真の狙いは“伝統的監督像”の打破?日本ハムは新庄剛志新監督に何を期待しているのか〈SLUGGER〉

真の狙いは“伝統的監督像”の打破?日本ハムは新庄剛志新監督に何を期待しているのか〈SLUGGER〉

昨年秋にはトライアウトに参加して注目を集めた新庄氏。監督としても何かと話題を集めそうだ。

「新庄剛志が北海道日本ハムファイターズの新監督候補に浮上――」とのスポーツ紙の報道が出た際、失礼ながらいわゆる“飛ばし”記事ではないかと疑った。

 それには二つの理由がある。一つは、東京オリンピックで金メダルを獲得した稲葉篤紀監督の就任が既定路線だと、かねてから見られていたこと。そしてもう一つは、自由奔放で常識にとらわれない新庄ほど「監督」のイメージからかけ離れている人物はいないからだった。

 だが、報道は“飛ばし”ではなかった。10月29日、新庄の監督就任が正式に発表された。札幌ドーム元年の2004年に日本ハム入りし、チームを変えた男が、ドームを本拠とする最後の年に指揮を執るわけだ。また、ファイターズOBの監督は02年の大島康徳以来20年ぶり2人目となる。

 大方の予想を覆し、稲葉が監督ではなくGMに就任したのは、一部選手からの反対があったからとも言われている。ただ、それが事実であったとしても、新庄を監督に選ぶ理由にはならない。ファイターズは一体、新庄のどこを評価して指揮官に迎えたのだろうか。
  どの報道でも一致しているのが、新庄を抜擢した動機を「人気取り」だとみなしている点だ。現役時代は言うまでもなく、引退後もバリ島での移住生活などで注目を浴び続け、昨年秋に現役復帰を試みトライアウトに臨んだ際も、参加者の誰より関心を集めた。

 ここ5年間でBクラス4回と低迷しているだけでなく、中田翔(現巨人)の暴力事件や差別的動画などで、イメージが大幅に損なわれたファイターズ。人気回復を目指すには、「新庄監督」は手っ取り早い解決手段であり、そうした面で期待されているのも間違いない。この数日間の報道量だけでも、その宣伝効果が抜群に高いことを改めて実感しているだろう。今年のチームを取り巻いていた湿っぽい空気はすでに一掃され、新庄効果は早くも現れている。もともと監督の条件としてファンサービスに熱心であることを求めるチームであり、その点も新庄は合致している。

 しかし、本当にそれだけの理由で監督を決めるほど思慮が浅い球団とも思えない。「(新庄は)みんなが思っている以上に理論もしっかりしている」(栗山英樹前監督)という声もある。また、戦力面への波及効果も考えられる。例えば、FA資格を取得している梅野隆太郎(阪神)が、同じ福岡県出身の新庄に魅力を感じ、移籍先候補として日本ハムを検討することだってあり得なくはない。
  ただ、ファイターズの真の狙いはもっと別のところにあるようにも思える。彼らは新庄を起用することで、伝統的な監督像を打ち壊そうと目論んでいるのではないか。

 日本球界における監督は、その采配の良し悪しによってチームの成績を大きく左右する存在と考えられている。三原脩、水原茂の時代から近年の野村克也まで、ずっとその認識は変わらない。だからこそ指導者経験が皆無である上、知的なイメージがあるとも言えない新庄を監督とした理由が、勝敗に重きを置かず人気取りに走ったのだと捉える見方が少なくないのだろう。

 けれども、本当に監督の采配能力はそこまで大きな影響があるのだろうか? こう言っては何だが、過去に日本シリーズを何度も制していても、采配に疑問符がつく監督は何人も思い浮かぶ。そもそも監督の仕事とは、実戦における用兵・采配に限定されるものではない。細かい作戦は配下のコーチがしっかりしていれば十分で、監督自身が特別切れ者である必要はない(その意味では、ヘッドコーチの人選はカギになりそうだが)。
  すでにメジャーリーグでは、そのような監督が大勢を占めている。権威を振りかざして自分のやり方を押し付けるようなタイプは、もはや受け入れられない。相手の裏をかくような戦術を編み出すより、ポジティブなムードを作り、選手の士気を高めて本来持っている能力を十二分に引き出す指揮官こそが、現代の理想的な監督像とされているのだ。

 日本でも少しずつその傾向は進んでいるが、まだ主流ではない。だが12球団の中でもとりわけメジャー志向が強く、フロント主導でチーム作りを進める日本ハムなら、そのような意図で監督を選んでも不思議はない。というより、積極的にそうした人選をするチームなのだ。

 そして新庄ほど、古典的な監督像を打破するのにうってつけの人材はいない。元メジャーリーガーであり、本人もそうしたシステムは馴染みがある。ジャイアンツ時代にプレーしたダスティ・ベイカーが、まさにこの系譜に連なる監督であって、そのベイカーは今年、アストロズを率いてワールドシリーズを戦っている。

 振り返ってみれば、11年に栗山監督が就任した際も、やはり「指導者経験のないタレント監督」(ニュース番組でキャスターをしていたため)と否定的に見る向きが少なくなかったが、就任1年目からリーグ優勝を果たして批判を封じ込めた。戦力的に見て、来年すぐ優勝争いに食い込む可能性は低いだろうが、新庄が監督として成功を収めた日には「新庄的な指揮官」が新たなトレンドになるかもしれない。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 

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