るなら「この試合」! 神宮ヤクルト主催試合5年間皆勤賞のライターが選ぶ“至高の5試合”<SLUGGER>

見事リーグ優勝を果たしたヤクルト。数々の名場面が生まれたなか、優勝を語る上で欠かせない試合は何だったのか。神宮観戦を欠かさない筆者が5つ選んでくれた。写真:山手琢也(山田・高橋)、滝川敏之(奥川)

10月26日、ヤクルトが6年ぶり8度目のリーグ優勝を決めた。開幕3連敗とスタートダッシュを切れなかったが、後半戦に驚異的な追い上げを見せ、141試合目にして栄冠にたどり着いた。そのうち76試合を現地で観戦した筆者が、『優勝を語る』うえで特に印象に残った試合を5つ紹介したい。 

【後半戦の立役者・奥川恭伸の覚醒】 
・6月20日/中日戦/〇ヤクルト 2−1 中日● 


 2019年ドラフト1位・奥川恭伸の覚醒が、後半戦の驚異的な勝率、ひいては優勝に大きくつながったことは言うまでもない。それを強く印象付けられたのが、この試合だった。中日の先発・勝野昌慶に7回2死までノーヒットに抑えられていた重苦しい試合展開。しかし、奥川も負けじと7回を無失点に封じ込める。その裏、代打・宮本丈の初安打に代打・川端慎吾の2ラン本塁打のわずか2安打で逆転し、奥川が3勝目を挙げた。 

 どうしても代打2人の活躍が語られるが、実は、先発の奥川が7イニングを初めてクリアした試合でもあった。また、初めて無失点でマウンドを降りたのもこの試合。期待のエース候補はここから9試合連続QS(6回以上を投げて自責点3以下)、54.1イニング 
連続無四球の快進撃が始まっていった。 

【動画】感動をもう一度! ヤクルトがリーグ優勝を決めた瞬間をプレーバック【“勝負の6連戦”と感じさせたブルペンワーク】 
・10月5日/巨人戦/〇ヤクルト 3−2 巨人● 

 
 この週から3位・巨人、2位・阪神との6連戦が始まった。その初戦は6回を終えて3対2と1点リードで終盤戦の攻防に突入し、7回からは今野龍太、清水昇、マクガフが無失点でしのぎ逃げ切り勝ち。絶好のスタートを切ったのである。 

 いつも通りの展開だが、この試合は7回以降も”表”、すなわち勝ちパターンが登板している時も田口麗斗や大下佑馬がブルペンで投げ込んでいた。ブルペンの見えない他の球場では分からないものの、神宮球場では見られない運用方法だ。 

 信頼して送り出している勝ちパターンといえども万が一がある。それに備えていた。この週が優勝へ向けた山場なんだ、とブルペンワークからも読み取れた。この1勝から始まった勝負の6連戦を5勝1敗で乗り切り、優勝への地盤を固めていった。 


【これぞキャプテン! 山田哲人の絶妙なタイミングでの声掛け】 
・10月20日/阪神戦/△阪神 0−0 ヤクルト△ 


 勝ちに等しい引き分け、とはまさにこのこと。天王山と位置づけられた阪神との甲子園2連戦。2連勝でヤクルトの胴上げが決まる一方、2連敗なら0.5ゲーム差に迫られる。その大事な初戦を奥川恭伸で落とし、2戦目は絶対に負けられない戦いだった。ヤクルト・高橋奎二と阪神・ガンケルの投げ合いは息詰まる投手戦で進んでいく。 

 両軍無得点で迎えた5回、4回までノーヒットピッチングだった高橋が連打を浴びて無死一、二塁とピンチを招く。すると、1点が命取りになりそうなガンケルの出来を汲み、このタイミングで二塁から山田哲人が高橋へ声かけに。これで落ち着きを取り戻した高橋は後続を打ち取って無失点で切り抜け、スコアレスドローで貴重な引き分けに持ち込んだ。振り返れば、キャプテン山田の声かけが勝負を分けたシーンだった。 
 【塩見泰隆の痛恨のトンネルにもチームは崩れず】 
・10月21日/広島戦/●ヤクルト7−11 広島〇 


 甲子園2連戦を1分1敗で終え、マジック3で本拠地・神宮球場に戻ってきた。広島に先制されたものの、ビッグイニングを作ってエース・大瀬良大地を攻略。6対3と3点リードで終盤戦に突入した。しかし7回、無死一、二塁から宇草孔基に遊撃の横を抜ける痛烈な打球をセンターへ飛ばされる。満塁のピンチ……かと思われた。 

 だが、猛チャージした塩見泰隆が痛恨の捕球ミス。打球は無人の左中間を転がっていき、打者走者の宇草まで生還する実質的なランニング本塁打を献上してしまった。同点となった後も広島の攻撃を食い止めることができずこの回7失点を喫し、敗戦を喫した。観客席の静まり返る様子は、いつもの敗戦とは明らかに違うものだった。  

 塩見の捕球ミスは、1986年のワールドシリーズ第6戦で生まれた“世紀のトンネル”が頭をよぎった。シリーズ成績を3勝2敗で王手をかけたボストン・レッドソックスは、68年ぶりの世界一までアウト3つまで迫っていた。しかし、一塁手のビル・バックナーが後逸してサヨナラ負け。続く第7戦も敗れ、レッドソックスの悪夢は2004年まで続くことになった。 

  あまりに痛すぎるミス。その後の試合にも大きな影響を及ぼしかねなかった。それでも、高津臣吾監督は「負けること、ミスを恐れてグラウンドに立つなんて絶対にしてほしくないし、全力でプレーしてくれたらそれでいい」と試合後に檄を飛ばした。これでみんな吹っ切れた。 
 【原樹理が石川雅規に見えた日】 
・10月24日/巨人戦/〇ヤクルト 6ー4 巨人● 


 ヤクルトは後半戦に入ってから初の3連敗と、マジックを点灯させてから足踏みをしていた。一方の阪神は順調に白星を積み重ねている。万が一、この日も負けると優勝に暗雲が立ち込める重苦しい雰囲気。そんな大事な試合で輝いたのは先発の原樹理だった。投げては6回途中3失点、打っては走者一掃の適時二塁打で3打点。二塁ベース上では両手でガッツポーズを作り感情を爆発させた。これでマジック2とした。 

 前回の優勝時にマジックを点灯させた試合(2015年9月27日の巨人戦)で、石川雅規が投打に輝きを放った試合を思い出した。当時の石川、そして今回の原もともに前回の優勝直後のドラフト1位(石川は自由枠)という共通点がある。優勝直後にもっとも欲しいと思われた投手が優勝を手繰り寄せた。そのストーリーがたまらない。 

【著者プロフィール】 
かつた・さとし/1979年生まれ、東京都出身。人材派遣業界、食品業界で従事し30代後半で独立。プロ野球、独立リーグ、MLBなど年間100試合ほど現地観戦を行っている。2016年から神宮球場でのヤクルト戦を全試合観戦中。 
 

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